先に閑話休題で書いた「百貨店の統合」テーマで、双方の百貨店の文化が違うことについて具体的に示して欲しいと、問い合わせのメールが幾件かあった。
そこで顧客ターゲティングに話を合わせて具体例を書いてみよう。
また三越と伊勢丹の例を引き合いにするが、三越のゴールドカードは、1年間で100万円以上買い物をして取得したら生涯ゴールドカード顧客になる。
一方、伊勢丹は翌年も100万円以上買わなければ、さらに30万円以下であったら普通カードに戻ってしまう。前年のお買い上げ金額に対して翌年、差別をする考えは航空会社のマイレージそのものである。
幾度もいうが、三越の顧客は富裕層が多いから、顧客のプライドも高いし顧客としての自尊心も強い。そしてなによりも三越のことが大好きな顧客である。
こうした顧客がゴールドカードを持つと、一種のステイタスと感じるのだろう。三越もゴールドカード会員、お帳場顧客会員に対して毎月イベントを開いているから、ゴールドカードを介して顧客と店舗の特別な関係ができている。(と、考えるべきである)
こうした顧客に、あなたは昨年100万円以下のお買い上げでしたので、今年は普通カードに戻しますとなれば、顧客の中には、「三越を愛しているのであって、割引率が欲しくて買うのではない」とする自尊心が働き、「分かったわ。お宅も変わったものね、
ずいぶんと計算高くなったじゃないの」ということが起こり得るかもしれない。原因は文化の違いである。企業の文化が顧客の文化を構築しているのである。
カードシステムは三越と伊勢丹が新たに構築し直したコンセプトで一本化すると発表しているから、伊勢丹方式が採用されるとすれば、三越社員からすれば考えられないことだとブーイングが起こることが予想される。
これは文化のぶつかり合いである。富裕層を対象に、関係性を重視して顧客を「情」の概念に基づいて大切にしている三越文化と、データで顧客に対してもスパスパ割り切る「理」の概念に基づいて行動する伊勢丹文化とぶつかり合いである。
もっとも、伊勢丹はBREA理論のGR分析手法と同様な手法を顧客との関係性継続の基準にしている。
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さて顧客ターゲティングとは、BREA理論で考えると、育成するべき顧客を明確に定めるということであり、SFA的観点では関係を深めるべき顧客群を明確に定めるということである。ゴールドカード会員は年間100万円以上購入した顧客だから、当社として一定期間は育成顧客対象にして、気を配り、心遣いをしていくと会社の政策で決めれば、一年間で100万円以上を今年も再度買わなければ優遇顧客としての関係性を切断するという判断は、私から見れば正常値からは逸脱する。少なくとも正味2年間の販売実績で閾値以下の顧客との関係性を切断すべきである。
航空会社は運ぶだけであるから、1年間の実績で翌年のサービスを変化させることは合理的な考えで顧客に抵抗はない。去年たくさん飛行機を乗ったから今年はボーナスが出たと思えばよいわけである。
しかし、百貨店では、たくさんの百貨店が競合にあって、顧客は自由に百貨店を選べる。
売っているものに大差はない。一方、顧客は百貨店に対し「情」がないといえばうそになる。
好きな百貨店、好きな売場、好きな商品、好きな販売員が存在する。
企業から関係を切断する行為は、顧客にとっても重い。しかし多数の顧客を抱えている百貨店は何かの基準で顧客を選別しなければいけない。
伊勢丹では、カード政策はカード政策として割り切り、顧客関係性を顧客に併せて維持する政策はBREA理論のGR分析と同じ手法で実施している。
合理的に考えれば伊勢丹のやり方で正しいと思うが、三越は伝統的にOnetoOne的な顧客政策を持っていて、顧客との関係性を極めて重要視する企業だから、ゴールドカードの顧客を翌年、基準に達しなかったからといって、普通カードに戻す文化はない。
のである。ならばGR分析のような累計売り上げに基づいてグレードを決め、グレードごとに顧客対応を変えていく、BREA理論でいえば対応シナリオを変えていくことを展開するなどの対処療法が必要になる。
M社では、伊勢丹同様に昨年実績で翌年のカードを変えている。家庭外商の人が今年から普通カードになりましたとカードをもって訪問すると顧客の顔が引きつることがあると、関係者が私の問いに答えていたが、そうであると思う。
普通カードとゴールドカードでは割引率が違うのであるから、実績に基づいて翌年のサービスを変えることは理に適ってはいるが、そこにはプライドを持つ個客という人間がいる事を忘れてはいけない。人の心は理屈だけでは動かない。
したがってBREA理論では、顧客ターゲティングを重視し、顧客の誰を育成するのか、その育成シナリオは何かとする観点からカード顧客との関係性を含めこの問題を解決するが、こうした理論を持たずに展開するとどこかに矛盾が生まれて、つじつまが合わなくなる。
文化論だけで片付けずに、伊勢丹と違って三越の顧客政策はどうあるべきかとする徹底的な議論をする以外に方法はなさそうである。この議論は総括的な議論になるはずだから、顧客政策を担当する部署の力量が問われる議論でもある。間違えれば顧客政策が間違える。
伊勢丹の理論が勝って顧客政策が変わり、結果として、三越顧客の顔が引きつらないことを祈念したい。
文化の違いを実例で具体的に示して欲しいというリクエストに答えました。
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