【2008.01.25配信】
百貨店業界は伊勢丹モデルが顧客に受け入れられて成功事例として業界を席捲している。
けれども伊勢丹モデルは新宿店だけの成功モデルであって、伊勢丹の地方店舗を巻き込んだ株式会社伊勢丹としての成功モデルにはなり得ていない。
その根拠を挙げてみよう。
まず新宿の土地柄が集客力で別格であること。外部要因として伊勢丹は最高の立地を持っている。新宿駅は毎日350万人の乗降客数を持つ日本一の駅である。新宿駅を持つ電鉄はJR東日本の新宿駅、ここには山手線、埼京線、湘南新宿ライン、中央線、中央・総武線が走っている。埼京線は大宮を経由することによって埼玉、群馬、栃木、長野、新潟からの列車と接続している。私鉄では、小田急線、京王線、京王新線、西武新宿線、都営地下鉄では都営新宿線、大江戸線、東京メトロでは丸の内線が新宿駅を持っている。
そのほかには都営バス、関東バス、京王バス、小田急バス、西武バス、東急バスが新宿駅を持ちその上JRハイウェイバスターミナル、新宿高速バスターミナル、深夜急行バス、空港直行バスなど網の目のようにバスネットワークが敷かれている。また埼玉県和光市から池袋、新宿、渋谷をつなげる副都心線も乗り入れる.池袋の百貨店は新宿に顧客を奪われると頭を抱えている。
内部要因としてはJR新宿駅からやや離れた立地を逆手に取ったこと。それは専門店化することであった。専門店で特筆した百貨店にすれば顧客は遠方からでも来店する。
三越などの伝統的な百貨店が全盛時期に、伊勢丹は商品をブラッシュアップすることで一番の百貨店になろうと目指した。そこで伊勢丹は当時、他の百貨店が気にもしなかったVMD(Visual Mwrchandising……視覚的な売場作りの手法)に着目し、先駆者であるニューヨークの百貨店ブルーミンディールの視察を奨励し、その成果としてVMD分野では圧倒的に日本一の百貨店になった。当時の体験者から話を聞くとビジネスホテルに泊まって終日ブルーミンディールの店内を歩き、ホテルへ戻っては皆で意見を出し合い寝る間も惜しんで研究をしたという。
この努力が実を結び伊勢丹新宿店は、日本一の集客力を誇る新宿駅にあって、専門店としてMDとVMDに磨きをかけた結果、乗り入れる電鉄会社数に応じた商圏が拡大し、世界に誇る専門店化した伊勢丹新宿店となったわけである。
伊勢丹新宿店の戦略はMDとVMDを軸とした高級専門店化である。外部要因としては新宿の立地を持ち内部要因としてはいわば売る技術について他の百貨店を圧倒した結果、この二つの要因が上手く重なり合って成功した事例であって、それでは伊勢丹が持つ立川、吉祥寺、松戸、浦和、相模原、府中、新潟、静岡、小倉、JR京都駅などの店舗が新宿店とまったく同様のコンセプトで成功するかと言えば、そうではない。
新宿店は商圏を、新宿に乗り入れる電鉄会社、バス会社各線の延長戦に面で拡大し、中国や韓国空も観光客が来店する百貨店として今後も成功し続けるだろう。しかし、伊勢丹が主宰する全日本デパートメントストアーズ開発機構(ADO)に加盟する地方百貨店の幹部は口を揃えて「伊勢丹新宿店は自らの百貨店と比べて乖離しすぎて参考にならず、上京すると立川店、浦和店を見学して帰る」という意見や姿に、伊勢丹新宿店の特異性を見出すことができる。
ADOグループに加盟する地方百貨店経営者や幹部が伊勢丹の地方店舗を見て、うなってしまうほど伊勢丹の地方店舗を成功させたとしたら、それは拍手喝采であろうが、もしそれが実現し得た場合、とった戦略は伊勢丹新宿店の戦略とは異なっているはずである。すなわち伊勢丹
新宿店における成功戦略とは、売る技術を結集したこれまでの手法を磨き上げたものということである。
百貨店が実現しなければならないビジネスモデルは、売る技術に加えて顧客にご購入いただく技術をミックスし、顧客をとことんケアしていく、顧客ケア技術を獲得することである。
最近に都心で建っている丸の内、銀座、六本木などの商業集積をみると伊勢丹が自慢する新宿店の3階フロアーと比べてVMDの技術に遜色が無い。
VMDの技術などNYから連れてくればすぐにでも一流の表現方法を取り入れることができる。
ケアしていない顧客のデータベースほど、あてにならず頼りにならないものはない。
ケアされていなければ顧客はいつでも顧客で無くなるのである。
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