全顧客と関係を深めることができれば一番良いと思うだろうが、それは決して現実的ではない。
カード会員になっても一年間に一回も買わない人もたくさんいるだろうし、ハンカチ1枚を買ってカード会員になった人もいる。
そのような顧客にも丁寧にDMを出し続けていたら、コストがどれほど掛かるのか、例えば400万人の顧客に年間6回のはがきDMを送っただけで1枚200 円(人件費+企画制作費+印刷費+郵税)として、年間48億円になる。実際にはカラーの分厚いカタログなどもたくさん送付しているのだから、全顧客(全 カード会員)に丁重なDMを送り続けていたら年間に数百億円の費用がかかってしまうことになる。それでも全顧客が、販促投資に見合うだけの金額を買ってい ただければよいのだがハンカチ一枚の顧客は、それ以上は買わない。
だから現実には、優良顧客を特定してさまざまな案内をしているのが実情だが、誰にDMを送るのかという観点では、今はRFM分析屋ABC分析で顧客を都度ターゲティングしている。
本メールを読んでいらっしゃる賢明なる方々はRFM分析やABC分析が、いかほどのものであるかは、良くわかっていらっしゃる。
過去データを集計して抽出するだけでは、それは過去に上位顧客であったということだけで、未来も買い続ける顧客を抽出したことにはならない。
だからRFM分析やABC分析で抽出した顧客とは、最近たくさん購入した顧客ということになる。冷静に考えれば誰もがわかる話だが、たくさん買っていただいたから御礼をいうのはわかる。しかしたくさん買った顧客とはしばらく買わない顧客のことでもあるのだ。
その顧客にまた買ってくださいと案内DMを出すことは、夕食を食べておなか一杯の顧客に、今度はステーキを食べませんかと言っているようなものであるのだ。
我々はいろいろな業種で確認をしているが、どの企業でも、どの業態でも年間に40%の顧客が上位顧客ゾーンから脱落をする。
それでは特定の60%に相当する顧客は、常に上位顧客に居続けるかといえば、そうではなく顧客はシャッフルされているから、常に上位顧客の位置に残る人は極めてわずかである。ゼロではないが極めて少ない。
特に最近の百貨店事情を追いかけると、高齢化した人たちの楽しみと言えばおいしいものを食べることであるからデパ地下で食品を買うことが日課になっている高齢層が、軒並みゴールドカード客になっている。
こういう人たちは毎年100万円以上を買うから常に上位ランクに残っているが、内容を見ると、利益幅が薄い食品を中心とした購入顧客であり、このような顧客を優良顧客としていろいろな催事案内を送り、特別扱いをしても効果はないことになる。
だから顧客ターゲティングとは単純にRFM分析を行なって上位客に特化するのだとか、ABC分析の上位顧客に特化するということを言っていたのでは正しいターゲティングにはならないことを肝に銘じておくべきなのだ。
多くの流通業はRFM分析のうちRF分析をマトリックスで構築し各セルにそれらしい顧客名称をつけているがそんなことはない。例えばR5F1セルにいる顧 客は新客である。R5F3セルにいる顧客は育成顧客である。R5F5セルにいる顧客は超優良顧客であるという類のものである。
多くの顧客の消費行動は、「買うことで満たされて買わなくなり」、「買わないことが続くことで再び満たすために買う」ことになる。これを続けているだけである。
我々顧客マーケティングに携わるものが見つめなければいけないかのポイントは、顧客はどこの店で買うのかということである。
特定のブランドの好みがあっても、そのブランドはどこでも売っている。
同じブランド品は日本橋のデパートでも売っているし、新宿のデパートでも売っている。最近ではうちの店だけのオリジナルで他店では売っていませんという商品もあるが、ユニークな商品以外、顧客の固定化には効き目は薄い。
すると、今たくさん購入した顧客には、次回の購買期にも、当店で、当売場で購入してもらうようにすることが、一番大切なことなのである。
顧客ターゲティングとはこうした戦略の元に組み立てられなければならないはずなのだが、残念ながらまったくできていない。
ほとんどがDMを発送する都度、RFM分析、ABC分析で、上位顧客を抽出しているから、いわばたくさん買った成果として上位にランキングされる顧客にだけ、逆から言えば満腹な状態になっているときだけ、これでもかとたくさんの案内DMが届くことになる。
先ほど述べたように、和食をたくさん食べて満腹になってお店を出た顧客に、追いかけるようにしてこのステーキを召し上がりませんかと言うようなものである。
このことは実は理解しているのに、多くのデパート、小売流通業は同じことを繰り返している。
システムが古くRFMしかできないというケースもある。あるいは顧客マーケティングの一人者と自負しているデータベースを回す分析屋さんが、かたくなに RFM分析を信じ切っていることもある。ちょっと普通に考えればおかしいと思うはずなのに、思わないでいる人がデータ分析という論理を持って、社内を支配 しているケースもある。経営者がまったく勉強をしていないために説得してもわからないケースもある。
つまりどの顧客と関係を深めて永続した関係を構築していこうとするのか、顧客ターゲティングというマーケティングの考え方が、これが一番大切なことなのに、まったく出来上がっていないのである。
だからDMを発送するたびにデータを回して抽出する人たちは、常に上位顧客にだけ出すことを繰り返し、買わなくなった顧客には関係を断ち切り、その結果他 店に流れてしまうことなどは、まったくお構いなしに、優良顧客と称する直近過去にたくさん購入した顧客にだけ案内を出し続けて、それで売り上げが伸びない とかヒット率が低いなどと嘆いているのである。
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