ある大手流通業の営業政策執行役員と話をしてきた。
彼の会社は他の流通業と同じく大きな課題をいくつも抱えている。
彼は課題を集め、整理し、ソリューションを導き出すのが役割であった。
15分ほど私が話をした後に、彼は一方的に課題とソリューションを語りだした。
私は、顧客政策の話を求められていると思っていた。しかし、彼がまくし立てた課題とソリューションは顧客政策の話ではなかった。
彼は、課題をいくつかに整理した。
一つは、購入後のインターバルが長い商品を販売した後につなぎMDをどうするかを検討させているといった。つなぎMDは重要な戦略になると語った。
二つは、購入する時は必ず、当社から買ってもらうためにライフステージをベースとしてあらゆる商品、つまり、アパレルもファッション雑貨も、美容・健康食品も、ファッション雑貨も品揃えしなければならないと語った。
三つは、商品の品質管理をもっと厳しくしなければならないと語った。
四つは、商品群を柱立てし、それぞれを徹底してシェア率を上げていく施策を取るのだと語った。
五つは、タイアップビジネスも展開しなければならないと語った。
放置しておけば、まだいくらでも課題というべき「もぐらの頭」は飛び出しそうであった。
私は、半ばあきれ返りながら話をさえぎった。
「つなぎMDなんてものは仕組みとして存在はしません。それは売る側の論理です」
この人はマーケティングを体系だって整理する力がない。だからクローズアップする課題を次々と並べ立てて課題のもぐらたたきを行なっているにすぎない。
この人が私に話したことは、とうの昔に百貨店の人がやってきたことだ。
このメールマガジンは百貨店の人もたくさん読んでいる。そんなことで経営が改善できるのなら百貨店はとうの昔に経営改革されていると笑って読んでいるに違いないのだ。
この人の話には「顧客」が一言も出てこなかった。
例え話の一割でも、「顧客政策」という言葉が出てくれば救われたのだが、顧客政策の話は一つも出なかった。
私は彼の話をさえぎって次のように話をした。
「商品が自動的に売れるのではありません。顧客が商品を買うのです。
顧客と商品の多接点化が進んでいる現在、あなたのソリューションは、たらいの水をかき回すだけで、それを実行しても、売り上げ回復にはつながりませんよ。
御社は顧客ターゲティングをどう進めているのですか。ターゲティングした顧客をいかに育成しようと考えているのですか、そのシナリオはどう考えているのですか。顧客と関係構築を展開するビジネスプロセスをどう定義しているのですか。
顧客と関係を深めるツールをどう考えているのですか、・・・・・。
商品政策と顧客政策はクルマの両輪です。片輪ではクルマは走りません」
彼には残念ながら顧客ターゲティングの意味さえもわからなかった。
あるのは過去に、商品が売れた時代の成功体験だけであった。
彼は言った。「ですから、私は部下にいままでのやり方を捨てろといっているのです。過去の成功体験にあぐらをかいてはいかんといっているんです」
顧客と商品の相関関係をITで行なおうとする動きがある。
リコメンドエンジンをブラッシュアップして、トランザクションデータが入るほどに、どのような顧客は何を買って、その次に何を買うということをITで検証しようとする試みである。
私はある一定の関心があってその技術を開発した会社と関係を維持している。
しかしだ。ITでそのような顧客を適切に抽出して、当該顧客にパンフレットを送付しても、企業側の論理で狙い撃ちした商品を、顧客はそのまま鵜呑みにして買うとは思えない。
買うためには、顧客がその商品を購入しようと心を動かすためのアクションが必要になる。
それが、「関係」なのである。
どの顧客にどのような関係を継続するか、その成果としてどのような製品を購入いただけるか。
手始めの「どの顧客」の選定こそが、顧客ターゲティングである。
大手流通業の執行役員が語る五つのソリューションを再掲しよう。
一つ、購入のインターバルが長い商品のつなぎMDを導入しても顧客との関係施策が出来上がっていなければ顧客は買わない。
二つ、購入するときは当社から。顧客との関係が出来上がっていなければ実現しない。
三つ、商品の品質管理とマーケティングは別個のものである。
四つ、商品の柱立てを図っても売れるとは限らない。それは商品群の整理に過ぎない。
五つ、タイアップビジネスで売れるほど顧客は甘くない。顧客は自分が好きな商品を購入したい場所から購入する。
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