CRMが失敗に終わった理由はわかっている。どこでも判で押したような同じ間違いをしている。どこの会社のCRMを見ても金太郎飴のようだ。だからなぜ上手く行かなかったのかという問いには明快な答えを出せる。
一つはどの企業もCRMパッケージが持っている機能(スペック)に、忠実にSIをしていることだ。
売れる仕組みを作ることは考えていない。売るためにはそれがSFAであろうと、店舗であろうと、ネットビジネスであろうと、売るためのプロセスと言うものがある。
言い換えればマーケティングをどのように展開して、目的を達成するのかという仕組みがある。それが一番大事なのにパッケージが持っている機能についてだけ充足させようとしているのである。
導入する企業によって製品も違うし、したがって売り方も違うのだから、使う機能も違って当たり前のことなのだ。まったく不要な機能もあるだろうし、たまにしか使わない機能もあるだろうし、もっと充足させなければならない機能もあるだろう。その機能を組み合わせていかにマーケティングを進捗していくのか、契約に誘導するのかが大事なことなのだが、そんなことはお構いなしに、パッケージが持っている機能を埋めることしか考えていないCRMが大部分である。
CRMパッケージが持つ機能に、忠実につくられたCRMは、販売員は何の役に立つかわからない。なぜなら自分達のマーケティングに必要な機能ではないからである。いわば北海道へ旅行に行く人に世界地図を与えるようなものである。
なぜこうなるかと言えば、登載するべきマーケティング理論がないからである。ITベンダーは「CRMコンサルタント」と名刺を持った社員の多くは「ITコンサルタント」であって、契約できるように営業マンを誘導できて、PDCAサイクルを回すようなマーケティングを考えたことがないから、あるいは企業ごとに異なる、売れる仕組みを定義し構築したことはないから、彼等が頭脳明晰であっても、結果としてはやはりできないのである。
こうしてパッケージが持っている機能にだけ忠実に作成しても、営業マンや販売員は自分達の現実と乖離したシステムに入力することは、結局はうそを入力することとなり、使っても使わなくても同じことで、ついには使わなくなるのである。
この考え方は、日本人が個別化を求め、欧米人が標準化を求めていることに由来している。だがここではタコツボ文化とササラ文化を説くことではないのでこの話はここで閉じる。
二つは、CRMを導入する人たちは営業マンや販売員が考える、あるいは実際に行っている現実のやり方をヒアリングして、実際に沿ったやり方をトレースしたパッケージを作るケースがある。
そもそも営業マンや販売員に企画力を求めても無理な話である。また現実にやっていることをパッケージに落としても、同じことをやるなら手帳に記録することで十分なわけで、わざわざ入力をしてまでやりたくはなくなるのが普通である。
三つは、理想的なシステムを作りすぎているときである。
プロジェクトでこうあるべきだろうと理論優先型で作ったシステムは現実との乖離がありすぎて営業マンや販売員は使えないのである。
四つは適切なCRMを構築しても、普及のための教育を徹底しなければ営業マンは使わないことが多い。システムを作ることと、それが使われるために普及活動をすることとはまったく違うことなのである。
CRMは本来アナログベースで考えるべきである。
まずは私どものCRM成功事例から話を聞いていただこう。
ある大手ハウスメーカーの販売部門から、CRM導入の相談があった。その内容は住宅展示場での売上げアップをしたい。ついてはコンサルティングをお願いしたいということであった。営業を統括する営業本部長までお越しいただいての話であった。
話を伺って、これはシステムを導入する話ではないと思った。ヒアリングをしてみると、この会社は営業プロセス管理を主体したSFAを導入していた。
ハウスメーカーのSFAは、現地調査をしたか、図面を出したか、資金確認をしたか、詳細打ち合わせをしたか、最終図面の承認を貰ったか、見積書を出したか、契約を交わしたかという彼等が考える業務プロセスを追求していくSFAであった。
このSFAは契約に有効かと聴くと、営業マンは首を横に振った。「あれは我々営業マンを上司が管理しているだけのものです」といった。
社内で検討をした結果、我々は次の提案書を出した。
1. システムは不要である。
2. 営業に一切の負荷をかけない。その上営業マンから、これは有効だから止めないでくれと懇願するようなCRMを設計する。
3. 仕事の範囲としては
(1) 展示場に(視察に)来てアンケートを書いた顧客、(したがって住所氏名がわかる顧客)の契約率を高める。
(2) 展示場にきた顧客の契約率を高める。
(3) 建築工事現場の周辺顧客に対してアプローチをして契約を作る。
(4) 建てた顧客からの紹介顧客を増やす。
4. 以上をリレーションシップツールだけで仕組み化する。
