上司から費用対効果を出せと言われて困惑している人はたくさんいる。
費用対効果を明確に打ち出せない投資やコストがあるからだ。
分かりやすい例を言うと、お中元やお歳暮を贈ったら、いくらの売り上げが上がるのだと社長から言われれば、ギフトを司る総務課長は困惑するに違いない。
顧客ケア企業になるために投資をしたいと言っても、費用対効果はどうなんだと企業の上司はすぐにこの質問をしてくる。営業に売り上げを伸ばせといっても購入するかどうかを決めるのは顧客ですから、営業マンを厳しく鞭打つのならそのコストで顧客をケアした方がはるかに売り上げが上がりますよと答えても、上司はそれならいつからいくら売り上げが上がって、どう投資を回収するのかと聞いてくる。
上司が中間管理職なら、ある意味でそういうのは仕方が無い。自分の上司に同じ質問をされるからである。
しかし、いつからいくらの売り上げが上がっていつ回収するのかという試算を立てよというなら、CRMは、社長が直轄し社長の号令で全社が厳しく動かなければいけないものなのである。
そればかりか、成果を正しく評価するために増大な費用をシステム開発に投じなければならなくなる。
CRM、SFAの成果評価ほどむずかしいものは無い。これらはあくまでも営業支援であるからだ。システムが顧客を正しくケアしてもシステムが製品を販売するわけではない。営業マンや販売員は、顧客に一つひとつ対応して製品や商品、サービスを販売する。
その受注がCRMの効果であろうと、営業マンや販売員は全部自分の手柄にするものだ。
当社が某大企業支店における売り上げアップのコンサルをやった時に、非常に面白い答えがあった。
それは、約50人いる営業マンの受注金額のうち、毎月40%の売り上げ相当分が、私達の施策で関係を深めた顧客からの受注であった。しかし全員の営業マンが、この受注は全部自分の努力で勝ち取ったものだと譲らなかった。
支店長はすべてお見通しであった。そこである時、営業会議でコンサル会社の施策は今月で止めると支店長が突如発表をした。その直後から営業マンの施策中止大反対が起きた。やめないで欲しい。やめることは無い。やめられたら困るという反対である。
つまりこういうことなのだ。CRMにおけるリレーションシップツール施策で、営業マンに顧客から電話が入る。そこで営業マンは対応して契約にこぎつける。
この施策を止めたら電話が入らなくなる。だから困るというのだ。しかし顧客の話を聴いて見積もり書を出して価格交渉をして、契約にたどり着くまでの行為は すべて営業マンがやっている。だから契約ができたら自分の手柄になるのだ。自分の手柄になる主張としては電話のあった全部の顧客が契約したのではない。契約出来ないケースもある。自分もそうだし他の営業マンもそうだ。だから契約できたのは自分達の力なのだというわけである。
支店長に私は問うた。例えば前年度同月と比べてどのくらい伸びているか。それがCRMの成果評価にならないか。支店長は前年対比で伸びていることは認めな がらも、営業マン一人あたりの契約数に限度があって、そうは契約できないと言った。この一例からも費用対効果を厳しく評価するには、かなり複雑なロジック を持ったシステムで計算をすることが必要になることがお分かりになると思う。
私達は、成果評価ではなく、成果計測と言っている。CRMの成果を評価して費用対効果がどうであったのかを評価するのではなく、ひとつのシナリオの成果がどうであったかを計測し、計測の結果が悪ければシナリオを変更し、関係深化のためのツールを変更する。
この繰り返しで全体をブラッシュアップするのである。
こう考えて行くとCRMは、経営理念に一番近いところに存在していることを賢明な読者の方々はお分かりになると思う。
当社は徹底的に顧客をケアしていく。顧客はいつもあの会社から見守られている。ケアされている。気を配っていただいている。そういう会社になっていくというのは経営理念である。
経営理念に顧客第一主義を目指すと書いている企業は山ほどあるが、実際に理念実現に何をやっているのかと問えば、大方の企業がこれは精神論であると答えるに留まり、実際に理念を実現することをやってはいない。
だからCRMを導入しても社員は真剣にならないのである。
けれどもいつも顧客に気を配り、節目節目にきちんと配慮をする会社が出てくれば顧客はその会社に集中する。当たり前の話だ。その時代がもう来ているのである。
これが新しいビジネスモデルになる。
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