【2010.04.02配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
最近、ある企業から電話があって「ネットでの新規事業をやるのだがCRMが必須と考えていろいろと検索し、本も読んだが御社に行き着いた。そこで会いたいのだが打ち合わせには社長も参加いただきたい」と、なぜか都心のホテルを指定されました。
話を聴いていくと彼らが考えるビジネスモデルは、足が地に着いていない非現実的なもので、目標をLTVに置いたというのですがこれをネット通販の情報システムだけで実現すると言うのでした。
彼らが持つ提案書は某IT企業が制作したもので、各ページにはIT企業のマークがマスター登録されていましたから、この提案書はIT企業が制作したものであることは一目瞭然で分かりました。
話の目的は私たちの力量を確認したうえでCRMのコンサルティングを受けたいということでした。私はこのビジネスモデルは絵に描いた餅であって実現できないモデルであり、自分たちだけが都合がよいことだけが書かれているが顧客はこのように動くことはないと、顧客を無視したものであることを分かりやすく説明しました。CRM以前のビジネスモデルの欠陥でした。
彼らの主張はここに約10万人の顧客がいるというものでしたが、顧客とは名ばかりで、過去にイベント申し込み顧客のEメールアドレスだけでした。過去に取得したメールリストにメールを送ってHPに誘導し、一回の顧客を生涯の顧客にするのだということが提案書に書かれたことで、彼らが信じてやろうとしていることでもありました。その実現手法が分からないからコンサルティングをお願いしたいと言うことです。
多くの企業が新規事業に進出をすることがブームになっています。いまから25年前ほどは、リストラと言えば古いものを捨てて新しいものを取り入れるという意味でした。新規事業ブームが起こりましたが、挑戦した企業はことごとく失敗をしました。
そしていま、不況でかつ時代変革時期にあって従来の事業は縮小するから新規事業に取り組もうとする動きが増えてきています。
そして新規事業の多くはネットビジネスを考えていることです。
ネットビジネスはアイディア勝負のところがあります。アイディアとはビジネスモデルのアイディアのことです。
そのアイディアをIT企業から出ている提案書に頼っているのですから驚きでした。
IT企業は、決定したビジネスモデルの業務要件定義を受けてシステムを構築する部門です。
彼らには顧客を育成する力もLTVを実現する能力もありません。私は確信します。
先の事例に戻ります。なんと自分だけが都合がよいことを書き並べているのでしょうか。
例えば顧客を育成するためには顧客の心を動かすことが必要であり、LTVを実現するためには持続した関係構築が求められます。しかし提案書にはいとも簡単にLTVが実現できて長期的な売上が確保できることが書かれてありました。
ネット通販でポイントを付加する事でなぜにLTVを実現することになるのでしょうか。
顧客がこの会社は信頼関係も出来ているし商品も優れているし、売り込んだりしないし、誠実に関係を持続していると思わない限り、生涯顧客になるはずはありません。
CRMでは、顧客育成やLTVを実現目標に掲げていますが、システムだけでは実現できないことはいうまでもありません。
システムはあくまでも道具であって、人間の知恵が設計し組み立てた論理が乗らなければ実現などできないのです。
いまは新規事業を興せと言う命題だけを戴いて、調査予算が付いて、1年間をめどに新規事業計画書を作成すると言うことで動いている企業がたくさんあります。
不況だから新規事業を企画するとはありがちな話ですが、大事なことは企業のコアコンピュタンスを見つめ直し再構築することではないでしょうか。
私がお会いした企業は、新規事業開発に予算を取って、「企業生命をかけていて失敗は許されないのです」と悲壮な顔で語っていましたが、それならなぜに専門性がない未知の業界に、これからはネットビジネスだからと言う理由だけで入ろうとするのでしょうか。
我田引水の典型的なモデルというべき、顧客もステークホルダーも無視して自分だけがよくなるような、すべては提案書どおりに顧客が動いてくれて、売上が伸びていくようなモデルがなぜに信じられるのでしょうか。
私の経験則では、多くの新規事業開発会社はやがて企業のお荷物になり、企業の盲腸のように扱われて最終的に削除の運命になります。
これからの時代に生き抜くために必要なものは「専門性」と「関係性」です。
関係性がない業界に非専門分野で、ネットビジネスを持って参入することは、いくら高名な会社でも失敗する道を分かっていて押し進むということです。
このことは資金力があることで解決することではないのです。
私はこのビジネスモデルで関係性を実現することはほぼ不可能に近いでしょうと申し上げましたら、それではどのようなビジネスモデルがよいのかと真剣に請われました。
これではコンサルティング依頼のミーティングにはなり得ませんので私たちは早々と場を辞して戻りましたが何ともやるせなさが残りました。新規事業を考える企業にとって少しでも参考になればと思い、認めました。
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