1995年にドンペパーズ、マーサ ロジャースズ著で「ワントウワンマーケティングフィチャー(ダイヤモンド社)」が出版されて、「ワントウワンマーケティング」という用語が一気にIT業界に広がった。本書では来るべきインターネット時代に備えて、マーケティングの施策を顧客にフォーカスしなければならないことを説いたもので、本書がヒットしたことを受けてITベンダーが開催する展示会はワントウワンマーケティング一色の時代があった。各大手ITベンダーはドンペパーズ氏を招聘し大きなセミナーを開催するなどワントウワンマーケティングの普及に努めた。いまから8年位前の頃である。
しかしながら本書は概念論であって、具体的な手法を提示していなかった。そのため掛け声とは別に中身がなくてITベンダーの展示会に参加しても何が、どこが、なぜワントウワンマーケティングなのか理解できないものばかりが展示されていた。
その多くはデータベースそのものや、分析ツールのようなものであった。
すでにこの時代に、1996年頃からITベンダーが提案するものとマーケティング観点から見たものに差が生じていたのである。
どのIT企業が紹介したかは定かではないが、CRMという用語が日本に紹介され、同時にSFAがパッケージとして日本に紹介された。パッケージを得たことによってITベンダーは一気に勢いついた。いままで大騒ぎをしていたワントウワンマーケティングという用語は消えて、CRM一色になった。
この時代に、つまり2000年前後には世界中のCRMパッケージが日本に集まったと言える。日本の経済界ではCRMが話題になり、特に製造業を中心にして営業マンのプロセスを数値化することによりプロセス管理と案件を紐付けるSFAが大ブームになった。
CRMパッケージではどちらかというと顧客との接点をもつもの、Eメール発信、マイページ作成、SFAなどいわゆるフロント部分が中心となっていて、データベースをどう使うかということについては新しい概念はなく旧来からのデータベースマーケティングそのものであった。つまり通販とともに発達したマーケティング手法で分析して抽出した顧客にDMを出す、メールを出すというものであった。
CRMブームに乗って、さらに色々なパッケージが出てきたものこの時代である。
Eメールを発信する機能をCRMと呼び、HTMLメールを出す機能をCRMと言った。
中にはFAXを送付する機能までもCRMと呼んだ。コールセンター機能もCRMと言った。SFAはもちろんのことである。何でもCRMになってしまったのである。
いずれにしてもCRMという用語はきわめて上位概念的な用語であって、言い換えれば非常にあいまいな用語になってしまった。
心あるITベンダーの経営者の中には「CRMは死語である」と言い切っている人もいる。CRMという名は体を表わさない。またマネージメントでは売り上げは上がらないというわけだ。
そうなのである。SFAで日報をつけてプロセスを可視化できても、売り上げを上げることはできない。Eメールを発信できても売り上げを上げることはできない。営業マンの行動を厳しく管理しても売り上げを上げることはできない。行動を管理することによって販売生産性を上げるという概念はいかにも製造業のTOPには受けそうなことである。
しかしながらこの概念は一番重要なことを忘れている。それは、製造部は社内であるということだ。TOPは社内に対しては指示命令をすることができる。製造プロセスを可視化できるようにして、納期を短縮しコスト削減をせよと。製造部は忠実に従うであろう。組織TOPからの指示命令であるからだ。一方営業に対して営業プロセスを可視化して販売生産性を上げて売り上げを増やせと指示命令をしても増えるとは限らない。
購入を決定するのは顧客であり、営業マンではないからである。
営業マンや店舗での販売員に対し、早朝会議を行うので朝8時に出勤をせよと指示すれば営業マンや販売員は指示に従う。しかし本日中に目標ノルマを達成せよと指示しても、営業マンや販売員は指示に従うことができない。従いたくとも従うことができない。
だから新しいマーケティング手法が必要となる。それは売り上げを上げる仕組みをどう作るかというテーマになる。
ここで営業改革という言葉を考えてみよう。営業の目的は売り上げを上げ、維持し、増やすことに尽きる。利益を上げることは営業だけの働きではない。製造部のコストダウンで利益を上げることもできるし、在庫を正しく調整できれば利益を伸ばすこともできる。全社の人的生産性を向上させれば利益を増やせる。
しかし売り上げを増やすことは営業部の仕事である。営業部以外に、企業のどの部署も売り上げを作ることはできないからである。その営業を改革することとは結果として売り上げを増やすことと連動しなければ意味はない。少なくともプロセスを可視化することは手段の一つであって可視化したプロセスをいかに契約率アップにつなげていくのかという思想がシステムに組み込まれていなければ導入することに何の意味はないのである。
営業マンのプロセス管理CRMを見ても、大部分の営業マンはいやいや仕方なく使っている。なぜいやかといえば二つある。一つは自ら作成するデータで自らが厳しく管理されることを営業マンは厭うのである。管理されても売り上げが上がらないことを一番に知っているからである。購入を決めるのは顧客であり、営業マンを管理することで売り上げが上がるとはつながり難い。不良社員を撲滅し、乱れた風紀を是正することが導入の目的ならかちはあろうが。二つにはプロセス管理CRMには売り上げが伸びる仕組みが付加されていないからである。
言い換えればワントウワンマーケティングとCRMの歴史といっても10年足らずのものだが、ここにきて、歴史的にいろいろなパッケージやエンジンが登場し、それらが浮沈しながら時代は売り上げを上げる仕組み、契約率を高める仕組みをもったメソッドの登場を要求するようになってきたということである。
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