【2009.09.04配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
自動車業界がリーマンショック以降、大変な落ち込みをしていることは皆様ご承知の通りです。2兆円の営業利益を出していたトヨタが、一瞬にして4千億円を超える営業赤字に転落してしまったわけですから、いかに落ち込みがひどいかが分かると思います。
今日は自動車業界の中でもプレミアムカーと呼ばれる高級自動車について語ります。
リーマンショックがあった当時、日本では影響力は少ないだろうと与謝野さんが話をしておりましたが、実態は世界でも一番影響を受けた国になってしまいました。
プレミアムカー市場は、顧客層が厚い首都圏でも大変に苦戦していますが、地方の販売店は散々たる状態で、これからも状況は悪くなる一方です。というのは、自動車ディーラーは店舗を作り、保守メンテナンスをするための設備費が大変掛かります。その上、社員を抱えて営業とメンテナンス、販促、管理、店舗運営をやります。販売台数に対してインセンティブは別途支払いされますが、一般にディーラーの販売マージンは定価の10%程度です。この事業は膨大な資金が掛かりますから、オーナーは担保を差し入れて銀行からお金を借りるわけですが、悪い状態が続くと資金繰りが悪化して経営を継続できる状態ではなくなります。状況が悪くなるというのはそうした背景があるからです。
今は、コンピュータが果たす役割は非常に強く、自動車はコンピュータ制御で動いているマシンといっても違いがありません。ですから逆に言えばクルマの違いがさほどないと言えると思います。製品にさほど違いがないということです。
例えばどのクルマでもスポーティ走行を選ぶと一気に加速をして運転を楽しむことができますが、これもコンピュータのなせる業です。
さて、ジャガーはその名声に対して日本国内では販売台数でみると過小評価されていました。
そのためジャガーは日本国内では非常に厳しい経営をしていましたが、最近復調を狙って次々と新製品を出してきています。なかでも9月末にプレス発表をするXJタイプはライバルのBMW7や、メルセデスベンツSクラスと比べて1クラス上の内外装とスペックを持ちながら一番安いグレードでは1000万円と、かなりの安い価格で殴りこもうとしています。
ジャガー販売会社の戦略は明らかで「1グレード上のクルマを1グレード下の価格で」提案しようとする考えです。つまりはBMW7シリーズとベンツSクラスの顧客に、それよりも1グレードアップのスペックで、それよりも1グレード下の価格で提供しようとする考えですから、こうしたクルマを購入できる層からすれば、安いと受け止めるに違いないのです。
ここからが本題です。
プレミアムカーを販売するディーラーもメーカーも、既存顧客への維持費にはお金をかけています。こうした顧客はわがままですから、一例を上げると「ぶつけてバンバーに傷を作ったので修理に出すからクルマを取りに来てくれ。修理が終わったら納車してくれ」と要求する顧客はいて、それに応えるべく人を配置しています。
それでは体系だった顧客ケア政策があるかといえばそうではありません。
例えばあるメーカーでは新車を購入すると2年間だけイメージ雑誌を送りますと案内が来て2年間だけ、私に言わせれば意味など何もないわけの分からない雑誌を送りますが、初めて購入した顧客でも10台も継続して乗っている顧客でも対応は同じです。2年経過したら送らないのです。既納顧客にはすべて平等であって顧客に公平に対応してはいません。
つまりはメーカーもディーラーも、一部のわがままな顧客に対して顧客ケアをするお金を使っているのであって、体系だった顧客ケアをしているのではないのです。
わがままな顧客は、購入するときは無理難題を押し付けます。値引き要求はもちろん、タイヤメーカーを指定し、営業マンを困らせています。中には酒を飲むから付き合えなどと要求する顧客もいます。一緒に飲もうではなく、運転代行をしろという意味です。
こうした顧客をつくってしまうことこそ、自動車メーカーやディーラーに、明確な顧客に対する根本的な方針(カスタマープリンシプル)がない証拠なのです。
私は9月末に本国から輸入されるジャガー新XJのプレス発表とその後に開催される、「限定された顧客に対するXJ特別発表会」で新XJを見てきますが、ここで大型プレミアムカー市場に新たなライバルが参入してくると、思います。顧客ケアをされていない顧客がジャガーに乗り換える率が増えると見ているからです。新XJはBMW7シリーズやメルセデスベンツSクラスに十分対抗できるほど性能面、デザイン面、価格面で魅力的です。
本来、顧客ケアとは、営業担当者と定期的な関係作りを行うこと。これは必ずしも自宅に訪問することではなりません。そしてイメージだけのわけの分からない意味不明なマガジンを2年間だけ送ります。それ以降は有料ですなどという顧客をなめた施策をやめて、あなたにお買い上げいただいた、あなたがご選択された、あなたが乗っていらっしゃるクルマがどれほどすばらしいクルマであるかを、徹底的に学習いただくようなマガジンを作ってお届けすることです。
顧客は自分の選んだクルマについて一切の宣伝臭を排除して、静かに説明をするように表現すれば顧客は強い関心を持って読みます。なぜなら自分がいま乗っているクルマのことですから。
こうした顧客ケアを定期的に続ければ、顧客は企業の代弁者になり、親しい友人にもクルマを進めるようになりますし、自分が他社のクルマに乗り換えることもなくなります。
私は今日、大手ハウスメーカーの営業本部に行ってきました。顧客ケアの施策を我が社はこのハウスメーカーのA支店で続けていますが効果が高いので営業本部全支店で展開することになったためです。そして新任の営業本部長は我が社がコンサルティングを行った支店の支店長が昇進をしたのです。
我が社の顧客ケアコンサルティングの成果を担当部長がこう語りました。
彼もまた最近まで我が社が顧客ケアコンサルティングを行った支店で営業を行っていました。
抜擢されて営業本部の部長になったわけです。
「私は300軒以上の実績がありますが、正直申し上げますと30%くらいのお客さまとは関係が続いていますが、残りはどうしても年賀状程度の関係になってしまいます。
A支店では顧客ケアコンサルティングを受けていまも続いていますが、私もおかげさまですべてのお客さまと親しい関係になりました。おかげで立替、もしくは親族や親しい友人へのご紹介が増えて、成果として支店単位では過去3年間で、3桁に近い棟数を、既納顧客から受を獲得しました。顧客ケアをやっていない時ではありえない数値です」
プレミアムカーの顧客ケアをまっさらに戻して新たに組み立てるべきなのです。いままでより少ない予算で確実に持続した関係を構築することができるわけですから。
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