話は先号からの続きである。
私の先号、先先号の話を受けておそらく百貨店の人は二つの疑問を持ったであろう。
限りある顧客育成予算を有効的に使うのであれば1万円台のスラックスを購入したことをトリガーにした顧客育成をする必要はないと私は言い切った。なぜなら無駄になる確率が高いからである。
疑問の一つは次の考えにある。
「百貨店は高級品だけを置いた店ではなく、百貨が示す名前のとおり広く商品を扱っている。また売場ごとに目標売上げは決められており、責任者はその達成に向けて計画を立てている。それでは低価格品を扱う平場は何をすればよいのか」
答えは一つ、販売促進に徹することである。
顧客育成シナリオには大別すると二つのシナリオがある。
一つは販売促進シナリオであり、二つは関係促進シナリオである。
また顧客を育成するかどうかの基準としては、売場観点から考える絶対評価と、館として顧客を一同に並べて、館としての一定基準を満たした顧客を育成する館観点から考える相対評価方法がある。
ここまで書けば、賢明な方々はお分かりであろう。販売促進と関係促進を割り切って使い分ける必要があるのだ。
二つ目の疑問、それはそうだがそう言っても現実はそうではないのだとする現場よりの観点から発する疑問がある。
それはスーパーブランドと百貨店の力関係があるというのだ。
スーパーブランドは、百貨店出店に際し、さまざまな条件を出すことが多い。
例えば、「顧客名簿はうちの顧客であって百貨店の顧客ではない。百貨店はうちの名簿を使って顧客にコンタクトを取ってもらっては困る」は、代表的な例である。
もちろん全てのブランドがこうしたことを要求するわけではないが、それが力学で決まってしまう現実があるというのである。
だからメールマガジンに書いてあるようなことはできないケースが多いのではないかという疑問である。
おっしゃるとおりで、スーパーブランドの購入客に対するリレーションシップを禁止条項にしている契約があれば、館は顧客に対する関係促進はできないし顧客育成シナリオに載せることもできない。
このことはそもそも論に帰結する。
百貨店とスーパーブランドとの間に、血がにじむような真剣な議論がなされていないのである。顧客は誰のものか。それは顧客自身が決めることである。私は関係促進をしたことの成果であると認識している。顧客(C)と企業(B)の関係強度は関係深化をしたか、しないかで(その強度が)決まると考えている。
スーパーブランドはこだわりを持つ製品力と、ブランドイメージ力のマトリックスでその地位を確立してきている。しかしブランド力、スーパーモデルが登場するよく見られる高質なイメージは逆に人間臭い人間同士の関係深化力を阻害している。
スーパーブランドがうちの顧客という割に顧客との関係促進を深めてはいない。だからあるスーパーブランドの実例であるが、顧客総数の20%で50%の売上げを.残る80%で売上げの50%を占めている。しかも80%は一回しか購入していないことが現実なのである。
だから百貨店とスーパーブランドとはWIN・WINの関係を構築しなければいけないのである。それは製品力とブランド力のマトリックスに関係促進力という3次元の線図を書き込む作業に他ならない。
血がにじむような真剣な語り合いをしていないで、表層的な現象を以って、スーパーブランドの顧客はうちの店舗で買っても、うちのハウスカードで購入しても、顧客育成の手が出せないと言って、百貨店は自らの怠慢を正当化しているにすぎないのかも知れないのである。
あるべき論と現実との間には差分があるものだ。それを問題視しないから差分を認識できない。だから差分は埋まらない.埋まらないどころか乖離は開く一方になる。それをあるべき論と現実をしっかりと確認するには問題を問題と捉える意識が必要となる。
私は、流通業の人たちがRFM分析を顧客育成唯一の方法と確信し、何ら問題意識を持たずに盲目的に信じ込んで分析しDMを発送している姿を見て唖然とした経験を何度も持っている。
売上げは、顧客がこの商品をくださいといった瞬間に決定し積み重なる。厳密には売上げは顧客数×購入回数×一回当たりの購入点数×商品一点単価で決まる。
館単位で、売場単位で売上げ要因分析をしてみると良い。私が言う館単位で顧客を育成することがいかに大切なことかが、分かるというものである。
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