CRMを担当し、顧客データベースを分析する人は、どの企業でもいる。彼らは「自分は顧客のことは何でも知っている」と必ず胸を張っていう。例えばランク・年齢別一覧表などをいつも見ているから当社にとってAランク顧客のうち40歳から49歳までは21%、50歳から59歳までは19%などと、すらすらと言える。
うちはウイークエンド型で土曜日に全顧客の28%が来店し買い物をすると暗記しているかのように言える。
初めは会社の役員も興味深そうに顧客データベース担当者の話を聞き、資料を見入る。
「すぐにCRMの効果が出たね。コンピュータはさすがすごいね」と絶賛されるのは、大体3ヶ月である。4ヶ月目になると「これはもうわかった。それでいつ売り上げが上がるのか。どうあがるのか。なぜあがったのかを報告して欲しい」となる。
多くは抽出した顧客にDMをだすようになる。そのヒット率を報告しようとするわけだ。
当然、RFM分析で直近に購入し、頻度の高い、購入金額の高い顧客はよい客だということになっているからRFM分析でハイスコアにいる顧客にDMをだす。
事実低いランクにいる顧客と高いランクにいる顧客とではDMのヒット率は桁外れに違う。こうしてDMを出すとヒット率が分かる。報告書には4.5%のヒット率でお買上金額は865,320円、DMを作成した費用と切手代で58,300円。14.84倍の売り上げ効果です。収益効果では粗利率平均28%として242,290円。費用対効果は4.16倍ですと書かれる。
けれども顧客はいつも買い続けない。特定の顧客群、例えばRFMのハイスコア客にだけ出し続けると、ハイスコア客のヒット率は下がってくる。顧客はDMに反応をしなくなるのだ。そこでCRM担当者は窮地に陥る。次に模索するのは当たるDMだ。安くしなければ顧客は来ない。だからセールのお知らせをDMで、知らせようということになる。初めは20%引きでもヒット率が上がるが、やがてヒット率が下がり、次は30%にしないと顧客は来ないのではないかということになる。安くしてインセンティブを付けなければ顧客は来ないとする、チラシを作る時の心境に陥ってしまうのである。以上が流通業でCRMを導入する一般的なパターンといえる。
何が不足しているのだろうか。
一点は、原理原則的なことからいえば何をどうしたいのかという「そもそも論」が欠落していることがわかる。
RFM分析の本質を見極めないまま、「RFMハイスコアにDMを出しておけば問題はない。上司からヒット率が下がったがどういう抽出をしたのかと問われた時に、RFMハイスコア顧客にDMを出していけば文句のつけようがない」という発想で顧客を抽出している現場。つまり企画から現場にいたるまで販売組織にそもそもCRMとは何ぞやとする議論がなされていないことが一番の課題である。
私は、「コンサルティングとは定義をすることなり」と、考えている。
ここでいう企画ポジションから売場にいたるまで一気通貫に貫く議論とは定義をすることと同じことである。まずはRFM分析とは一体どのような分析なのかをITベンダーの説明を鵜呑みにしないでよく考えて議論してみることである。
RFM分析は1930年代、アメリカの通販業者が,無駄な通販カタログを送るのをやめるために、送らない顧客抽出基準を作った。最近買わない人には送らない(R)。購入頻度の低い顧客には送らない(F)。購入金額の低い顧客には送らない(M)。つまりRFM分析は、そもそもは顧客との関係切断メソッドである。
RFM分析はタイムスライス集計である。タイムスライスとは時間を輪切りにして切り取った一瞬の断面のことである。RFM分析で優良顧客と言っても顧客には優良客とフラグが紐付いていないから、その顧客がRFMハイスコアから外れれば優良顧客ではなくなる。顧客は買い続けないからRFMスコアをいつも動く。最後に一年間未購入であれば切り捨ててしまう。潜在能力のある顧客であったとしてもだ。こういう議論がなされていたらRFM分析では顧客を育成することはできないと、すぐに分かるはずである。
だからデータベースから集計データで顧客を抽出しDMを出す行為は、結果としては意味なく目的なく無選別にDMを出していることと同じことになる。顧客を育成するのだとする「そもそも論」を解決しないで、ただ単にDMのヒット率を競うから、ヒット率を論じる以前に決めておかなければいけない定義を無視しているがために実際の作業が大混乱をしてしまっているのである。しっかりと定義がなされていれば混乱は生じないことなのである。
全てを定義していれば目的と実施に至るプロセスが、営業組織の末端まで運用がぶれることはないのである。
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