【2008.04.11配信】
先回のMMで、三越は顧客ケア企業を目指すことだと書いたが、数人の読者から詳しい説明をして欲しいと要望があった。
欧米では、CRMはカスタマーケアに進化している。日本語に直せば顧客ケアであり、顧客をとことん慮る(おもんばかる)ことである。
顧客ケアを行なえば、行なっている期間は、顧客は当社を振り向いてくれるから、はじめてここに、LTVの可能性が登場してくる。
これまでLTVは夢物語としか捉えることができない概念であった。どこの会社でも、自社の顧客が継続して当社から購入していただければ、こんなにありがたいことはないと思うだろうに、片方でLTVはあり得ない、実現しないことだと決め付けていた。
それは、どこの企業も一回購入してくれればそれでよいという戦略を実現しているからである。
結果はプロセスの成果である。一回しか購入しない顧客を作るためのプロセスをたどってきたから成果はそのプロセスの結果となる。
顧客をケアしている間だけ、顧客は自店の顧客になる。
上野駅ホームの京浜東北線下りに一番近い壁際に、「ハレの日も雨の日も三越で」という看板がある。コピーは定かではないがメッセージはそういう意味である。
よそ行きも普段着も三越でという意味でもある。意味をもう少し掘り下げるとたくさん買う時でも、少ししか買わない時でも、三越はあなたを大切にしますというメッセージでもある。
顧客ケアは分かりやすく言えばそういうことである。
もちろん、流通業ではコスト面で全部の顧客を対象に顧客ケアをすることはできない。
だから対象となる顧客を抽出する必要がある。それはRFMでもABC分析でもできない。
育成すべき顧客を定めるには、議論が必要だ。
育成するべき顧客を定めたら、ハレの日も、雨の日もあなたを大切にします。
このコピーが選択した人に、ハレの日も雨の日も三越で買い物をしてくださいというメッセージの裏に、ハレの日も雨の日も三越はあなたを大切に致しますとするおもてなしの心、言い換えれば顧客ケアの心があるなら、これはたいしたものである。
残念ながら多くの百貨店は、RFM分析で優良顧客を抽出するという信じられないアクションを続けているから、現実には顧客ケアは出来ない。
RFM分析でもABC分析でも、優良顧客セルにいるうち年間40%の顧客は入れ替わってしまうからである。優良顧客自身に紐づかず、セルに名前を与えるだけのRFMやABCでは、顧客は常にセルを移動するから、つまりハレの日も雨の日もあるから、こうした動きに敏感に対応する仕組みでは顧客ケアをすることができないのである。
顧客ケアは、来店した顧客におもてなしの心を持つばかりではなく、たくさん買っていただく期間も、一時的に買い物を休む期間でも、大切にしますという意味である。
顧客を大切にすることと、商品販売DMを送ることとはまったく別なことである。
商品販売DMは買ってくださいとする売り込みの方法である。
顧客ケアは、心地よいケアをすることで商品案内だけではない。商品を売り込まないで顧客の心をケアするである。
もう少し具体的に質問に答えると、三越は伊勢丹と統合したことで顧客戦略の変更を伊勢丹側から迫られているはずである。つまり三越カードをIカードのシステムせよということである。
伊勢丹は前年度の購入金額でカードの割引率を変えてしまう。
三越は、一度ゴールドカードを取得すれば、その後はゴールドカードを維持できる。つまりはカード戦略にある思想は、ハレの日も(たくさん買ってくださるときでも)、雨の日(そうではなくても)も、三越はゴールドカードのお客様の比率は変えませんという思想である。
だから顧客は、買う時期になったら迷わず三越を訪問する。
こうしたおもてなしの関係がIカードの切り替えで失われてしまったら、顧客離脱はごそっと起きる。
顧客をケアしている期間だけ顧客はその企業で買う。このことが鉄則である。生涯にわたってケアをすれば、顧客は生涯にわたって買ってくださる。LTVとはそういう性質のものである。
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