いままでのCRMの歴史から振返ると、店舗系、ネット系、通販系のCRMは存在しなかったことになる。強いて言うならFSP(フリークエンシーショッパーズプログラム)だけである。
FSPは、スーパーマーケットなど頻度が高い流通業に向けたプログラムで、提案者はブライアン・ウルフ氏である。
ウルフ氏が書いた顧客識別マーケティング(ダイヤモンド社)はワントウワンマーケティングの後に出てきただけに、日本でも注目されてITベンダーが来日を要請し各所でセミナーが開催された。
私も縁があって、会食やセミナーの共演をしたことがあるのだけれど、この考え方は日本では絶対に受け入れないとブライアンウルフに断言した。彼はナンセンスと言って両手を広げて首をつぼめた。
私が主張したあらましはこうだ。購入頻度が高い顧客を優遇しなければならない。そこで頻度が高い顧客の会員カードをレジでキャッチすると、この優良顧客が購入した商品価格を値引きするべきだというシステムプログラムである。
この話にITベンダーが乗って、多くの企業がFSPシステムを作って販売した。
私はこの国のITベンダーのセンスはどうなっているのか不思議でたまらなかったことを覚えている。常識で考えればわかることだ。上位20%で80%の売り上げを作っている。その上位20%の顧客が購入した商品の価格をレジで下げる。下げた分だけ確実に利益が下がる。仮に5%下げたら80%の5%で4%の利益が下がる。
問題は残りの80%の顧客だ。この人たちには恩恵はない。だからこのスーパーは一部の顧客だけレジで商品価格が下がると、噂が立ったら二度とこの店を使わなくなる。
日本はアメリカと違って商業集積が駅の近くや郊外でも案外と隣接してある。いやとなれば代わりに行く店が幾らでもある。日本でやろうとすれば三越がやっているように、会員になれば誰でも5%引き。一年間で100万円以上購入いただけたらゴールドカードになって7%引きになる。
かつて日本のITベンダーはこのシステムを言われるままに作った。私はこのようなシステムを絶対にスーパーマーケットは買わないと言明した。そして事実そうなった。
こうしてあだ花(結実しない花)のようにFSPは消えていったが、それ以外店舗系、ネット系、通販系にはなにも新しいものは生まれていない。
いまはビジネスインテリジェンス(BI)がブームになっているがこれは分析であってCRM(Customer Relationship Management)とはいわない。
だから店舗系、ネット系、通販系といえばいまだにデータベースでRFM分析やABC分析をして上位顧客に商品セール案内を出すことがCRMメインの業務になっているのである。
これら分析系の欠陥はすべてを過去のデータにしてしまうことにある。、一定期間の過去データから優良顧客を抽出することにある。2005年一年間と2006年一年間の上位20%の顧客を抽出して名寄せをすると、40%が変動している。つまり2005年に上位顧客1万人いたとすると、2006年度ではそのうち4000人が上位顧客から離脱して下位の顧客ゾーンに落ちている。そうすると誰を育成したらよいかCRM担当者は分からないのである。
この弊害をなくそうと2年単位で上位顧客を絞り込む企業もあるが、翌2年単位で比較するとやはり40%の離脱が生じている。
私が考案したメソッド以前のCRMは、通販の発展と共に確立されていったデータベースマーケティングそのものであったわけである。
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