【2007.11.09配信】
最近、自動車ディーラーの経営者から相談を受けた。彼の経営課題は幾つもあるが最大は自動車のリピート率が40%に達するかどうかという低さを解消したいことである。
リピート率とは私が勝手につけた名前で自動車業界ではメーカーごとに独自の名前を付けている。彼の言葉をそのまま使うとどのメーカーか分かってしまうので、リピート率と仮置きした。つまり彼の会社は自社が販売したクルマを乗った顧客が再び自社から購入してくれる率が40%に満たないということである。 もっと分かりやすく言うと、今年買い替え時期が来た顧客が1000人いたとすると、そのうち400人は当社から買ってくれるが、残りの600人は他社に流 れてしまうということである。
すると1000台を売るためには残りの600台を他車ユーザーの顧客を剥がしとる営業をしなければならない。これは至難の業であって、ワン・トゥ・ワン・ マーケティングが流行った1995年当時、アメリカの学者は新規客をとるエネルギーは既存客を守るエネルギーの10倍必要と発表している。なぜ10倍なのかは意味不明であるが、それはたしかにそうで、だから現実は大変厳しい数値となる。
さて、この会社は新車販売台数÷営業マン数で計算すると一人が月に3.2台しか販売していない事実があった。持参いただいた資料からすぐに分かったことである。
当社が顧客ケアをお手伝いしている自動車ディーラーA社は、年間平均で営業マン一人当たり月5.7台を販売している。そしてリピート率は65%である。
この数値を元に仮説を立てていろいろと分析をしてみると、両社とも他車を剥がし取る営業で獲得する台数は、ほぼ同じであった。リピート率の違いが営業マン一人当たりの販売台数を左右していることが分かったのである。
相談のあった会社はリピート率40%で営業マン一人当たり月3.2台。当社が顧客ケア活動を支援しているA社はリピート率65%で、営業マン一人当たり5.7台である。
相談者から詳しく話を聞くと、やはり想像した通りであるが鬼の営業部長がいて、今月の売り上げをとることに鬼のように檄を飛ばして管理をしているという。こういう会社では販売した顧客のケアはそっちのけになる。
一方、当社がお手伝いをしているA社は、社長が営業マン時代に顧客を大事にして、繰り返し購入していただく営業を体験しているために、販売した顧客を大切にすることを経営方針にして実践してきた会社である。だからこそ我が社の手法に注目をして、結果として顧客からも営業マンからも喜ばれる顧客ケアを実現しているのだが、それはさておき、相談のあった経営者はCSに力をいれてリピート率を高めたいのだが・・・と苦しい心の内を吐露したのである。
CSに力を入れるとはご承知の通り顧客満足度を高めるということである。
各自動車メーカーはCS調査には大変な力を入れて、メーカーが顧客にアンケート調査表を送り、これを分析してランク付けをして各ディーラーに送付している ことをやっている。大体は納入後すぐ、あるいは6ヵ月後か12ヵ月後にやっているのだが、相談者である経営者は同系列ディーラー間比較で、全国5位以内に 入ることを目指すのだという。
いま、自動車メーカーもディーラーも国内の販売が低迷し、対応に必死である。都市部の若者は自動車離れをしている。都市に住めばクルマを持たなくても不自 由はしない。クルマを持てばお金が掛かる。若者の関心が分散し、限られた予算をクルマに懸ければ他の興味に予算を当てられない。高いガソリン代、これまた高い高速道路代、駐車場料金、それに税金、自動車ローンと考えて行くとクルマを持たない方がよいと、いろいろ発表されているアンケートが若者の気持ちを代弁している。またクルマはCO2元凶の一つとも言われ環境保護観点からは逆風である。
かたや高齢化社会で、今のクルマを乗りつぶそうと考える高齢者が増えている。経済に余裕がなければ新車を購入する資金は捻出できない現実が日本の中福祉体制ではある。
だからいま国内需要はほぼ400万台だが、やがて300万台になってくると予測されている。
すると自社が販売したクルマを乗る顧客をケアし、次回も購入する時は当社から購入していただくことが重要なマーケティング戦略になってくることが明らかであるのだが、鬼営業部長が今月の台数目標を達成するために営業マンの尻を叩き、既納客を放置し新客だけを追いかけても、他車を乗る顧客を当社ユーザーにするのは限界があって、営業マンの尻を叩いただけでは新客を作ることは限界がある。それを解消するためにCSのランクアップを目指してもリピート率向上の解 決にはならないのである。
顧客満足は限度がないからいくら上質なサービスを行なっても、顧客はすぐに慣れて当たり前になってくる。感動と同じで満足や感動を与え続けることは際限のないことなのである。しかもクルマの平均代替年数がとうとう8年になってしまったいま、8年後の顧客満足度を、関係深化の仕組みを作らないで高めることな ど現実的ではないのである。
百貨店がRFM分析で最近たくさん購入していただいた顧客(したがって当分は買わない顧客)を抽出し、販促DMを送り続けて、片方ではDMの費用対効果を 追求しているという、いわば30年前の陳腐なやり方を何の疑問もなく続けているのと同じで、自動車ディーラーがCS度をいくらあげてもリピート率改善には まったくならないのである。
あらゆる販売業は顧客と関係を深めることを仕組み化していかなければならない。そうしてあらゆるメディア、つまりHP、電話、ブログ、SNS、訪問、信書、カタログ、営業マン新聞、顧客新聞、情のツール、理のツールなどをミックスして顧客のステイタスに応じて関係を維持し、深め、親身になり、とことんケアをしていくことによって、初めて顧客と企業とに関係が生じる。
そのことを愚直に行なうことによって、結果として企業は顧客からケアされていくのだ。
売ろうとしないマーケティングの確立こそが急務なのである。
今はマスメディアを使った広告、インターネット上での広告、コンサルティング、営業マン教育、接客教育、CRM、SFA、BIなどが独立した存在で成り立っているが、もうすぐこれらが歩みより、境目が消えて新たなマーケティング体系が生まれる。この中心軸になるものが顧客との関係を深めていくこと、言葉 でいえば顧客ケアであり、リレーションシップであり、コミュニケーションであり、さまざまな言葉で表現されるだろうが顧客と関係を深めていくことそのもの なのである。
苦渋に満ちた自動車ディーラー経営者の経営課題を解決するには、長期間に亙る顧客のステイタスを鑑みて、その時期に応じあらゆるメディアをミックスさせて顧客を徹底的にケアしていくことを実現するしか解決はないのである。
顧客を以って、私はいつもA社から心地よいケアをされていると感じるマーケティングの展開こそがリピート率を高める方法であり、こうした顧客からどしどし意見をいただいて作る製品が、また顧客から支持されヒットする製品に生まれ変わっていくのである。
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