【2010.04.09配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
空港乱立が目立っています。また徳島阿波おどり空港が8日に新装開港しました。
滑走路を2500メートルに拡張して大型飛行機が離着陸できるようにしたそうです。
総工費は383億円だそうです。しかし大型飛行機の定期便はないそうです。
静岡空港のときもそうでした。我々航空行政の素人でも、静岡空港が成功するなど考えた人はいなかったと思います。テレビで静岡県民全員の願いと官僚が説明をしていました。
国民の多くは航空行政をあきれ返って見ています。ある企業経営者は、経営がまったくないと感想を述べていましたが、私は観点が違います。
日本中が造り手の発想から抜け出ていないのです。
いま、観光客が少ないのは大型滑走路がないためだ。滑走路を2500メートルに拡張すれば大型ジャンボがどんどん飛んできて日本中から徳島に観光客を送り込んでくれるようになると、いまだに造れば解決すると思考しているのです。
造り手の発想は高度経済成長時代に組み立てられた考えです。この時代はよいものを造れば商品はお客さまから買いに来るのだと誰もが考えていた時代です。
私は高度経済成長時代に至る以前の時代を重視します。昭和20年(1945年)に日本は戦争に負けて連合軍に占領されました。日本は敗戦で大きく変わります。今で言うパラダイムシフトがおきたのです。その前のパラダイムシフトと言えば明治維新でしょう。いずれも外圧で変えられたのです。明治維新は下級武士による革命でしたがその要因は外圧でした。尊皇攘夷(弱体化した江戸幕府を倒し、外国人を追い払い天皇中心の国家を作ろうとする思想)思想が生まれたのは黒船による脅威でした。
逆説的に言えば、日本は外圧でしか変わらないです。それは民が主になっていないからです。
日本では「民」はなかなか「主」になれないのです。日本歴史が生まれてから、第二次世界大戦終了まで、約1500年間、民が主などと言う思想は日本にはありませんでした。
白土三平の劇画「カムイ伝」に登場する搾取され続け戦乱で踏み潰される庶民の姿が、日本の民の姿であったと想像して大きな狂いはないと私は思います。
もちろん、江戸時代には庶民の文化が花開いたこともあります。けれども民が主ではなく、戦乱がなかった期間が長く続いただけであって、民が主ではありませんでした。武士に生まれた人間は武士になりました。商人に生まれた人間は商人になりました。人間は平等で国民が選挙をして代表者を選び代表者が政治をすることは、現代では出来上がっていますがあくまでも形式上のことです。
この話は大事な伏線です。
昭和20年に敗戦して米軍を中心とした占領軍が日本を統治しましたが、始めは農業国にする設計図をマッカーサーは描いていました。それが戦後に始まった東西冷戦構造と昭和25年に勃発した朝鮮戦争で、占領軍の考え方を180度変えることになります。
日本を極東となぜに言うのかと不思議に思われる方もいると思いますが、アメリカの世界地図はアメリカ大陸を中心に配置し、日本は一番東に描かれています。これが日本地域を極東と呼ぶ原因です。東西冷戦になって日本は極東における西側の砦にしないといけないという発想から日本は工業国へと転進をします。もちろんアメリカの政策です。
さて、敗戦した日本人は自信を失いました。大きく四島(北海道、本州、四国、九州)は残ったものの南西諸島はアメリカに、北方領土はソ連が支配しました。
アメリカの文明は日本文化を覆い尽くしました。日本人は自信を喪失し、流浪の民になってしまったのです。ここで言う流浪とは精神の流浪を意味します。当然です。戦争に負けたのですから。
いま、民主党が普天間問題の解決ができないでいますが、国民ははらはらしてみています。
アメリカを怒らせたら大変だという感情がみなぎっています。
核サミットで大統領は鳩山と会談をしないと新聞に出るとコメンテーターが、本当にまずい。アメリカが怒ったら日本は吹っ飛んでしまうなどと評論してそれが世論になっていますが、こうした考え方も民が主になっていない証拠です。日本人の精神は今でも占領下にあり、漂流していると私は思うのです。
日本人にとっての唯一の成功体験が高度経済成長時代の体験です。
造れば売れるという発想は高度経済成長時代の思想です。官僚が税金を使って意味のない投資を繰り返していますがこれも高度経済成長時代の思想が残っているからです。時代が変わったことを心から気付いていないのです。
高度経済成長時代の発想を変えられない根拠はもう一つあります。それは日本の企業は大きくなりすぎたことです。
大量生産、大量販売をしなければ、いまの経営を維持できないとの思想があります、
私はもう外圧はないと考えなければいけないと思っています。外圧があるとしたら日本は復活できないほどに打ちのめされた後です。
だから自律的に変わっていかなければならないのですがそれはできません。日本人は相変わらず国家の主になっていないからです。それは低い選挙の投票率を見ればわかります。
