【2008.06.27配信】
長女が私達(両親)が住む土地に自分達の家を建てたいと思って、住宅展示場巡りをした。毎週末、乳母車を押して家族三人で住宅展示場を回ったらしい。その結果、三社ほど絞って話を進めようとした。三社を絞った条件を聞いてみたところ、二つあった。
説明した営業マンの態度や雰囲気、それに建築に対する知識を重要視したことが一点。
二点目は説明を受けた建物の性能そのものの評価であった。長女夫婦は三社に序列を付けず、平等に対応して接したらしい。
いざ、家を作ると決まれば、当社のクライアント企業にハウスメーカーがあるので、その会社にお願いすることになることは、長女は理解した上でのアクションであった。
だから、ある意味では冷やかしなのかもしれないが、まだ家をつくることは決まったわけではなく、マンションを購入することも選択肢の一つであったから、自分自身が勉強する積りでのアクションなのであった。そんなことも若い夫婦からすれば楽しい出来事になるのであろう。
以下は娘の話をまとめたものである。
さて、三社のうち二社の営業マンは、敷地調査をしたいと強く迫ってきた。敷地調査とは正式に敷地を見て用途地域を確認し、さらに地盤調査をすることである。残りの一社は、仮にA君としよう。彼は土地の調査など口にせず、どんな家を建てたいのですかと話を聴くことに徹した。
そして自分の生い立ちなどをアルバムにしてファイルを作り、自分のことを良く知ってもらいたいと、娘夫婦にファイルを見せるのであった。
残り二社は、地盤調査をさせて欲しいというだけで、そこをしないと話が次に進めないのですと言ったそうだ。
娘は正直に、三社と話をしています。二社から地盤調査の申し込みがあると伝えると、それならうちでやれば地盤調査代は無料にしますと言ってきた。
地盤調査をすると次はどこに進むのと意地悪い質問をしたら、次は住む方々のお名前と年齢、職業などを聞いて、初回のプランを提出いたします。その次には資金計画などもご相談に乗りながら、私どももプロジェクトを作って、お打ち合わせをしながら図面を完成させていきます。それからキッチン、浴室、トイレ等の設備を決めていって、次にはクロスや床材、天井等のスペックを決めて、そこでお見積になります、と言った。
まだ御社に決まっていないうちに、家を建てるためのステップ1(敷地調査)を昇れと言うのはおかしいではないか。ほかにやることは無いのかと娘が質問をしたら、返事ができなかったということであった。
営業マンが語るプロセスがいわゆる営業プロセスである。二社ともほぼ同じ回答であったから、この二社は営業マンに強く営業プロセスの進捗を、求めているのであると思う。
この商談が案件化するのは、社内でプロジェクトが立ち上がった時である。
お気付きのように、営業プロセスは会社が決めたマイルストーンに過ぎず、顧客にとっては、意味はない。お宅に決めたとなればその次に何をするのかは顧客にとっても関心は深いが、決めていない顧客に、積極的に敷地調査を求めることは、うちに決めてもらって契約に至る階段を昇れというメッセージに過ぎず、ここをごり押しすれば顧客は引いてしまうのである。顧客は三社と契約はできないのだから、消去法で二社を消し去ることになる。
一方、A君は話によると支店長の戦略で
1.初めから地盤調査の話をするな。
2.初回対面の印象が大事だから、エモーション戦略でいけ。
3.ようは、歓び、うれしい、楽しい、凄いで、情で親しくなれ。
4.うちの家の宣伝は一切するな。良い家の条件を語れ。
5.顧客から地盤調査をしてくれと言わしめる営業をやれ。
この支店長は、日本の営業を理解しているのである。いまのSFAは商談管理、案件管理と称して自社の都合で決めたマイルストーンを進めるように管理している。
だから、契約寸前で競合に負けるなんていうことが生じる。
人間は理では動かないのである。しかし理がなければ人は動かない。人を動かす時には情が必要だ.しかし、情だけではうまく行かず、結局は情と理のバランスが求められるのである。日本の営業に必要なことは、情から入り理に情を添えることである。
こんな実例がある。
ある営業マンがA機能とB機能を一緒にした複合機を販売するために顧客先に回っていた。
A機能とB機能をそれぞれ別個に使っている会社へ訪問し、この機械を買ってくれと営業をした。
顧客は話を聴いて、AかBかどちらかが壊れたらその機械を買ってあげようと答えた。
それから営業マンは毎月訪問し、工場をのぞいて、まだどちらも壊れていませんねと確認し、翌月にまた同じことを繰り返した。
社長は定期的に訪問する営業マンに情の感情を持った。律儀で偉い奴だと。
一年たって、営業マンがこの先月も通ったように今月も会社を定期訪問すると、工場には協業他社の複合機が収まっていた。営業マンは、社長に向かって「約束したじゃないですか」と怒りをぶつけた。
この社長は静かに言った。
「君はAかBかが壊れたらうちの機械を買ってくれといった。だから私は壊れたら買ってあげると約束をした。しかしAもBも壊れてはいなかったんだよ。この営業マンは複合機にしたらいかに時間が節約し、労力が節約し、ランニングコストが節約し、スペースが節約できるかを実際の数値を使って説明をしてくれたのだ。
私は君から買おうと幾度も電話機に手を掛けた。しかし、君のためにならないと思ってやめたんだよ。私は君のために、君の競合会社からあえて複合機を買った。君に情だけでなく理が大切であることを教えたかったからだ。しかし情が大切なことも教えてあげよう。
複合機を入れたおかげで面積が半分以上も空いてしまった。見ての通りである。
ここに、新たな設備をしようと思う。詳しくは後で事業計画を伝えるから、最適な設備提案書を作って出して欲しい。この設備は複合機よりも大きな計画だ」
これまでのSFAは営業プロセス(商談プロセス)一本軸で案件を管理する。これは企業が決めたマイルストーンにすぎない。
私達は(1)情のアクションプロセス、(2)理のアクションプロセスを、マトリックスで管理する。面積が関係深化度を示す。関係深化度は顧客企業の関係者全員に可視化出来る。
関係深化度が進めば、顧客に購入プロセスを確認することができる。これはASKである。
ASKが進めば企業が決めたマイルストーンである営業プロセスは、契約に向かって進捗する。
ASKと営業プロセス(案件管理プロセス)は、マトリックスで可視化できる。
BREA理論では、営業プロセスを4本軸で、2つのマトリックスを構築して可視化できるようにしている。
この話の結論を出そう。営業プロセスは4軸を可視化し、管理していくものである。
みな、一本の軸だけで営業プロセスを追いかけているから、契約できるものもできなくなるように導かれているのである。
わが娘家族は結局、マンション購入の道を選択し、A君の営業も徒労に終わったのだが、私はいまでも家を建てる時はA君から買いたいと感想を洩らしている。
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