【2008.04.25配信】
私はスーツを買う時は「ミラショーン」と決めている。私にとって着心地がよいことと、素材がよいことが選ぶポイントになっているが、加齢しているのだから安い服を着るとみすぼらしく見えるという家内のアドバイスもある。
忙しい時は、ミラショーンが置いてあれば、必要な時に全国どこの百貨店でも飛び込んで購入していたが、今ではなじみの販売員もできて、ほぼ一箇所の百貨店で購入している。
だから、この売場からシーズンごとに私とは不釣合いな、ハンサムな外人モデルを使った豪華なパンフレットが送られてきている。
ところが、ミラショーンを購入している百貨店から29,800円のスーツを案内するDMが封筒で郵送されてきた。高級スーツを購入している人を除外するなどの手当てをしてからDMを送るべきであったのである。
私は仕事柄、いろいろと憶測をしてみた。
おそらく館を上げての紳士物フェアーであるから相当数のDMを配送したと思う。私は極めて最近、この百貨店で時計の修理をして10万円を支払った。機械時計のぜんまいが切れて交換をした代金である。ついでに時計を持参する時と受け取る時に地下でたくさんの食品を購入した。それ以外でも通りすがりに食品を買っているので、MはともかくRとFは直近データでは高い数値になっているはずである。
担当者がスーツ特集DMをどういう基準で抽出し送付したかは分からないが、一般的には慣例に倣ってRFM値の高い顧客に郵送したと思う。それで私にも届いたのかと思う。
顧客ケアの観点ではこのDMを送付したことは過ちである。
過ちとは言うまでもなく高級スーツを購入している顧客に二着で298のスーツを薦めていることである。
百貨店では色々な売り場があって、同一データベースにアクセスをして顧客を抽出するで、同一顧客に何種類のDMが届くことがある。
ある百貨店の顧客担当の話では最高で、一人の顧客に一年間で380通くらいのDMとメールを発信していて驚いたと言うことであったが、こうしたことは日常に起きている。
そこで、このケースでは「百貨店では売場がたくさんあるからそんなこともあるでしょう」
と一笑に付すような話であると思うが、顧客からすれば、高級スーツをお宅から買っている私に何で一着14900円のスーツを薦めるのという疑問はぬぐえない。
そこでこれを解決するには、優良顧客育成シナリオを構築して、優良顧客に対してはだれも一切の案内をすることを止めることである。
ところがその前に優良顧客の定義が曲者である。
RFM分析で優良顧客を定義する考えは間違いである。RFM分析でいう優良顧客とはRFMセルにつけられた名称であって顧客に紐づいたものではない。それでもR5F5M5のセルを通過した顧客も優良顧客であると定義をすれば優良顧客になり得ることはできる。けれでもそれは過去の功績にすぎない。さらに課題は次回抽出時に、RFM555セルに先回抽出された顧客が滞在し続ける保証はないことである。この時点で識別上は優良顧客ではないことになる。
RFMのMを使って、館で年間百万円以上を購入する顧客だけが優良顧客であるとする考えも、半分正しく半分は誤りである。
正しいとは、過去に100万円を購入したほどのポテンシャル顧客である点に対する評価であり、誤りとは結局はRFM分析で抽出した欠陥を引きずることである。
するとミラショーンを購入する顧客で、年間100万円ほど購入していない顧客は優良顧客なのかということである。このケースではミラショーンの顧客であってゼニアの顧客ではないことである。あわせて百貨店(館)としての優良顧客には入らないことである。
正解は、ケースでは百貨店は紳士服優良顧客として扱い、紳士服優良顧客シナリオを走らせることである。百貨店は高級紳士服のシーズンパンフレットを作って、これらの顧客にはオールブランドを紹介するべきである。これはフロアーシナジーの一つのやり方である。そして各ブランドは、ブランドごとの展開をしていく。ミラショーンの売場一つとっても顧客の購入金額でグレード付けができるのだから、グレードごとシナリオを作ってグレードアップのための展開をしていくことである。
そうして本題の二着298のDMは低価格商品案内ツールと分類して、紳士服優良顧客シナリオ対象者だけではなく、高級靴、高級時計、高級服飾品などのシナリオ対象者には送付をしないシナリオを作成することである。するとミラショーンやゼニアやアルマーニなど高級紳士服を購入している顧客に二着で29800円の紳士服を作りませんかと案内するDMは届かなくなる。
こういうことはRFM分析などデータベースマーケティングではできないのである。
誠に気の毒なことだが、多くの百貨店はRFM分析で優良顧客を抽出しDMを出している。
DMを出すことは顧客に対してアクション(働きかけ)をすることだ。
RFM555セルから離脱した顧客にそれまで実施していたアクションを止めれば、手のひらを返すというアクションをしているのであり、高級紳士服を購入する顧客に廉価スーツを薦めることは、当店はあなたのことをまったく判っていませんと表現をしていることと同じなのである。
こうして多くのポテンシャル顧客は、百貨店から離れていくのである。
顧客はいつでも適度なケアをされたい。自分のことを知ってもらいたい。その上で適度な心地よいケアをしてもらいたいと思うのが普通である。
私のケースに置き換えれば、「いつもミラショーンを買っていることは分かっているでしょう。
なぜそれなのに14900円のスーツを薦めるの」ということである。
繰り返しになるが、RFM分析で顧客を抽出してアクションをしている限り、この問題は繰り返される。問題とは顧客離脱のことである。
忘れてはいけない。顧客をケアしているあいだだけ、顧客は当店から買ってくれるのである。
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