例えば三越と伊勢丹の話題であるが、私にはなぜ両社から経営統合の話が起こるか理解できないでいる。
異なる百貨店が統合し両社がイーブンで得られるメリットを考えてみよう。
1.同仕入れによる仕入れ量の拡大から仕入れコストをわずかに低減できること。
2.事交流ができること。
両社が平等に得られるメリットを考えると、私はこの二つしか考えられない。
両社の顧客層は全く異なる。したがって伊勢丹のMDは三越では通用しないし三越のMDは伊勢丹では通用しない。三越の顧客像は熟年層で富裕層が多く、伊勢 丹の顧客層は若者が多い。当然商品が異なる。例えば既製品で高級ワイシャツを購入しようと日本橋三越に行くと、十分に満足出来るシャツを買うことが出来る。ところが新宿伊勢丹では熟年である私が満足できるワイシャツはない。
若者は高級ワイシャツを着ないから置いていない。伊勢丹からすればアクアスキュータムがあるというかもしれないが、三越で買うLANVANのシャツは高いけれど素材が良く実に着心地がよい。
一方ビジネスカバンでは伊勢丹の品揃えは良い。でもこのカバンを三越に置いても数は出ないだろうと思う。顧客層が違うからである。
すると両社の共同仕入れ効果が生まれにくい。イーブンで得られるメリット1の共同仕入れ効果は、あまりないのではないかと思えるのだ。
次にメリット2の人事交流だが、両社の風土は全く異なる。三越は1673年日本橋に開店した越後屋から330余年の歴史をスタートさせた老舗であり、一方伊勢丹は1886年、神田に伊勢屋丹治呉服店として開店した老舗である。
三越は1904年にデパートメントストア宣言をして日本初の百貨店となったが、伊勢屋丹治呉服店の開店からわずか18年後である。
例えば日本橋三越に行って男性社員の歩き方を見て欲しい。彼等は肩を全く動かさずにソシアルダンスのウオークに近い腰を中心にして歩く優雅な歩き形が身についている。社員は三井財閥系企業に共通の上品で、伝統的で、誇り高いアイデンティティを持っている。
神田から日本橋は目と鼻ほど近い距離にある。たくさんの顧客を抱えて賑わう三越を横目で見ながら、伊勢丹はいつか我が社も三越のようになると思ったという。
しかし三越の顧客力には勝てない。そこで当社は商品力を磨くと言った伝説は業界の誰かから聞いた話で真偽の程は分からないが、伊勢丹も小菅創業者家が事業 から外れたなど紆余曲折があったが、全社員が一丸となって商品力と商品の見せ方の技術(VMD)を磨いて、それらを伊勢丹力としていった話は事実である。 それに伊勢丹はあらゆる定義をかさねた。例えば売り場を伊勢丹はお買い場と言う。会社が売る場ではなく、顧客がお買いになる場であるという風にである。こうした定義を隅々まで行なったものだから思想がぶれない。
このようにして両社の顧客層が違う。MDが違う、したがって戦略が異なる。さらに企業の生い立ちが違う、育ちが違う、風土が違う。こうした両社の人事交流が機能するのかという疑問が生じる。
その上、百貨店ビジネスはエリアビジネスだから、経営力はエリアがもともと持つ力や、立地条件、建物面積、建物内外装美観などに左右される。この競合条件は経営統合力だけでは解決しない。
建物内外装を整備するには膨大な投資が必要となる。経営統合をして資金が調達でき、たくさん抱える店舗のリニューアルをどこまで実現できるかは疑問である。
以上はイーブンの条件での話である。
イーブンではない統合となると、今の力学から言えば伊勢丹の経営力を以って伊勢丹が三越の経営改善をすることになるのだが、伊勢丹が、富裕熟年層を顧客に 持ち、富裕層にあわせたMDをしている三越に、伊勢丹のMDを持ち込んでも通用するはずがなく、三越の上品で、優雅で、序列を重んじ、伝統的で、誇り高い 風土をもつ巨大な企業と社員をどのように改善をするという
のか。伊勢丹の双子を作ろうとするならそれは三越の顧客から見れば改悪である。
この経営統合構想は両社にとって、どのようなメリットが生まれるのか、私のぼんくら頭脳では皆目わからないでいる。
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