【2008.12.12配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
ガソリンスタンド(SS)経営が揺らいでいます。卸値が乱高下し、高値で買ったガソリンを安値で販売しなければならない、まさに商品相場における「損」を実際に体験しているのです。卸売価格の上げ下げが小売価格の上げ下げに直結してしまって生じる現象です。在庫を調整する時間の余裕がないのです。競争が激しい結果と思います。
さて,今日はSS経営の話をすることが目的ではありません。
日本中の企業が人・物・金経営を行っているわけですが、その末路についてイメージできる話をします。企業経営では人・物・金は社内に存在し、すべてコストになります。
顧客だけが売上げと利益を企業に与えてくれる存在です。しかし企業の大部分がそこに気付いていません。多くの企業は不況や競争が激しくなると人と物と金しか経営テンプレートがありませんから人を削り、物の仕入れ価格を下げ、製造コストを下げ、資金をコストを払って調達し困難に対処します。今日はその舞台がSSなのです。
12月9日朝のテレビで放映していたことなのでご覧になっている方も多いと思います。
それは究極のSS経営ということですがこの話には三つのポイントがあります。
一つは完全セルフ方式で人手をかけない。完璧なる人件費カット施策です。
二つは面積を最大に活かし、一度に給油できる台数を増やす。面積効率の追求です。
三つはプリペイドカード導入によるリピート率の促進です。人件費削減と思い切りガソリン価格を下げて経営コストを下げて前金制度にして低価格勝負によるリピート率を上げようとするサービスをSS経営で取り入れようとするわけです。私はこの画像をテレビで見ていて、人・物・金経営が行き着くところまで来るとこういう形になるなとすぐにイメージできました。それからさらにいろいろなことが連想できました。
連想の一つはアメリカで20年前に出来た業態で、日本に入っても成功しなかった「Warehouse」です。大きな倉庫に商品はダンボールのまま置かれ、顧客は大きな台車のうえに商品を載せてレジまで運び自分のクルマに乗せて持ち帰る小売り流通業の業態です。究極の安売り方法といわれで、人、物、金経営の極致に存在します。
日本ではダイエイがこのスタイルを模倣しましたが、顧客から支持されずに結局は経営の足を引っ張る仕組みになってしまいました。
ダイエイでは商品の前にコード番号が入っている札を置き、顧客は札を持ってレジに並ぶシステムを採用しましたが、商品説明を受けて納得してから購入商品を決定する日本人のメンタルとは合わずに顧客から拒否をされました。
ダイエイがこの事実に気付くのは遅れました。慌てて社内の管理職を売場に配置しましたが、どの人も管理職がついでにやっていることがありありとしていました。私の体験では売場を徘徊する管理職はスーツを着て両手を後ろ手で組んで、まるで売場を視察する百貨店の取締役のような態度で歩いていましたから、どうにもならないとすぐに思いました。
それからしばらくしてダイエイはあの始末になりました。
SSに顧客は給油するためにだけ訪問しているのでしょうか。私は安心してクルマを維持できるようにするためにSSを使っていると思います。今、私が所有しているクルマはメーカーが指定する販売および修理店で、メーカー指定のエンジンオイルを使用しないと一切の保証をしない仕組みになっていますので、エンジンオイルをSSで見てもらうことはありませんが、それ以外のこと、例えばタイヤの空気圧をチェックしていますし、当然ながら洗車もお願いします。洗車は水洗いだけの時もあるし、コーティングをお願いすることもあります。時には室内清掃もお願いします。人によってはエンジンオイルだけでなくブレーキオイルをチェックしてもらうでしょうし、タイヤの管理をしてもらう人もいるでしょう。寒冷地ではスタッドレスタイヤと交換すると夏タイヤを有料保管してくれるサービスを重宝に受けている人もたくさんいます。
クルマを快適に安全に乗るためには、SSは社会的なインフラであると思いますし、人がいることで実現できているサービスがたくさんあってそのサービスを受けることにより実現できるカーケアは私達の人生を豊かに変えていると思います。まさにSSはライフケアの一部分を担っているわけです。
もしも先のように究極のSSが生まれたら、激烈な価格競争に突入します。セルフで給油し、しかもゆとりのない効率だけを追及した小スペースで顧客は給油し、前金制度の象徴であるプリペイドカードを買うとなれば、訴求点は顧客の近くにある利便性とガソリン価格の安さだけですから、激烈な価格競争になることは目に見えています。
この姿は社会の一体誰を幸福にしているのでしょうか。
人、物、金経営を追い詰めていくと「究極のSS経営」スタイルがイメージできます。ここには関わる人すべての豊かな幸せも、その原資である利益も見つけることが出来ません。それは当然です。顧客戦略がゼロなのですから。
このビジネスモデルでは、誰が優良顧客化も特定できず、優良顧客がさらに購入を続けてくれていることも、逆にある日突然来店しなくなったことも、そのことが継続していることも、新客が増えていることも、減っていることも何も分かりません。顧客の姿が見えないで次のどのように戦略を打っていくでしょうか。
答えは見えています。売上げが下がってきたから割引率を拡大しようとする戦略以外に方法はないからです。
さてこれからが皆様に本当に伝えたいことです。
私はこれまで顧客戦略を導入する目的は、顧客創造・維持育成・ケアによるLTV実現であると自信を持って述べていましたが、さらに本質的な目的があることに気付きました。
それは、「顧客戦略を導入する目的は需要創造にある」という一点です。
顧客戦略の目的を一言でいうなら顧客との関係を深化して需要を創造することにある、となります。この話は来週のテーマにいたします。
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