【2008.08.29配信】
企業文化とは企業固有の特色のことである。利益とは企業活動の結果として得た収益から費用を差し引いた残りのことである。
かつて三井と住友が合併した時に、企業文化の違いが小さな混乱を巻き起こした。三井はおっとりとした良家の御曹司風の文化をもち、一方住友は「儲けて何ぼ」の文化をもっている。この異なる文化が合流したわけだから水と油が重ならないような混乱が起きた。
三井と住友の合併は、実は合併の成功モデルになったのだが、ポイントの一つは企業文化を尊重し否定をしなかったことにある。
つまりはいくつかの議論の末に、企業文化と利益をだすことはイコールではなく別個のものであると到達したからである。むしろ企業文化を尊重することが顧客離脱を防ぎ収益に貢献するとするところに到達したわけである。三井と住友は非常に賢い道を選択したわけである。
8月13日付け日経流通新聞(日経MJ)の2007年度百貨店調査特集は、非常にユニークな結果を発表している。同紙面によると、一つはこれまで百貨店の錦の御旗とされていた「有名ブランド」+「店舗改装」=「増客増収」の図式が見事に崩れてしまったことである。
名鉄百貨店では本店の店舗改装に200億円を投じた。その一環としてメンズ館を伊勢丹の指導を得て開いた。しかし業績は思うように伸びていない。メンズ館を含め本店の売上げは改装前700億円、改装後目標は850億円に対し実績は740億円とみられ業績も二期連続の最終赤字に陥っている。新聞には出ていない話だが名鉄百貨店は、伊勢丹のカードシステム(したがって顧客戦略)に切り替えている。
伊勢丹の顧客戦略は前年度の買い上げ金額に応じて翌年の割引率を変更するもので航空会社のマイレージとほぼ同じ思想を持っている。よく言えば合理的、悪く取れば手のひらを返す顧客戦略を採用している。
伊勢丹の成功は新宿店の成功によって成し遂げたものである。新宿店は日本一の立地を持ち、愉快的な有名ブランドを並べた高級専門店型百貨店である。高級専門店の特色は、どんな遠距離からでも、雨の日でも、寒い日でも、暑い日でも、わざわざ(近くで買い物を済まそうとしないで)買う目的を持った顧客が、買うために来店するということだ。自動ドアをつけなくても、顧客が自分の意志でドアを引いて店内に、買うために入店してくるのが専門店なのである。だから手のひらを返すような顧客戦略でも顧客はついてくる。顧客は商品を購入することだけが目的だからである。特別に大切にされる必要はないのである。
地方特色の強い百貨店の顧客に、翌年の割引率は本年の購入実績により変わりますという顧客戦略は適合するわけがない。信頼できる情報筋の話では、伊勢丹のカードシステムを導入してから名鉄百貨店のカード会員数は激減したという。翌年に継続するためのわずかなお金を支払わない顧客が増えてきたわけである。正確な数値を聞いているがここで発表は出来ない。
顧客に対する取り組みは企業文化の表れである。この文化に顧客がなじみ文化に顧客が付いてくる。この文化を否定すれば利益が増えることはない。
日経MJ一面には「伊勢丹流も地方は苦戦」と大きな見出しが出ている。
伊勢丹は新宿店の成功が奢りになって、提携する企業文化にまで手を差し入れようとしているのではないかと思っている。これは過信を通り越して奢りである。奢りは「素」の自分を見失しなう。
私の親しい夫妻は、夫婦して根っからの三越ファンである。夫妻の両家が揃って三越ファンであり、先祖から三越ファンであるという。当然のように三越株を持ち株主優待券がくるのが楽しみであるという。
その筋金入りの三越ファンの夫妻が顔を曇らせてこう言った。伊勢丹と一緒になったら株主優待券の使い方が伊勢丹と共有になってつまらなくなってきたというのである。
この夫妻はいわゆる富裕層である。なぜ三越が好きかと聴いたら、先祖から三越の顧客なので理由はないということであったが、顧客を大事にするところかなと伊勢丹のカードは前年の買い方で割引率が変わるっていうのじゃないの。そんな風になったら三越ではなくなると夫人は眉をひそめた。夫人は割引率は問題ではなく三越が顧客をどう考えているのかが今のゴールドカードに表現されているといった。そして三越は手のひらを返さないカードを発行している。
そこが好きといった。三越ファンは盲目的に三越が好きなのではなく、見ているところをきちんと見ているのである。
伊勢丹の武藤社長は両社の合併記者会見時に、三越の持つ富裕層リストが魅力的だといったが、それであるなら三越の顧客が発するサインを聞き入れないといけないと思う今日この頃である。
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