【2007.11.30配信】
伝統的な日本の商売、例えば和服業界などであるが、こうしたビジネスの慣習を探ってみると非常に面白いことが分かる。
日本の商売は、流通の過程で問屋があいだに入った。問屋は流通の主導権を握っていた時代があった。販売店が盆暮れの付け届けを最優先した相手先は問屋であった。
例えばある伝統的な業界では問屋は販売店の与信管理をし、強力な問屋間ネットワークを持っていた。その管理たるや、取引を通じて知りえた情報はくまなく記載していたし、それ以外の秘密情報も持っていた。例えば夫婦仲が良いとか、旦那はおめかけを持っているとか、番頭の誰がどうとか、驚くような情報をもち、 販売店がなにか問題が起きるとその情報は問屋間にすぐ知れ渡った。
こうした与信制度が裏にあったからこそ、支払いは盆暮れ二回でよいという制度が成り立っていたわけである。
すると販売店からすれば問屋と関係を深めておくことが商売を行なう上で最も優先すべきことであり、問屋と関係が途切れないことが商売を行なっていく上での鉄則であった。
「利は元にあり」である。
いまの時代でも「利は元にあり」は生き続けている。伝統的なビジネスの代表格である百貨店が経営統合するメリットを大量消化仕入れによる仕入れコストの削減と明言するのは、利は元にありと思っているからである。
百貨店では「売り上げも元にある」と思っている。それは販売規模が大きくなれば売れ筋商品を並べることができると思っているからである。だから利は元にありとする思想は商品を中心に考えていた時代の名残が今尚続いているといえる。
顧客がこの商品をくださいといわない限り売り上げも利益も発生しない。この商品をくださいと言わせる技術を商品(MD)だけに求めることは無理がある。そこで百貨店は商品を美しく見せる技術、欲しくなるように見せる技術を作り上げた。これがVMDである。
この技術はアメリカのブルーミンデールが卓越している。私も初めてこの百貨店を訪問したときは、感動に打ち震えた。この技術をいち早く日本に取り入れたのが伊勢丹である。
だから伊勢丹は商品の伊勢丹になった。
商品を中心に考えると利は元にありとする思想は生き続けているのである。
ところが広告業界でも、ネット業界でも「顧客との関係」が叫ばれ始めている。世の中はすべて関係で出来上がっているというのだ。関係こそがすべてであるといい始めているネットクリエィターもいる。ネットでは人との関係が希薄になる。だからこそより一層、関係にこそ利があるというのであろう。
日本の企業は顧客を無視したわけではない。しかしありとある施策がうまく行かない。
なぜうまく行かなかったのかを問題視せず、結果だけで結論付けた。
うまく行かないのは当たり前のことであった。RFM分析は顧客と関係を切断するために使う分析方法である。顧客を定義せず分類したセル自体を優良顧客とか離脱顧客と定義した。
顧客は同じ場所に居続けるはずがない。だから満腹の顧客にだけこの料理はおいしいよと薦める政策になった。
利は顧客にありを実現するためには、顧客をケアしていかなければいけない。顧客と初回接触から、顧客離別に至るまで長期に亙って構築される全プロセスを対応するアクションをケアという。販売することも集金することもその後にフォローすることもすべてケアである。
経営戦略は、人、金、物、顧客の4つに統合される。
売り上げを作るのは顧客戦略である。売り上げの中には利益も含まれている。利益は企業コストを下げることでも生まれる。しかしそれには限界はある。売り上げを作るのは元にあるのではなく、顧客にある.それは顧客ケアを展開することでしか実現しないのである。
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