【2009.09.25配信】
1995年は顧客ブームが全盛を迎える緒となった年でありました。その代表がドン・ペパーズ、マーサーロジャース両氏の共著「ワントウワンマーケティング」であったことはいうまでもありません。けれども顧客ブームには具体性がなく、洋書を読んでも実践方法は何一つ書いていませんでした。日本の経営者は顧客ブームを経営に取り込んで確かなものにするために模索を始めていた時期でもありましたから次々と紹介される概念に夢中で飛び込んだのです。
CS(顧客満足)は、顧客ブームの一つのエポックとなるものでした。もちろん洋書が火をつけたのですが、日本人によるCSの本は次々と発刊されました。
この傾向は日本では良くあるパターンです。ワントウワンマーケティングブームのときにもたくさんの人がワントウワンマーケティングの本を出しました。ワントウワンマーケティングに縁もゆかりも経験もない人がいきなりワントウワンマーケティングの本を書くわけですから中身はありません。しかも一回出せればそれであるものをすべて出し尽くしてしまい後が続きません。
私もワントウワンマーケティングの本を出しましたがPHP研究所から出した本は、かなりヒットをしました。その後もワントウワンマーケティングの専門家として位置づけられているのは、ワントウワンマーケティングブームになるはるか前から、服部メソッドと呼ばれたワントウワンマーケティング手法を編み出して、独自にコンサルティングの現場で展開をし、トライアンドエラーを続けながらブラッシュアップを行ってきた経験があるからです。
以前、グルナビの常務と話しをしたときに、うちはインターネットが出るはるか前から同様のビジネスを行っていたのですと言っていましたが、私はまったく同感をしました。
さて、にわかCSコンサルタントが成り立ったのは、CSの仕組みが非常に簡単だったからです。CSアンケートを書いていただいて集計し、評価をし、ランキング付けをし、評価の良い店は表彰し、悪い店は指導教育をするという極めて簡単なものですから、本もたくさん出ましたし、これならうちもできるからやろうということになって、CS大ブームが起きたのです。
さて、CSはどのような企業に取り入れられたかというと、一番はB2b2CのB社です。
分かりやすく言うと直接に顧客に販売していないメーカーなどが、販売店を経由して自社製品を使っている最終ユーザーにアンケートを送り、これを集計して販売店を評価する使い方として採用されていたのです。
私の知る限り、自動車メーカー、保険会社など、直接に顧客と触れていないラージB社が顧客(C)の声を直接に聴いて、販売店スモールb社を評価し,表彰指導する使い方が一番です。
二番はB2b、B2Cの会社が販売員を評価管理する意味でCSを導入しています。
どちらも上から目線です。
私もあるメーカーのコンサルティングをしておりましたときにCS評価表を見てメーカーの人たちが、こんな評価だからうちの機械が売れないのだと言っていたことを明確に覚えています。
CS満足度評価が高い販売店には、これからも高い評価をいただこうと励みになりますし、低ければ、改善テーマが明確になることで評価を上げていこうと努力目標ができますからそれなりに一定の効果があります。
ところがCSの評価が高いことと、顧客維持が実現するとは別の評価が出ています。顧客満足度が極めて高い自動車ディーラーの拠点でも、リピート率が40%台というケースが普通にあります。一販売拠点が販売した100人の顧客中、また同一販売拠点から購入してくれる顧客は40人で、前年度と同じ顧客数を確保するとなると60人は他社顧客を剥し取ることをしなければならないという意味です。
ですからCS調査は結構。大いにやってください。しかし顧客維持の観点から見ると、CS評価が悪ければ-(マイナス)、CS評価が良くても〇(ゼロ)であって、決して+(プラス)にはならないことを理解しなければならないのです。
経営の目的は、顧客創造と顧客維持にあると言い切ったのはドラッカーですが、いまのようにモノが売れない緊迫した激変時代に、CS評価が良いから安心であると言う考えは成り立ちません。顧客は不満でないから満足とも書きます。
私は、評価点を下げて記載すると営業マンの評価が落ちるのだろうなと思うとついオール5点をつけてしまいます。
5点法で5点をつけたから、この販売店から持続して購入し続けようとなどまったく考えていません。
CSは顧客維持には役立ちません。
顧客維持ができるのは関係性だけです。私がなじみの店で飲食をするのは、店主と私との間に関係性が生じているからです。私が同じ担当者からクルマを買っているのは担当者と関係性が生じているからです。
私が乗っていたクルマはひどい故障が連続しておきました。あるときなどは駐車場のクルマの下が一面に汚れていました。エンジンポンプの故障でガソリンが流れ出ていたのです。
私は近くの別ディーラー修理工場に運転して持参しましたが、真夏の炎天下、よく火災を起こさずに持ってこられましたと注意されました。
あるときはガソリンを入れるためにエンジンを切りましたが、二度とエンジンは掛かりませんでした。ドライブ中のスタンドで立ち往生をしたわけです。結末はレッカー車で東京まで運んで検査をした後、コンピュータの基盤をそっくり交換することでした。
ドライブは壊れ、我々は電車で家に戻りました。CSの観点では評価は1のクルマでした。
けれども私は同じ担当者から買い続けています。それは関係性ができているからです。
先日、某大手企業のコンサルティング部で仕事をしている本メールマガジンの読者から、メーカーのマーケティングが危機状況であると叫びに近い便りをいただきました。
良いものをつくれば売れるのだとするメーカー発想は根強く人々を支配しています。この支配がマーケティング発想をつぶしています。うちの製品は一流だが、売れないのは販売拠点のCS度が低いからだと置き換えてしまうのは簡単でしょうが、そんな考えでは今後50年を行き抜くことができるのか、私も同じように危機を感じています。
コメント