あらかじめ特定できている優良顧客層がいる。
身元も顔も取引履歴もすべてわかり、人間的な信頼関係も醸成されていて双方向で交流が出来ている。例えば高級 呉服店、高級宝飾店、百貨店の、上得意様と明確に他の顧客と区分けできる顧客を持つ、「お得意様」あるいは「上得意」という一括りの言葉でターゲティングしている顧客層だ。
例えば百貨店の個人外商営業部では、営業マンは顧客の寝室まで入り込んでいる。
職業が何で、家族構成がどうで、家族の経歴、嫁ぎ先、長男の夫人の身元から、どのような着物を持っていてそれはいくらでいつ、どのようなときに入手したかなど、それこそ何から何まで知っているし、知らなければ聞けばいつでも教えてもらえる関係を築いている。
ある夫人が交通事故を起こした。夫人は携帯電話で第一報を百貨店の外商営業マンにいれてすぐ現場にきてくれと伝えたという話は、いかに密接な信頼関係深化が出来上がっているかを語る有名な話である。
このような関係は、「顧客ターゲティング」視点では、上得意客層と一括りで括ってしまって、間違っていない。顧客に関するどのような入手できる関係、時には夫妻の寝室に入り、この壁にこんな絵を掛けませんかと提案することができることは、属人的な関係以外に存在しない。
もちろん上得意顧客の情報データベースを持たないより持ったほうが良い。データベースで顧客ターゲティングし、さまざまな提案をすることでより一層アップセルやクロスセルを実現することができるであろう。
しかし、属人的な関係を深めていくには、顧客と営業マンとの肌合いが合うとか、合わないとか相性も関わるだろうし、何しろ時間が掛かる。データベースに顧客に関する情報が詳しく記載されていても、顧客と関係を深めることとは別のことだ。
寝室に一枚の絵が掛かっていないことを前任者の記載でデータベースに登録していても、新任の営業マンが、いきなり「ご夫妻の寝室には1枚の絵も掛かっていませんので、こんな絵はいかがですか」と語ったら、顧客は不快感を露わにするに違いない。ケースによっては出入り禁止になってしまうこともある。属人情報は親しくなったことによってのみ知り得た情報であるのだから、担当する営業マンが変わればデータベースでどのように整理されても顧客に対しても位置から人間関係を深めて信頼を勝ち取らなければいけない。まさにデータベースで取得した情報を軽々しく口にできない禁句情報となる。
だから、こうした上得意客との属人的な関係深化は属人的に発展していければよいのであって、営業マンが変われば、新しい営業マンはこれまで先任者が築いた関係をベースにしながら、徐々に関係を深めていけばよい。顧客ターゲティング視点では対象外にしてよいのである。
これまでの話で営業マンとは百貨店外商営業部などの個人顧客向け営業を指して言っているのであって、B2Bの法人営業部、あるいは医薬業のMRとドクターのような営業スタイルでは無いことを付記しておく。
改めて定義をすれば店舗系における顧客ターゲティングとは、全カード顧客から、これまで述べたような上得意客を外した、残りの顧客がまずは対象となる。つまり顔がわからない顧客であり、わかるのはデータベースに整理された取引情報だけで、その他がわからないからこそ顧客を、規準を作ってターゲティングをしようということである。
実際問題、すべての顧客と関係を深め商品販売の案内をすることは物理的、効率的、経済的に不可能であり、したがって顧客ターゲティングは、効率を中心軸にした攻略する顧客を発見するマーケティング手法と言える。
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