顧客識別の難しさはこれまで話してきたことにある。
システムだけで顧客を識別することは決してむずかしいことではない。システムを使って画面上に顧客のランクや属性を表現することはいとも簡単にできることだ。しかし現場でそれをどう使うのかという観点では、別な課題が出てくる。
ITに表示したからといってどう使えば業務がどう改善され、結果として売上げがどうアップするのかは、マーケティング理論に基づかないと、解決することではないのだ。
ITでできることと、出来た結果として何が実現できるのかとの差分が明らかに問題になっている。
例えば営業プロセスの可視化もIT企業なら可視化することはいとも簡単にできる。
しかし可視化したらその後にどうすれば売上げが上がるのかとなると解はもたない。
だから、多くの企業はプロセスを可視化したあと、そのプロセスが正しく定義されたとしても、つまりは営業マンの行動管理に終始してしまう。
RFM分析もそうだ。IT企業はRFM分析を簡単に作ることが出来る。
しかしその先、RFM分析を使って何を実現するのかの正しい解を持つところは少ない。
その結果、RFM分析を使うどの企業も、RFM値の高い、つまり最近来店し、頻度も多く、購入金額も高い顧客を優良顧客と定義して、常にRFM値の高い顧客だけを対象に関係費を特化して、関係を深めようとしている。しかしRFM分析は一定期間の集計情報をタイムスライスしたものであって、別の期間で集計し直せば、RFM値の高い、つまり優良顧客と定義した人たちの多くが入れ替わっていることが当たり前である。
ABC分析では2年間の比較で売上げの80%を占める上位20%の顧客のうちなんと40%が入れ替わっていることが各社のデータで明らかである。
RFM分析をどう使えば正しく使え、どのように使ったら間違いであるかをIT企業の多くは知らない。だからRFM分析で顧客を抽出してDMやEメールを出している企業は成果率が低いことを嘆くだけで、手法が誤っているから成果が少ないことを知らないでいる。
私はこの差分が、顧客マーケティング系、あるいはSFA系などいわゆるCRMに関してITに対する不信感になっていることを感じてならないのである。
その理由は、導入企業の担当者が代弁している。「なんだ。いくらやっても売上げは伸びないではないか」「RFM分析でDMをだしても全然ヒットしないじゃないか」「SFAで業務プロセスを可視化しても契約率は伸びないではないか」「営業マンの時間管理をすることが営業生産性の向上か」
巷ではこうした声が満ち溢れているのである。
だから鳴り物入りで登場したCRMのパッケージの、その宣伝文句、例えばLTVを実現するとか、顧客の維持育成、離脱防止を実現するなどということを鵜呑みにする人はいなくなった。
ことは全てデータベースで抽出されるデータをどのように扱って目的に向かって業務プロセスを再構築するのかという技術が欠落していることから起こっている。
ここがわからないとIT企業と顧客企業の差は埋まらない。差を埋めるためにはIT企業はデータを使って業務プロセスを再構築する技術を学ぶことしかないのである。
ITが全てを構築するのではなく、ITは単なる道具に過ぎない。この認識が必要だ。その上でこの道具を使って何を実現するのか。顧客維持育成なのか、離脱防止なのか、LTV実現なのか。そこが大事なところなのである。
ITがあって、そのITに実現したい理論と手法が搭載してあれば、業務がどのような膨大な量であっても精緻に決め細やかに決めたプロセスを実現することができる。
だからITは必要不可欠な道具なのである。
ITは必要不可欠の「道具」という認識があれば、道具に何を載せるか、あるいはこの道具を使って何をどうするのかということが指示できるようになる。
パッケージさえ導入すれば、全てができると思ってしまうから、期待値と実際値に差分が生じる。その差分が何度も言うが問題になっている。
したがってこの差分が埋まらないかぎり、人気商品であってもいつかは消えていく、また差分がしっかりと埋まって、成果が出れば必ず企業に定着し、根を張っていく。そういうものなのである。
顧客識別が難しいのは、顧客識別というところに顧客を識別する理論が定義されていないからである。定義さえしっかりとされていれば、定義に添ってITを設計し、定義に添って顧客を抽出することが出来る。
この役割は、本来はマーケティングコンサルタントである。マーケティングコンサルタントが、顧客企業にあわせてITの使い方をしっかりと定義することが出来れば差分は相当に埋まるはずだが、残念なことにマーケティングコンサルタントにマーケティングをわかる人がいない。日本のマーケティングはマスマーケティングが主流であって、マーケティング会社とは電通、博報堂などの広告代理店のことでもある。広告代理店以外のマーケティング会社といえば、マスマーケティングを補完する調査会社しかないのが実態である。市場調査やアンケート調査には長けていても顧客を定義し、売上げを上げる手法を定義し、その上でITを定義するようなところまで成熟していないから、多くのマーケティング会社はこうしたことができない。そこで相変わらずIT企業と顧客とには、差分が生じたままなのである。
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