【2008.12.19配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
読売新聞12月9日号一面連載の「激震経済トヨタショック(3)」には大きく「コスト減経営 限界」と見出しが躍っています。
ここでは、「トヨタがKAIZENという言葉に象徴されるコスト削減はトヨタ自動車の競争力の源泉であったが、・・・・・・金融危機の影響ばかりでなく、自動車産業を巡る環境は厳しい。
縮小する市場の前では、コスト削減一本やりに限界も見える。それではどう将来展望を描くのか、トヨタを代表する日本的経営が問われている」と締めくくられています。
同紙によるとトヨタ渡辺社長の指示で11月5日に発足した「緊急収益改善委員会」は聖域を設けず、すべての費用を洗い直すそうで、具体策として個人のペンの持ち数を決めるなどが列記されています。
2008年3月期にトヨタは営業利益が2兆2703億円で、2008年3月期の原価改善による収益増は3000億円を超えたようです。
固定費が7兆円といいますから、新聞に書いているように一割改善できれば7000億円も収益が改善できるわけです。トヨタが雑巾を絞るようにコスト削減にせいをだして利益を出そうと考えるのは
日本的経営にあっては、けだし当然のことと思います。
トヨタが2008年3月期の原価改善で獲得した3000億円のうち、もしも10%を使って全体顧客戦略を構築したら、トヨタの経営方法は様変わりをしていくと思います。
メーカーとディーラーと顧客との間に目に見えない太い配管をつなげて関係深化の潮流を作って顧客維持・育成のPDCAサイクルを回すことが出来たら、少なくとも顧客戦略は需要創起に大いに役立ったと思います。
日本的経営の課題は、人、物、金経営を高度経済成長以来まったく変えていないことです。
分かりやすく整理するとコストを使って商品を作り、売ることを行ってきただけであったといえます。ここではコストを払って売ることをやってきたというフレーズを問題にしてみてください。
売るという行為は企業の都合で作った言葉です。顧客が買うことによって企業は売れたことになるのです。ここが高度成長時代以来、まったく変わっていないところです。
売るためには広く告知する必要がありマスマーケティングの展開が必要となります。インターネット時代になって、新聞や雑誌、ラジオ、テレビなどのメディアに出向する広告料金よりインターネット広告の方が旧来のメディアを抜いてしまいましたが、多くは不特定多数の個人に対する告知には相違ありません。googleに代表されるようにオーバチュア広告は、関心の高い層に絞り込んでいるとはいえ不特定多数を対象にした広告です。
メディアに広告をのせる手法は、昔から展開されてきた古典的な告知の方法であって、新たにインターネットメディアが追加されたことだけです。コストを払ってマスマーケティングをやってきただけのことなのです。
その結果日本的経営は、コストを払って売るという高度経済成長体制のまま、縮小するパイの時代を迎えてしまったわけです。
TVに良く出てくる評論家は、昨今の不況から企業が人員カットをしている様子を見て、「人を景気対策の安全弁にしている。人をコストと扱っている。けしからん」と怒っていますが、人、物、金経営とは、本来コストを負担して売上げを作るだけの経営手法なのですから、売上げを作ることが出来なければすぐにコスト削減に入ることはこれも当然の帰結なのです。
さて、自動車メーカーは人員削減ばかりではなく、工場休止などをしてコスト削減に図っていますが、一方自動車ディーラーの販売体制をみると相変わらずのフォード理論を展開しているわけです。
つまり、売ったら営業担当者は次の見込み客を探して次を売るのだとする考え方です。しかしそうは言っても売れなくなってきて車検入庫率を上げようと、ある自動車ディーラーが(自社の車検入庫率が低いことを改善するために)車検3ヶ月前、2ヶ月前案内をDMでしたところ、顧客からの反応がないので、次に社外のコールセンターに依頼して車検3ヶ月前、2ヶ月前連絡をして入庫予約をとろうとしたそうですが、コールセンター嬢は電話口にでた顧客から圧倒的なクレームの嵐を受けたそうでコールセンターの目的を果たすことが出来なかったそうです。
「売りっぱなしで客を放置しておいて車検前に入庫しませんかと言われて、ハイそうですかといえるか」というクレームが一番多かったそうですが、要は販売した後のケアがなされていない実情が露見したわけです。
メーカーが利益を出すためにボールペン一本を管理し、蛍光灯の照明を落とすことも無駄なこととは言いませんが、売上げと利益を作るのは顧客だけであるという基本的なことを忘れている結果が、つまりは顧客戦略を持たない結果が今日の社会批判を浴びている要因と思います。
パイが小さくなった時に打つ手がなく、コスト削減を精緻に行っているのはコストを負担し売ることに専念した高度経済成長時代の経営手法をそのまま展開している結果と思います。冒頭に掲げた読売新聞の記事を書いた記者は、今の日本的企業の経営手法はおかしいと感じているからこそ、このような記事になったのだと思います。
まさに激震する経済にあって、日本企業は日本的経営手法の転換点に立っているわけですが、それは人、物、金のコスト経営との決別であり、新たに顧客戦略を企業に組み込んで経営体制を構築する時代になってきたことの証でもあるわけです。
成熟社会で、かつ高齢化社会になり、そのうえ格差社会になって、政治が混乱し、追い討ちをかけて世界同時大不況になっている時代に、人、物、金経営だけで成り立つはずがなく、売上げと利益を与えてくれる唯一の存在である顧客に対して、情と理の関係を深め、顧客創造、維持育成を仕組み化し、形式知化し、需要を創起できる戦略を構築することによって、経営方法は劇的に変化するのです。
忘れることが出来ない一枚の写真の話をしましょう。それは高度経済成長時代の日本橋三越が白黒テレビを販売している写真です。顧客はほしいテレビを求めて行列を作っています。どの顧客も自宅でテレビを見ることができる喜びで、とてつもない笑顔を作っています。販売員も、顧客に喜びを与えることができることで、顧客に負けない笑顔を作っています。一枚の写真とはそんな風景を写した写真のことです。
私は、顧客の家族を幸せにして差し上げられる喜びに満ちている販売員の笑顔こそが働く喜びそのものであり、今の時代でもこうした笑顔で人は働かなければいけないと思いました。
ところがいまはどうでしょう。人はコストであり、いつでも削減する存在になってしまいました。
こんな時代では人は企業に忠誠心などあるわけはなく、労働は大きな販売目標を追いかける苦しみになり、人は常にコスト削減におびえて働いている存在になってしまいました。
顧客とともに喜び合っていた高度経済成長時代から50年間に何処が狂ってしまったのかと私は思います。
本メールマガジンの読者ならよくお分かりと思います。契約途中に解雇された派遣社員が寮から追い出され、住む家もなく12月の寒空にホームレスになるしかないというこの姿が人、物、金をコストとする経営の末路なのです。
読売新聞社の記者が指摘する縮小する市場にコスト削減一辺倒では限界が来るという素人発想こそが本質です。
コスト削減だけでなく需要を喚起し、創造し、働く社員も顧客と共に手を取って生きる喜びに溢れるようにすることが経営者の責任であり、企業の本質であると思います。そういう意味で日本的経営の転換点にあって将来展望を描くことが出来て、変革できるものは、顧客戦略なのです。
あなたはどう思われますか。
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