【2009.08.28配信】
資生堂が2006年4月から1万人もいるビューティーコンサルタント(美容部員)の目標売上げを撤廃しております。今週のテレビでご覧になった方も多いと思います。
私の次の著書(本年10月発行予定)にカスタマープリンシプル企業として資生堂さんをご紹介することになっています。
その取材を近々行いますが、事前に調査をいたしましたところやはり圧巻は営業職が目標ノルマをもたないということです。
資生堂は大正10年に初代社長の福原信二氏が『品質本位、共存共栄、消費者、堅実、徳義尊重』の五大主義を発表しています。
資生堂のCSRで、ステークホルダーのうちお客さまに対して、「100%お客さま志向のものづくり」、「お客さまとのコミュニケーション」、「お客さまの声を社内で共有」、「お客さまの声を反映した商品作り」、「ユニバーサルなデザインへの取り組み」の5項目を挙げています。
そしてステークホルダーのうち社員に対して「資生堂では『100%お客さま志向の会社に生まれ変わる』ための改革を進めています。その鍵となるのが、お客さまの声をもとに生み出された商品に最後の新たな価値を吹き込み、その価値を直接お客さまに伝えることのできる約1万人のビューティーコンサルタント(以下、BC)の活動改革です。
この一環として、2006年4月よりBCの売上目標をなくし、お客さまの接客や応対に対する満足度によって評価をする仕組みを導入しています。お客さまからいただいた声は毎月一人ひとりのBCにフィードバックされ、BC自身の活動の振り返りや課題への気づきを通じ、応対レベルとお客さま満足のさらなる向上につながっています。
「今日、何人のお客さまに美しくなっていただくお手伝いができたか」「応対や接客はご満足いただけたか」。日々、お客さまの満足と信頼を高めていくことを全社員の活動目標とし、一丸となって取り組んでいます」と、高らかに宣言をしています。
資生堂では目標売上げを撤廃したとしても、BCは販売しなくても良いということではありません。やはり会社として掲げている売上目標はあります。したがってBCには目標とする売上げは存在しますが、会社は目標売上金額という成果を評価しないということです。
顧客の価値は。美しくなりたい。その実現に向けて肌や容貌に合う最適な化粧品を見つけて化粧の技術を学びたいところにあります。そんな顧客に対して売り込むのでは、顧客は逃げてしまいます。目標売上金額と達成している売上金額の差があるほどに、BCは売り込みに精を出すことになると思うのです。
しかしそれは逆効果です。売ろうとすればするほど顧客は引きますから。
そこで資生堂は売り込みのプロセスを撤廃して、顧客に対して親身になり、顧客にASKすることで顧客が探している美しさを発見し、それを実現するためのプロセスを作り上げたのです。
カスタマープリンシプルの考えに沿って語れば、BCは顧客と信頼関係を構築してASKを行い、顧客の価値を発見し、確認し、価値を実現して差し上げさえすれば、顧客自らが、購入プロセスを推し進めてくれるという考え方にたどり着きます。
振り返るといまのSFAはすべてが売り込みのプロセスを搭載しています。企業の都合で作成した売り込みのプロセスを進めても売れるか売れないかは分かりませんし、またそのプロセスを可視化できたところで受注をすることを第一に考えると、意味はないことです。
資生堂は、本物の営業プロセスは何かをつかんだのです。売り込まなくても顧客の価値を実現できれば、プロセスは着実に契約に向かって進んでいく、いや、顧客からこれをくださいと言ってくれることを知ったのです。
そうなるとこれまでのような、ノルマを与えてプロセスを厳しく管理するなど意味のない、むしろ害ある存在として映ったのです。だから自信を持ってBCから目標ノルマを撤廃したのです。
この考え方はまさにカスタマープリンシプル活動そのものです。
資生堂は経営四要素体制で顧客に対する理念を確実に行動に移している数少ない企業と思います。
カスタマープリンシプル活動を目指す企業にとっては暗闇で航路を見失いがちな船舶にとって灯台のような存在の企業だと思います。
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