値引きをして平均商品単価をアップした。
加工サービス業(クリーニング業)では、売上げ=点数×平均商品単価と考える。
売上げを増やすには点数(数量)を集めるか、商品単価を上げると考える。だからチラシを打って(単価を下げて)クリーニング点数を増やし、売上げを増やすことが普通に行われている。
話は22年前に遡る。
ある中堅クリーニング企業の社長から経営相談があった。
「当社は年間に約500万点を集めている。昨年は安売りをしすぎて前年対比30円も平均商品単価を落としてしまった。一昨年は年間平均で310円だった商品単価が昨年は280円であった。前年対比で1億5千万円も売上げを落としたことになる。いや、売上げではない。1億5千万円は利益そのものである。なんとか単価を下げないで集荷点数を増やしたいのだが、欲を言えば点数も単価も増やして売上げを上げたいのだが、よい方法はあるものか」
服部メソッドで考えれば、売上げ=顧客数×頻度×一客点数×商品単価である。
したがって点数を増やすには顧客数を増やすか、頻度を高めるか、一客点数を増やすかである。そうすれば必ず点数は増える。
しかし、当時この会社はチラシをこれでもかと撒いてクリーニング品を集荷していた会社だから、売上げ要因分析の話をしても通じる経営者ではなかった。またそのようなデータは、とるすべもなかった。要望は、現状のマーケティング手法を継続しながら商品単価を上げたいということである。
そこで私は、かつて売上げを伸ばしたいと要望する企業のため、売上げとは何で、売上げは何から出来上がっているのかと考えたように、平均商品単価とは何で、どのようなロジックで成り立っているのかを因数分解?することにした。
そこでこの問題を解決する発見をしたのである。
平均商品単価を分解すると次のような図式で構成されていることが分かったのである。
品目 |
売上げ金額 |
集荷点数 |
商品単価 |
オーバーコート |
36,000 |
30 |
1,200 |
半コート |
40,000 |
40 |
1,000 |
上着 |
64,000 |
80 |
800 |
ジャンバー |
30,000 |
50 |
600 |
ズボン |
75,000 |
250 |
300 |
セーター |
84,000 |
300 |
280 |
スカート |
62,500 |
250 |
250 |
ブラウス |
66,000 |
300 |
220 |
ワイシャツ |
100,000 |
500 |
200 |
合計 |
557,500 |
1,800 |
310 |
この図はシンプルに表現したものだが、平均商品単価はご覧の通り310円である。
私はこの表をにらんでいて、平均商品単価はこういう計算で出来上がっているのかと思いながらも、単価の高いものを多く集めれば平均商品単価は上がるのだと気づいた。
ならば割引をしても平均商品単価(310円)よりはるかに高くなる商品だけを割り引いて、大々的にチラシを撒いて宣伝をすればよいのではないかと思い至ったのである。
これまでチラシを撒いて平均商品単価を30円も下げたということは、きっと料金の安いものだけを値引きしていたのではないかと考え、古いチラシをみると案の定そうであった。
「ズボン、スカート半値サービス」というのがこの会社の値引き戦略のすべてであったのである。だから平均商品単価より低い品目のものが大量に集まり、その結果単価を下げていたわけである。これで結論が出た。
3割引をしても310円以上になる品目だけを3割引、そのほかは1割引。これでいかにも安いと思わせるチラシを作成してください。
それから私はこの会社の、500店舗ある取次店の年間売上げABC分析をして、上位100店舗を選択し、これらの店を利用しているカード会員顧客の住所を、エリア地図にポインティングした。100店舗で売上げの76%をカバーしていた。いわゆる20:80の原則である。エリア地図に顧客の住所をポインティングすると実勢商圏が見えてくる。
チラシは新聞折り込み広告と、取次店店主による実勢商圏内全戸住宅にポスティング2回という戦略を立てた。店舗にはポスターと、のぼり旗を立てた。
「3割引をしても310円以上になる品目だけを3割引、そのほかは1割引。これで平均商品単価をアップする。成功のポイントは告知作戦だ」
半信半疑の社長は、服部さん。大丈夫ですかね。と心配顔をしていたが、私には絶対の勝算があった。
結果は大成功。高額商品が安く手に入ると同じ理屈だ。これまでの入荷量と比べると、こんなにオーバーコートを持っていたのかと驚くほど大量に重衣料の入荷があって、工場は毎日残業をしなければ追いつかなくなった。売上げも点数も平均商品単価もアップしたのである。もっと正確に言えば前年度と比較して点数のアップ率(例115%)と平均商品単価のアップ率(例117%)を乗じた134.6%、売上げが伸びたわけである。
一昨年310円、昨年280円だった平均商品単価は、今年は326円になった。
下表はそのイメージである。
品目 |
売上げ金額 |
集荷点数 |
商品単価 |
オーバーコート |
151,200 |
180 |
840 |
半コート |
84,000 |
120 |
700 |
上着 |
100,800 |
180 |
560 |
ジャンバー |
84,000 |
200 |
420 |
ズボン |
81,000 |
300 |
270 |
セーター |
88,200 |
350 |
252 |
スカート |
63,000 |
280 |
225 |
ブラウス |
63,360 |
320 |
198 |
ワイシャツ |
108,000 |
600 |
180 |
合計 |
823,560 |
2,530 |
326 |
ということで加工サービス業での値引きをして平均商品単価を上げる方法とは何かの答えは、値引き後の価格が平均商品単価を上回るものだけを値引きし、広く告知をすることである。クリーニング業は仕入れのないビジネスなのでこのような戦略が実現できる。
さらに広く告知するというところがみそである。流通業でブランディングを気にするあまりマークダウンを告知しないで秘かにやっているファッション系ショップがあるが、これでは売上げが下がるだけである。安いからたくさんの顧客が買いに来る。ここが値引きセールのポイントである。先の事例では、ある取次店主は高額品3割引セールの告知チラシを、ポスティングをしなかった。さらにポスターも貼らずに、セールを知らないでやってきた顧客に、いまは3割引セールをやっているんですとカウンター越しに口頭で知らせた。
セールを知らずに来た顧客は喜んだが、セール期間中の売上げは約3割前年対比でダウンしたのである。
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