【2010.05.21配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
求職者向けの本を読むと面白いです。例えば航空業界に入社して空港カウンターを3年やると他社では使い物にならなくなるなどと会社のイメージとは裏腹に業務の実態が書いてあります。
先日、ある大手ホテルのバーで知人と酒を飲んだのですが、前に立った女性がいうには、「私は早稲田大学を出てこのホテルに入社したらバーに配属後、5年間こうしてバーテンダーの仕事をしています。私はバーで酒を売るためにホテルに入社したのではないのです。やめようと思っているのですが、5年もバーテンダーをやっているとほかに勤めようがありません」というのです。
以前にも書いたことですが、企業の社員教育はOJT教育が中心です。会社業務の精通者を作ることに力を注いでいます。
この女性もやがては、人事異動で他の部署に異動するかもしれませんが、他の部署に回っても1からやらなければいけないわけです。
先日、ある大企業の人事部長にこの話をしました。つまりグローバル時代に、日本企業はローカルでしか通用しない人間を育て、ここで解雇だといわれてもグローバルに育っていないから結局は一流になれない。ここは人事部として大きな課題ではないかと言ったのです。「その通りだ。そのためにはローカルの業務をグローバルな業務に変えていかなければならない」と人事部長は言うのです。
これはどういう話でしょうか。
この話の本質は業務プロセスのことです。企業が構築した業務プロセスをどこでも通用するグローバルな業務プロセスに置き換えて業務の質を高めることが必要という話です。
自企業内でしか通用しない業務プロセスを、世界中どこでも通用する業務プロセスに変えていく。これをやらなければならない。しかし課題は大きいと人事部長は言うのです。
この話はまったく同感です。
私たちの顧客戦略に置き換えると分かると思います。
いつも言っている事ですが日本企業で顧客戦略〈カスタマープリンシプル〉を備えている企業はごくごくわずかです。
ですから企業は顧客に対しての方針に基づくプロセスを持っていないのです。このことは私たちのように顧客戦略を四半世紀も専門に行っている観点では信じられないことです。
顧客は売上と利益を作ってくれる唯一の存在なのに、なぜプロセスを持たないでも平気でいられることが信じられないという意味です。
顧客戦略を持っていれば、顧客と関係を深めることができますし、関係を深めた顧客とさらにアクションをとることもできます。
けれども顧客戦略を持っていないから、商品を売り込むことしか発想がないのです。
結局は、「どこよりもよいものを、どこよりも安い価格でご提供」というマス・マーケティングの坩堝(るつぼ)に、はまってしまっています。食品販売業が大安売りをしているのは、自分達は不特定多数の消費者〈生活者〉を相手にしているからその方法しか手がないと信じ込んでいるからです。
先日、事務機メーカーのセールスマンから電話があり、いまのコピーしよう料金より30%安くしますのでお会いしたいという事でした。つまり、いまのランニングコストを30%下げますから新しい機械を購入してくれというお誘いです。
新規導入した毎月のリース料を支払うとしてその分も含めて30%引きます。絶対に得ですというのです。私たちの複写機の使用実態を調べない前にずいぶんと大胆な提案だと思ってお会いしました。
「その話はありがたいですが、お宅の身を削った30%ではないですか」と聞きましたら「そのとおりです」と答えました。「それではウインウインにはならないですね」といいますと、「うちはお客さま第一です」からと回答を返してきました。
事務機の販社は顧客と関係性を構築していません。売れなければさっさと引き上げて次の顧客に集中し、販売した顧客を担当営業は結果として無視しています。
だからこのような時期になると30%安くなりますとしか、顧客にプルローチができないのです。
お客さま第一とはウインルーズの関係を構築するのでなく、顧客の求める価値を発見し実現する事で企業の価値も実現するということです。身を削って顧客の利益を作ることではありません。
