これまで百貨店の事例で顧客育成の話をしてきたが、次に自動車販売会社にとっての顧客育成とはどのようなものであろうか。考えてみよう。
まずは背景から。
国内の自動車販売台数は、年間400万台を前後してほぼ高原状態となって年度によっては400万台を割り込み、伸びていない。
クルマは平均値では新車を購入すると次の買い替えまでに7年以上の年月を要するようになっている。
自動車販売業では顧客育成とは、次期にクルマを乗り換えるときにはまた当社が販売するクルマを購入いただく顧客に育てること。いわゆるリピートである。
例で語ろう。
国内に営業拠点100店舗あって、一拠点あたりセールスマン10人体制で運営している自動車販売会社があったとする。一人のセールスマンは月平均5台を販売する。すると5台×10人で50台のクルマが一拠点で月間販売される。100店舗では5000台の月間販売台数になり、年間では6万台のクルマが販売される。7年後に再購入するとなると、100拠点から送り出されているクルマは42万台に及ぶ。この自動車販売会社では毎月5000台の買い替え需要が発生する。
リピート率が50%なら、2500台は既納客からの注文になるが、買い替えが発生した5000台を販売しようとすると残りの2500台は他社の顧客を剥がしとることになる。
もし顧客育成シナリオが動いて、その結果リピート率が50%から60%にアップすると2500台は3000台にアップになり500台×250万円で月間12億5千万円の契約が比較的簡単にできることになる。
比較的簡単とは、顧客育成シナリオが動いていればの前提である。
既納客に対してのアプローチは自動車メーカー各社とも趣向を凝らしている。メーカー換算で計算するとリピート率のアップは死活問題にまで関係してくることがわかる。
例えば1000拠点を持っている自動車メーカーでは、一台単価を250万円とし、一拠点10人のセールスマンとするとリピート率の10%アップは年間1500億円の売上げをたやすく手にすることができるのだ。
そこでメーカーは趣向を凝らしているのだが、その実態は根性論とエモーション論が大部分である。
一年に何回訪問をしろ。コンタクトを取れ。という根性論から、奥様の誕生日に花束を贈るというエモーション系まで、メーカーによりそのコンテンツはさまざまで、複雑なシナリオを持っている企業もあるが、大別するとセールスマンを叱咤激励しながら顧客にコンタクトを取る手法と顧客に感動を与えるエモーション系の二つがその大部分なのである。
自動車メーカーにとって顧客育成は極めて重要な経営課題である。年間販売台数が400万台を上下し、伸びていない状況では、既納客に再度自社のクルマを購入していただくことが一番たやすくシェアを確保することであり、他社の顧客を自社の顧客にするコストより大幅に安いコストで確保できる。ここにもっと力点をおかなければいけない。
それでは自動車販売会社にとって優良顧客像とはどのようなものだろうか。考え方を列挙してみよう。
次回も当社のクルマを購入してくださる顧客。
安いクルマより利益の厚い高額車を購入してくださる顧客。
複数台を購入してくださる顧客。
購入するお客様を次々と紹介してくださる顧客。
次の購入まで頻度が短い顧客。
優良顧客の定義もメーカーによってまちまちである。
セールスマンからすれば新しいお客様を紹介してくださる顧客が一番よい顧客であろう。
どの車種を選ぶかはお客様自身が決めることでそのことは優良顧客に適合しない。優良顧客とは車種を問わず幾台も購入してくださる顧客のことだと定義するメーカーもある。
けれどもどのような顧客が優良顧客なのか、どのような顧客を育成することがベストなのかを考えるとおのずと答えは決まってくる。
まずはリピートをする顧客を育成すること。次回も当社のクルマを購入いただく顧客に育成すること。このことが基本である。
話しを戻そう。
平均すると一度購入したら以降7年間は購入しないクルマの所有者に対してどのように顧客維持育成シナリオを回したらよいのか。
根性論を振りかざす自動車メーカーでは1年に数回にわたる顧客へのコンタクトを義務付けている。それを実現するとなると7年間に年間60台販売した平均的なセールスマンでは420人の顧客を持っていることになる。これらの顧客に年間4回コンタクトを取ったとすれば1680回のコンタクトを年間に取ることになる。
こうしたコンタクトを顧客に感動を与えるとしたら、シナリオを描いて自動展開する方法しかないのだ。顧客に感動を与えるシナリオとはなにか。
課題は大きいのだ。
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