【2009.01.09配信】
ブレアコンサルティングの服部です。新年おめでとうございます。
最近、アメリカの企業経営者と話を致しましたが、食事をしながら彼は私にこう言っておりました。もちろん私の仕事の内容を知った上での共通した話題でした。
「これまで50年間、経済はサプライヤーズ・マーケットであった。物を作る側の論理主導の元でのセラーズマーケットであった。この50年の間に企業は歴史を育て、ブランド力を高めて、資本力を強めてきた。資本力が高くブランド力ある企業がこれからも生き残っていけるとみな信じている。だから企業はより強くなろうとしてM&Aを繰り返し、拡大こそが生き残る唯一の方法として信じ実行している。たしかに歴史力もブランド力も資本力も中途半端な企業は、生き残ることは厳しいかもしれない。
サプライヤーズマーケットは顧客戦略を持たない。誰に売っても売れさえすればそれで完結する世界だ。同時にこの世界は貧すればどんする世界でもある。常に手取りのよさを求める世界である。大企業の論理でもある。
時代は成熟している。顧客が年齢的に成熟しているという意味ではない。顧客が商品を知り尽くしているという意味だ。それを成熟という。
世界的な不況を迎えているが、ここをしっかりと見定めなければならない。2009年とは古い50年が終焉を迎え、新しい50年が生まれ出た年なのだ。
ここでは成熟した顧客が主役になる。バイヤーズマーケットの到来なのだ。
成熟した顧客は商品やサービスを知り尽くしているからわがままで、個性的で、多様性がある。
したがってそのような人たちで構成された社会とは厳しさと、わがままで、多様的な価値を求める世界である。最も重要なことは成熟している条件の一つとして美意識に裏打ちされているということだ。
この観点は重要である。美意識という意識に裏付けされた感情は頑固さを持ち、妥協をしないのである。だからわがままに見え、わがままに聞こえる。
成熟した社会は、製品は良くてもお前が嫌いだからお前からは買わないという世界である。
お前が好きだし、お前の会社の製品が理に叶っているからお前から買うという世界でもある。
実に全人格的なマーケットが、まさに世界同時不況という大噴火の中から誕生したのである。
こうしたパラダイムの変化について行けない企業は生き残れない。サプライヤーズマーケットの論理は、過去50年間と名付けた終焉した世界でのみ存在できたもので、新しい50年にはもはや通用しないのである。それは速い速度を以って交替していくだろう。
いま企業がなすことは、最小コストで、顧客のことを考えられる企業になること。造る部門も、売る部門も、保守をする部門も、新製品を開発する部門も、顧客を中心にしたパラダイムを構築すること。ここがこれから50年の計であり、勝負どころなのである。
新しい50年における企業の成長戦略は、顧客の成長によって実現する。ここをいち早く掴んだ経営者によって企業の未来は決定されるのである」
この話は私が提唱している全体顧客戦略とまったく符合しています。日本でも多くの方たちが経済危機に直面してパラダイムシフトと叫んでいますが、一番肝心な手法の説明が抜け落ちています。
新年早々、保険会社三社の合併の話が新聞紙上を賑わしました。百貨店も同様に大きくなることで生き残ろうとしています。大手電器販売会社も拡大を続けました。資本力を増やし、ブランド力を高めて、生き残ろうとする戦略です。しかし私はそんなことで生き残れるのか不思議でたまりません。成熟化社会、人口減少社会を迎える国内市場で、なぜ大きくなることが生き残る要因になるのでしょうか。結局は過去50年の成功体験にしがみつき、日本の経営者達は、新しい50年がどのような社会になるかをイメージすることが出来ないのです。
新しい50年は全体顧客戦略を布陣した企業が生き残ります。
営業部門だけでなく、造る部門も、開発をする部門も、保守をする部門も、流通部門も、時には管理部門も、顧客と対話を続け、顧客と「情」と「理」の関係を深めて、顧客の真意を引き出し、顧客に学習を促し、顧客の成長と、企業全員の成長と、そこから生まれ来る製品の成長との同期を取って共に歓ぶ経営戦略を構築した企業が顧客から圧倒的な支持を受けるのです。そしてそれは具体的に実現できるのです。具現化できる理論も、実現するための手法も、ITも、教育もすべてのコマは揃っているわけですから。
アメリカの自動車メーカービック3の経営破綻は、金融経済の破綻で生じたものと考えられていますが、金融ショックがきっかけで破綻の速度を速めただけで、金融経済ショックが無くても、やがて破綻する運命にありました。アメリカで長く暮らした知友の話ですが、クルマが壊れたのでセールスマンに電話をしたら、セールスマンから私には関係ない。サービスに電話をしてくれと掛けた電話を切られたと言っています。
こうしたフォードの営業理論で育った日本の自動車産業も、いわば似たような対応をしているわけです。自動車メーカーはコスト削減に大鉈を振るっていますが、片方でディーラーが販売した顧客を放置し、車検入庫促進の電話をかけたコールセンター嬢に顧客から「売りっぱなしでいまさら車検に入庫してくれというのは虫が良いと」クレームの嵐があったという事実を知っているのでしょうか。
保険会社も顧客離脱が続いていますが、それは顧客を放置している結果であるという認識をなぜ持たないのでしょうか。私も任意保険に加入していますが一度足りとも保険会社や担当者からケアされていると感じたことはありません。
百貨店も相変わらずRFM分析で直近にたくさん購入した顧客に、いわばおなか一杯の顧客に再度商品購入案内のDMを送り続けて、購入休眠顧客を無視する顧客戦略が正しいと思って実行しているのはなぜでしょうか。
製造側の論理で、製造プロセスと似せて構築した社内向け営業プロセスを可視化できたからといって、それが一体どのような意味があることを経営者は理解しているのでしょうか。
大量にカタログを送付して読者から注文の商品を送ってお終いというビジネスモデルで、通販企業はこれからも成長していけると経営者は思っているのでしょうか。
本当のところは分かりませんが、きっと顧客第一主義は理念だけであって顧客と共に生長をする真実の瞬間を、多くの経営者は理解できないか、無関心なのだと思います。
全体顧客戦略とは顧客と商品と人と資金とを一体化した経営戦略のことです。企業に全体顧客戦略を構築し、体制化することができるかどうかに企業の将来は掛かっていると私は確信します。
今年は全体顧客戦略を社会に一層知らしめるために更なるアクションをしようと、複数のよき理解者と話を進めております。いずれ皆様にお知らせできる時が参ります。
本年もブレアコンサルティングおよびに本メールマガジンをよろしくお願いいたします。
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