優良顧客ってCRMの業界では日常的に使っているが、優良顧客って何のことだろう。
優良顧客をどう識別すればよいのか。
優良顧客という言葉は簡単に使っているが、定義は難しい。
ここを考えてみよう。
1. ABC分析の上位顧客を優良顧客とする考えがある。
ABC分析とは顧客ごとに過去一定期間の累計売上げを降順にしてリスト化したものである。累計比率で上位20%の顧客で売上げの80%を達成しているというように使う。2:8の法則はABC分析では把握することができる。
これまでの経験ではABC分析上位20%にいる顧客の約40%は翌年には離脱している。
そうすると、上位ランクから離脱した40%は優良顧客なのか、優良顧客ではないのかという疑問が残る。
2. RFM分析上位の顧客は優良顧客とする考えもある。
RFM分析は、最終来店日(R)と購入頻度(F)と購入金額(M)で顧客行動を管理し、最終来店日が近く、購入頻度が高く、購入金額が高い顧客を優良顧客とする考え方である。
それぞれのセルを5段階で管理するならばR5・F5・M5が優良顧客であるとなる。
しかし、RFM分析もセルに優良顧客とネーミングをしたものであって、一人一人の顧客を識別して優良顧客としたものではない。
ABC分析の例と同じように、こうした過去一定期間の売上げやRFM項目を集計するだけの分析は、分析手法がタイムスライスといって時間を切り取ったものだけの分析だから、次のタイムスライスでは、必ず顧客は優良顧客のセルから離脱しているように見えて当然なのである。
するとデータ分析から抽出した顧客を優良顧客と定義することは困難である。
こういう定義もあるだろう。「優良顧客とはABC分析の上位にいる顧客である。あるいはRFM分析の上位(5・5・5)顧客である。それを外れてしまえば優良顧客ではない」そう定義をしてしまえば、一気に気が楽になるだろう。
今は、ほとんどの会社が深い想いもなく、この定義を意識的、無意識的にしているのである。
例えば某百貨店では、売場に顧客絞込みを一任しているので売場担当者は毎回RFM5・5・5の顧客にだけDMをだしているし、某流通業ではABC分析上位5%の顧客にだけDMを出している。
それで顧客政策は成功するのかといえば決してそうではない。上位セルから離脱をした顧客にはDMは届かなくなる。優良顧客特典案内も届かなくなる。
優良顧客とは個人に付くものであって、分析資料の一つのセルに名付けたものではない。
データベースマーケティングではここで大きな間違いを犯している。
私は、今の時点では「優良顧客とはアップセル・クロスセルを重ねて、提供する商品やサービスに対して学習をし終えた顧客」と定義している。顧客育成とは「アップセル・クロスセルをしていただく顧客を作ること」をいう。
以上から、優良顧客とは顧客育成をし終えた顧客となる。
たくさんのマーケティング活動のうち、顧客を育成することがきわめて重要なファクターになる。
そして顧客を育成するには、ABC分析でもRFM分析でもない.データベースを分析してタイムスライスしたなかで作成した顧客情報に対してDMを送っても育成することにはならないのである。
育成するには顧客シナリオが必要だ。
そして最近、流通業でシナリオらしき動きが出ている気配がある。
一つの事例を話そう。
私は用事があって定期的に訪問している柏市で、必要がでて常磐線柏駅前にある某百貨店に飛び込んでスラックスを購入した。
店員の勧めに応じてハウスポイントカードを作成した。
するとしばらくして店員名で丁寧な礼状がきた。それはカードを作った御礼ではなく、スラックスのブランド名まで入れて、このスラックスを購入した御礼であった。
私はこの百貨店でも幾度も購入しているが、カードを作ったのは今回であったがために、この百貨店にとって私は新客であった。
おそらくいくら以上購入した顧客にはこのDMを出して、新客を上客にしていく育成シナリオがあるのだろう。そこでDMが届いたのである。
けれども、それきり一切の案内は来ない。私がポイントカードを購入度に出していないからRFMともに下がり、無視客になったのか、あるいは御礼状を出すだけのシナリオなのかは定かではない。
シナリオの気配を感じたのは、ただ分析してセルに名付けた上位顧客にのみDMを出すのではなく、新客にもしっかりと礼状を出し、来店促進を図っているその第一歩と見えるからである。
顧客を育成するには、一人の顧客を生涯にわたって追いかけ続けるシナリオが必要である。定義を付け加えるのならば優良顧客とはその成果として手塩にかけて育て上げた顧客のことなのである。
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