5.さらに契約に至る営業プロセスをシステム無しで可視化する。
6.通常の営業活動での契約率を高める。
この実現が本来の、営業マンも営業本部長も、顧客も喜ぶCRMなのである。
何をやったか
上記(1)についてのソリューションは、女性だけのプロジェクトを作った。そして展示場に来てアンケートを書いていただいた顧客(正確には登録ノンカスタマー)に女性チームが発行するニュースレターを毎月作成し郵送した。ここには一切の売り込みはなく、ただ女性チームが顧客に対してこれからの家作りのありかた、例えばトイレの方向性や、キッチンの方向性、リビングの方向性などを書いたものをニュースレターにして送った。
その結果、セールスマンからの売込みではないことが顧客から受けて、このプロジェクトに反応が次々と返ってきた。
いま、毎月の受注の約40%がここから生まれている。これまでは捨てていた顧客なのである。
このやり方だと、営業マンに一切の負荷はない。支店長が冗談にニュースレターを止めようと思うのだがと営業会議で話をしたら「それはないですよ、それは困りますよ」と、大反論があった。
支店長は服部さんの提案書どおりになりましたと笑顔で語った。
上記(2)については、これまで住宅展示場をのぞいた顧客はアンケート書いてもらって訪問するけれど、客は本心を明かさないから、それで縁が切れることが多かった。
住宅展示場内では、丁寧に対応し、アンケートを書いていただけますかとお願いし、ていねいに対応すれば顧客も悪いと思ってアンケートに書いてはくれるが、ほとんどの場合、そこで関係はおしまいだったわけである。なにせ週末に顧客は集中するが、営業マン一人300人から800人くらいのリストができる。このリストをカバーしようがないのである。時折近くに行ったのであの時展示場で親しく話した顧客の家に寄ってみようかとリストを引っ張り出して訪問してみると新築した家であったというケースが多々あったのである。それをお仕舞にしなかったのが(1)のやり方なのだが、そこに留まらず、展示場で顧客と関係を深めて一気に契約へ持っていこうとするのが、この案である。
そこで展示場で他社と圧倒的に差別化を図る接客とツールを準備することを提案しその仕組みをつくった。
結果は成約率の平均値が25%程度上がった。
上記(3)については、建築現場はクレームが必ず発生していたことでクレームを減らそうと言う考えもあったし、同時に展示場は自社の建物をアッピールできるチャンスと言う考えもあった。そこで我々は「建ててる途中新聞」を作った。そして近隣に配布したのである。主人公は工事責任者である。工事責任者がきちんと挨拶をして、今の建ててる途中の状況を知らせた。これが大受けした。工事現場に見学に来た人たちは、新聞を見て着ましたと挨拶をして工事現場を見学した。工事責任者はいかに素晴らしいのかを現場を指差しながら語った。職人も気合が入った。職人が止めるクルマを巡ってクレームが起きているのが工事現場の常であったが、クレームが激減した。そればかりかうちにも営業をまわしてくれと言う近隣顧客が増えてきた。職人の意識が激変した。これは大ヒットになった。
上記(4)については、営業マンごとの新聞を作成し、2ヶ月に一度、建築をした顧客に送った。これも大ヒットをした。一つの展示場で成約する棟数以上の紹介契約があった。
これはすごいことなのである。
以上はほんの一部の話であるがこれこそが営業マンも望む、営業本部長も望む、顧客も喜ぶCRMなのである。営業マンのどこにも負荷がかかっていない。それでいて売上げが増える。
ハウスメーカーのSFAでは営業プロセスを追いかけても契約には結びつかない。
しかし、これまで見落としていたプロセスの細分化をコンサルティングで実行し、必要なリレーションシップアクションを行ったことによって、誰もが喜ぶCRMがシステム無しに実現し驚くべく成果が表れたわけである。
ITに携わる人はこの事例をよく考えて欲しいのである。IT業界では見える化といっているけれど、見えても売上げは増えないのである。見えれば売上げが増えるなら日本の企業は見える化CRMで満杯になっているはずである。
なによりも顧客の心を動かすことが大事なのだ。売上げを増やすためには売上げを増やすためのマーケティングシナリオが必要なのである。
それがシステムにのせなければ出来ないのか。システムがなければできないのか、あるいはシステムがなくてもできるのかをよく考えて欲しいのである。
CRMは本来アナログベースで考えるべきなのである。紙でもできる。システムがなくてもできる。紙で設計したものを実行して成果が出て良いとなり、それがシステム化したらよりよくできるとなればシステム化すればよい。営業マンはもっと喜ぶであろう。
それが、パッケージが持っている機能を充足することだけを考えて作るから、役立たずCRMになり、結局は使われない運命になるのだ。
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