ITが急速に発展して顧客情報を入手することにより顧客のことが見えるようになった。
ITは見える化を促進したわけである。
けれども見えたあとの目的達成、分かりやすくいえば売り上げを伸ばす手段についてはあまりにも乱暴であった。
店舗系ビジネスであれば、一つは見えた顧客に商品情報やセール情報を送付する。二つは費用対効果で成果を求める。
営業マン系ビジネスであれば営業マンの行動を厳しくチェックし、無駄を追及し、販売生産性を上げて売り上げを伸ばすことを求める。
現在、日本で行なっているCRM、SFAの使い方はデータベースマーケティングの分野に属するもので、実際はこんな程度の使い方である。
それで売り上げが伸びるはずがないし、もしも伸びたというのならそれは偶然である。
例えば店舗系CRMで行なわれていることは、一般的にはRFM分析でそのつどRFM値の高い顧客を抽出し、場当たりにDMをだしていることだけで、しかも顧客抽出とDM作成は売場の販売員が実施している程度である。
一歩進んでも売場での好事例を集め、それをナレッジデータベースに収めてサンプルにしている程度である。
売場の販売員はCRMのプロではないから、問題意識は高いとは限らない。RFM値が高い顧客は良い顧客だと言われれば、常にRFM値が高い顧客に場当たり にDMを出し続けているだけで終始してしまっているのが実態なのである。ナレッジデータベースも一時は大変流行ったが、好事例の数が集まるほどに誰も使わ なくなる現象が起きてきている。当たるDMは背景が変われば当たらなくなることを現場は直感的に分かっているからである。
つまり、データベースで顧客を分析して一定期間内のRFM値の高いセルに一時滞在している顧客を優良顧客だと推測し、ここDMを送るデータベースマーケ ティングは、初めから売り上げアップに役立つものではなかった。ましてやWEB時代、メールやHP、ブログや、SNSがメディアとして利用されている時代 に、そして商品を販売する場所、顧客から見れば商品を入手できる場所が数限りなく増加している時代に、売り上げを上げる手法として存続し得るはずがないな のである。
それなら、なぜこうしたやり方が存続しているのか。理由は見える化を握っているからである。
CRM担当者はデータベースを使って見える化までは実現している。
私もたくさんのアナリストに会ってきたが、彼等は間違いなく私は顧客のすべてを知っていると豪語する。その発言力はデータに基づいて語っているから強い。そこで社内は沈黙してCRMをアナリストに任せているのである。
一方、顧客をケアする考えは顧客の期待値を常に計測する。データベースマーケティングでは買わなくなればRFM値が下がるのでお客を無視することになるが、顧客ケアでは買ったばかりの時でも、買わなくなった時でも常にケアすることを考える。
顧客は買わなくなった期間に買った企業からケアされ続けているので、また買う時には感謝を込めて、以前購入したお店から再び商品を購入することになる。
商品を購入したばかりの期間は、ありがとうございますと御礼を出すのではなく、購入商品を選択した顧客の選択眼を誉め、それがいかに正しかったのかを説明する。
買わない期間にも買ってくれとDMを出すのではなく、顧客からすれば買わない時期にも私はあのお店から見守られているのだと感じるような関係作りが出来上がっている。
これこそが顧客ケア企業であり、従来のデータベースマーケティングと根底から違うことなのである。
企業からすればいままで顧客を無視して送り続けているDMの総費用を、顧客ケアに使えばよいだけで今まで以上にお金が掛かることではない。
成功の鍵はただ一つ、このことに気付くかどうかだけである。
多くの小売業はRFM値の特にF値の低さに頭を悩ましている。私達が行なってきた数多くの百貨店でも売場の悩みは購入頻度(F値)の低さである。例えば地 域密着型店舗で、カジュアル婦人服売場年間頻度が1回という顧客が全体の90%以上であるという事実はいかに顧客をケアしていないのかの現れである。
顧客ケアをマーケティングの中心に据えて、その周辺をHPや、ブログ、SNSで取り囲む、これらをメディアと呼ぶなら、メディアミックスで新しい顧客を把 握する手法、そうして顧客ターゲティングし、育成するべき顧客を顧客ケアの対象ユーザーとして「関係深化」と、「商品販売」をシナリオにして展開する新た なマーケティングが必要になるのである。
今までは買わない時期に顧客を切り捨てていたが、顧客ケア企業は買わない時期にこそ顧客を見守る、見つめることが必要なのである。
この考えは小売業だけでなく自動車販売にも、保険販売にも、すべてのB2C、B2Bに適合するマーケティングなのである。
費用対効果をつど要求するマーケティング施策はもはや通用しないのである。
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