いまだにIT業界は見える化一辺倒であるが、見える化現象は、IT業界の実態を表わしている。
1995年当時、ワン・トウ・ワン・マーケティングがブームになったときに、IT業界はワン・トウ・ワン・マーケティング一色であったが、具体的な中身は無かった。
CTIがブームになったときに、IT業界は、これこそワン・トウ・ワン・マーケティングであると宣伝し、システム的に対応できるようにしたが、登録した電 話以外にはシステムは反応せず、携帯電話の普及で固定番号に重要な意味を持つことなくなってから、CTIはワン・トゥ・ワン・マーケティングという点では 有効的な働きをしなかった。
続いてワン・トウ・ワン・マーケティングブームは、CRMブームが引き継ぐようにとって変わり、一番バッターとしてSFAが登場して来た。SFAも決して新しい概念ではないのだが、ワン・トゥ・ワン・マーケティングを実装するシステムなのだというイメージがあった。
欧米から紹介されたSFAは、おおもとは在宅勤務者が会社に業務を報告するシステムがベースになっているものが、機能が豊かであるとの観点で流行ったが、日本の営業慣習などと相容れないために、多くの企業が導入しても使われないことになった。
日本の企業は、ワン・トウ・ワン・マーケティングが大ブームになった折、新客創造、顧客育成、LTVなどの、顧客政策を軸として売上げを伸ばす方法がワン・トウ・ワン・マーケティングであり、そのシステムがCRMであるとするイメージを抱き続けている。
だから日本企業はCRMを導入すれば、売上げが伸びるのだと考えているのである。これは今も続いている。
それが、CRMパッケージのことごとくが売上げを伸ばすものではないという結論になった。
これら情報系システムの次なるキーワードは、本来なら売上げを伸ばす、契約率を高める、顧客を創造する、顧客を育成する、LTVを実現するなどであるはずだ。
ヨーロッパのCRM事情に詳しい人の話では、ヨーロッパでは、CRMのキーワードはLTVになっているということなのだが、日本ではCRMの次なるキーワードは「見える化」となった。
見える化ならば、データ分析をすれば見える化に必ずなる。
というわけで日本IT業界は、見える化ブーム、BIブームになっている。
見える化をキーワードにしていれば、見えればよいのだからIT業界は楽な話である。
責任も発生しない。見える化といっても見えないではないかというクレームはならない。
けれどもいつまでも見える化では留まることは無い。それが世の習しである。
見えた後にどうなるのか、見えたら次にどうすれば売上げは伸びるのか、契約率を高めるのはどうすればよいか、LTVは実現するのかということが必ず要求されてくる。
すでに局面はそこに移っているのだが、IT業界は見える化一辺倒である。
見えることは一歩前進であるが、見えることは目的ではない。
企業が大金をはたいてCRMを導入する目的は、本来は売上げを伸ばしたい、利益を確保したい、契約率を高めたい、永続した取引をできるようにしたいということであり、見える化をしたいことではないはずである。
現に私の事務所にあるたくさんの相談のすべてが、不足している売上げを伸ばしたい。それを形式知化したいというものばかりで、実際には見込み客10件のう ち1件しか受注できない現状を改善して、2件受注できるように仕組みを作って欲しい。それが出来れば現営業マン人員で当社は年商800億円が1600億円 にアップする。
あるいはいま、月間3億円を3年まえ実績である月商5億円に戻したいので、そのような仕組みをシステムごと作って欲しいと言うものばかりである。私達はそれを実現している。
見える化は仕組みを構築する上で当然のことであり、それがゴールなどということはありえない。現に私達にプロセスを見えるようにして欲しいというオーダーは一件も無い。
そもそもSFAはBPRであり、店舗系CRMはデータベースマーケティングであると定義したのは誰か。このことが間違っていると私は思っている。
SFAは顧客戦略とBPR戦略と関係深化戦略をミックスしたものである。
顧客戦略に基づいて新客との案件発掘プロセスを展開し、関係深化戦略に基づいて案件獲得プロセスを展開し、永続した取引を実現するのは、これら3つの戦略をミックスしなければ実現できない。
現状のBPRコンサルは、今行なっている業務プロセスをITに落とし込んでいるだけであって、そこには顧客戦略マーケティングにも、関係深化マーケティン グにも基づいていない。SFAをBPRであると定義してしまったから、プロセスの可視化という中途半端なところがゴールになってしまった。
私にはそう思えるのである。 だから見える化を引き伸ばしただけ、もっと言えば売上げを伸ばす仕組みを導入し、システム導入後も正しく運用できて、成果が実現することをIT業界 は「ソリューション」として提案するべきであって、それらをすべて後送りにし、見える化だけを展開していたとしたら、必ず大きな落ち込みが業界を襲うであろう。
繰り返すが、データ分析の結果や、営業マンの行動プロセスや時間配分が見えて驚きがあるのは数ヶ月だけである。今、見える化を実現した担当者が、経営層からなんと言われているのか、IT業界の人は承知しているのだろうか。
「過去が見えることは良くわかった。それでいつから売上げが目に見えて伸びるのだ」
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