一方、私たちがコンサルティングを行っている大手メーカーでは、昨年1年で既存顧客に対するケアーで関係促進ツールを制作して送付しておりますが、既存顧客による新規顧客紹介による受注額がなんと約100億円あったということは、先号のメールマガジンで書きました。顧客戦略を展開している企業では、このようなことが現実的に起きているのです。
話を戻しますと、顧客戦略を持たない企業は、顧客戦略を実現できません。
したがってどこの会社でマーケティングを何年間やっていましたと次の就職予定企業で履歴書を書いても、顧客マーケティングについてはまったく分からないまま入社することになります。
また話が変わります。
私はある銀行系投資会社とアドバイザリー契約をしておりました。この会社は経営悪化を伴っているが将来的に可能性ある事業をしている企業に投資をして経営を建て直し、株を販売して利益を稼ぐ金融会社です。
この関係で投資先を建て直しするために、投資会社によって他社から引き抜かれて入ってきた人とたくさん会いましたが、引き抜かれるほどの華麗なる経歴とは裏腹に彼は前職でやってきた以外の仕事ができないのでした。
グローバルな仕事をしていたのではなく、見に付けた業務はローカル業務であったわけです。
投資会社はいらだちます。お金を借りて、あるいは投資家から集めてこの企業の建て直しにそれらしい人を高級で雇っているのですから。
しかしできません。前職の範囲でしかできないのです。
事例を申し上げますと、ある大型流通業の建て直しに、その業界では一流、トップクラスのブランドを持つ支店長を歴任し、執行役員であった人が営業担当専務取締役でおりました。
しかし彼の売上回復策とは極端に値引きした値引きチラシを配ることだけでした。
私はこのような人をたくさん見ています。
いつまで経ってもらちが明かないので、投資会社はアドバイザリーである私のようなプロをコンサルとして別契約し、売上を伸ばしていくことを具体的に展開していくのです。
私はその専務と話をしましたが、「自分は大きな会社でやってきた。この会社は小さな会社だ。だからやれると思っていたが私は大きな会社では偉くなったら判断をするだけで実務はしなかった。実務は、若い頃の経験でしかない。この会社は小さくて企画立案
からコピー制作まで自分が担当しなければならない。転職の判断が甘かったと言っておりました」が、その後退職をされました。
私は彼がプロセスに注目していないことと忠告しました。同時に営業の責任を持つことは売上の責任を持つことであり、それはコンテンツ制作の前に仕組みが必要で、いきなりチラシコンテンツを制作し配布することではないでしょうと、瞬間的な販促を打っていくらヒットしたという事が専務としての仕事ではないはずと、私たちの仕組みづくりの手法を分かりやすく話をしましたが、もうついてはいけないと言っておりました。
その会社は社長もトレードされてきたのですが、やはり退職されました。
このように日本の企業はあらゆる分野で専門家がいないのです。CRMの分野についても同様です。専門家はいません。いるはずがないのです。顧客戦略さえ企業にはないのですから、顧客を動かす専門家ができ、そして育つ下地がありません。
このことは日本の企業に影を落としていると思います。
いま、商品を売ることに専念し、売るために価格を下げて対応する企業がいかに多いことでしょうか。
企業に顧客戦略がないからこの価格競争が始まっているのだと考えないのでしょうか。
専門的な知識と知恵を教えずに、企業内で行われてきた慣習を踏襲してきたことが、誰も得しない悲劇を生んでいると思います。
.企業は業務プロセスを見直して業務プロセスを実現するための業務を構築するべきですし、すべての課題は業務プロセスに問題があるのだと認識すれば、業務改善は売上改善に至るまで実現することになります。
企業はそのような事ができるように人を育成すべきで、その結果他社に優位な報酬で引き抜かれたら誇りと思わなければいけず、また企業はそのような引抜きが起きないように条件を定めなければいけないと思います。
カスタマープリンシプル協議会で、顧客戦略の勉強会を開催しています。
参加者は数年後には顧客戦略のベテランになると信じています。
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