日本人は実に中国や韓国ASEAN諸国を軽視していました。オリンピックが終わったら中国経済は崩壊する。いや上海万博までは持つがそれが終わったらバブルは崩壊する。
いまはどうでしょう。中国へ出かけて金儲けをしましょうとする本が売れています。誰もが中国の人口が大きいことによるビジネスの可能性を口にします。
海外に投資した会社で儲けた利益を日本に持ってこないのは、日本に投資の魅力がないからだと経営者は異口同音に語ります。
しかし私からすれば、造れば売れるという発想がこの民族の主体に存在しているからそう考えるのであって、それでは残された成熟・少子高齢化国家日本をどうするのか、日本の雇用をどうするのでしょうか。国の将来をどう考えるのでしょうか。
日本の未来をどうするのかとなると、誰もが口をつぐんでしまいます。
日本の経営者はCO2削減目標が厳しいから、海外へ出るぞと言っています。
私はこの国は戦争で負けてから65年経過したいまも漂流を続けていると思います。
そして政治家も、役人も、経営者も、国民さえも国家を食い物にしていると思っています。
名古屋市の河村市長は民主党の国会議員でしたが名古屋市長に転職しました。
マニフェストで市民税を10%削減すると発表しました。民主党が応援しました。
河村市長は、議員削減、歳費半減を打ち出して自らの給料も年報酬800万円にしました。
この提案を議会にすると民主党も反対に回りました。市民税1割減は1年限りの時限立法で可決しました。あとはすべて議会で否認です。
皆、造れば売れると考えているのです。時代が変わったことを理解できないでいるのです。
日本人が持ったポテンシャルはどこに消えたのでしょうか。日本人の誇りや美意識はどこへ消えたのでしょうか。武士道の精神はどこへ消えたのでしょうか。
いまの日本人が求めなければいけないことは、空港を拡張することでも山にダムを造ることでもなく、日本人がかつては持っていていまは失われてしまったものを探すことだと思います。答えを先に言えば、家族を愛し、子供を教育し、企業であればステークホルダーとの共生社会を構築すること以外にないと思います。
一時期、組織図を逆さにして最上位に顧客と描いたことが流行りました。いまは顧客が株主に変わりました。
最上位にステークホルダーと描いて、ステークホルダーとの共生・共歓の社会を実現することを目的とするなら、造れば売れるとする発想も消え去ると思います。
大量生産、大量販売はコストとの戦いです。高度経済成長時代に日本の製造コストは低かったのです。だから高度経済成長のモデルに乗っていけ、日本製品は売れたのです。
それがいまは新興国に変わっている。当たり前のことです。高度経済成長時代から何十年経っていると思いますか。高度経済成長時代とは1955年から73年までの18年間です。
中国もやがて成熟しASEANに追われる日が来るでしょう。ASEANもまたコストの安い国に追われるときが来るでしょう。
もう半世紀前の出来事で成功した体験を50年も過ぎたいまでも追い求めているのはおかしいと思わないのでしょうか。コスト削減が決め手となる大量生産、大量販売方式をこれからも賃金が安い新興国と戦って勝ち抜いていこうと考えるのでしょうか。
新興国はこれからも次々と生まれ土地や人件費が安いことを背景にして大量生産国になっていきます。日本人は、日本製は性能が違うといいますが、高価・高性能を求める人たちは発展途上国ではわずかの人々です。昔の洗濯機を思い出してください。脱水機能はローラー手絞りであったはずです。スペックの半分以上は使いこなせない高性能な機器でなくても発展途上国の人々は重労働から解放される安い機器があればそれを求めます。
日本人は大量生産大量販売のモデルから抜け出すことが急務です。企業がこのビジネスモデルを追いかける限り国内は空洞になり続けます。
日本が生き抜くためには自律し、ステークホルダーとの共生社会を実現することこそがベストな選択であると私は思います。
多くの人は競争関係を理由にして負けない企業を作るのだといいますが、共生関係を目標とするなら競争相手のことを考えることは必要ありません。ステークホルダー、特にお客さまとの対話を一番大事に考えていれば競争相手のことは考えなくても済みます。
性能も、価格も、ライバルを特別に気にしなくても、お客さまが一番正しい答えを教えてくれるからです。
そして関係性を重視すればLTVは実現します。
日本企業は、大量生産、大量販売が企業を支える原理原則と考えて、この原則を支えるものはコスト削減であると考えています。そしてものは造れば売れるのだと考え、造っても売れないのは市場が悪いのだと考え、造れば売れる中国やインドASEANに進出するのだと考えていますが、実におろかなことだと思います。顧客に目を向けていないから売れる市場が開発できないのです。
日本人に巣食っている病巣は高度経済成長時代のモデルからパラダイムシフトができないこと。このビジネスモデルを変えられないことにあります。モノは造っても売れないのです。2500メートル滑走路を造ってもジャンボ機は飛んでこない。それでも大型滑走路を造れば大型飛行機が飛んでくると考えている官僚たち。
こんなニュースから以上のことを考えました。
コメント