【2008.11.14配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
私はOA機器の市場シェアバランスを顧客ケアの観点から見て、とてもおもしろいと感じています。私が体験したことから話を進めます。
我が社は小さな事務所ですが、それでも2台のカラー複写機が結構忙しく稼働しています。
複写機一号機が使い始めて5年経過しました。すると一号機のA販売会社から学生服の方が似合いそうな若い女性の営業担当者が来社して、「5年経過しましたが買い替えの意志がありますか、それとも継続使用なさいますか」とアンケート質問をしました。
「別に壊れていませんから今のまま使えるのではないですか」と返事をしますと、「そうですか」と、答えながら訪問用紙のどこかに丸をつけて帰りました。
次にこの営業担当者は営業常務を連れて再訪してきました。営業常務はごあいさつに参りましたということでした。複写機は快調に動いていますよと答えると、そうですかと営業常務は笑顔で答え、入れ替えるときはぜひとも当社の製品を入れてくださいと頭を下げました。これが営業活動としたらお粗末なプロセスと思いました。
そのうち、大きな個所の故障が発生しましたから、もう入れ替えをした方が良いのではと担当に告げると、それでは各社の複写機の性能を調べましょうと言うことになって先のA社のほかB社、C社の3社に電話をしたそうです。
私は、機種の選定は担当者に任せていますので口を挟みませんでしたが、仕事がら営業担当者のセールス話法に興味があって、社内にいるときには営業担当者の話を聴くことにしました。
どの営業担当者も熱心に来社して思い切りの笑顔を振り撒いて活き活きと製品の説明をし、そして大きく値引いた見積書を出しました。さて、先のA社からは学生服が似合いそうな若い担当者ではなく、なかなか男前の凛々しい営業担当者が来て、私が御社の担当をしています○○ですとあいさつをしました。初めて会う人でした。
「以前、お宅の常務と一緒にきた若い営業の方はどういう役割なの」と聞きますと、○○は既存顧客のケアをしています。私は新規開拓と、既存顧客の案件発生時にこうしてお伺いする役割ですと答えました。
非常に優秀なセールスマンのようなので安心しましたが、御社の担当ですという割には初めて顔を見せた不思議さは残りました。
我が社の担当者はDTPの仕事をしていますので、印刷品質やDTP上の機能に厳しく、いろいろとチェックして例えば自分の作品を各社にデータで送って印刷の状態を見るなどしてC社の製品に決定したようでした。私から見ればそんなに変わりはないと思いましたが、こだわりが強い人には微妙なところが気になるようです。
さて話はこれからが本題です。
A社の凛々しい営業担当者は「どうなりましたか?近くに参りましたのでお伺いさせて頂きました」と格好良く訪問をしてきました。私は部屋に通して珈琲を飲みながら短い雑談を交わし、それからC社に決めましたと答えますと営業担当者の態度は急変し、ぬくっと立ち上がってテーブルに出した書類をカバンに詰め込むと、何も言わずに部屋から出ようとしました。もうその顔はこれまでみせた凛々しい営業担当者の顔ではなく、失注した悔しさと、もうお前なんか知らないよという顔でした。この変貌振りには私も驚きましたが、それでもこちらは豊富な人生経験に支えられていますから、「まあ座りませんか。何故C社になったのかを担当が説明しますから」と言いますと、営業担当者は「失注したところと話し込むほど時間に余裕がありませんので」と立ったまま言い、次に我が社が決めたC社製品の欠点をひとこと言ってから、「まあいいでしょう。失礼をしました」とセリフを残して出て行ってしまいました。次にB社の営業担当者から我が社の担当者に受注状況の確認電話があったそうですが、C社になりましたと告げたとたんにぷつんと電話が切れたそうです。
この営業担当者達の態度を、昔の人は「砂をかける」と言います。C社を決めた我が社の担当者はA社もB社も付き合うのを止めましょうと憤慨していましたが、私はC社も断れば同じ態度をとったよと言いました。
OA機器販売会社の営業ビジネスモデルは(1)訪問件数を競うこと。(2)ダメとなったら顧客を追いかけずにいち早く切り捨てること。の二つです。求めているのは販売効率であり販売生産性です。
公式に書くと訪問件数×受注率を追求しているのです。
これは高度経済成長時代のモデルです。訪問件数を高めることと受注率を高めることを追及すれば市場シェアは高まる時代でのビジネスモデルです。切り捨てようと履き捨てようと新規顧客はたくさんいたからです。まさに競って自家用車を買い求めていた時代にとった自動車販売会社がとった販売方法と同じです。
しかしいまは、成熟社会です。その上少子高齢化が進んで国内市場は小さくなろうとしています。
そこで、OA機器販売会社が時代に合わせて目指さなければならないビジネスモデルを公式で書くとこうなります。
顧客数×購入頻度×一客点数×商品単価
この公式が意味するものは顧客シェアの追求です。
ここではいかに毎月の購入顧客数を作るか、購入頻度を高めるか、お買い上げ点数を増やすか、商品単価をいかに増やすかが課題解決の鍵になります。
私は訪問件数×受注率の公式も大事と思いますので、この公式に二番目の公式を加えて、それぞれを整理することが大事と思います。
つまりこうです。
(訪問件数×受注率)+(顧客数×購入頻度×一客点数×商品単価)
一番目の公式は営業担当者の行動量と営業技術を追求したものです。
二番目の公式は顧客戦略を追及したものです。つまり二つの公式は求めるものもアクションも違うものなのです。
話を元に戻します。
私は、すべてのOA機器販売会社は、顧客戦略を一切とらない顧客戦略を展開しているがために、切り捨てられた顧客企業が他社の製品を買うという構図が出来上がっていると思っています。
言い換えれば、各社が協力し合って買ってくれなかった顧客を切り捨てることによって新たな新規顧客市場を作っていると言えます。各社が切り捨てた自社顧客によって空白な新規マーケットが出来上がっているという構図です。ここが私はおもしろいと感じた点です。
ところが、どこかのOA機器販売会社が顧客ケアを含めた全体顧客戦略を仕組み化し、形式知化し、営業部のプロセスを改革して展開したら、新規顧客市場の面積が小さくなっていくと思います。
他社からみれば、新規顧客が獲得できないことになり、突き詰めるとあの会社の顧客はなかなかひっくり返せないという話になります。
顧客ケアを含めた顧客戦略を持つ企業が日本にはほとんどありません。「顧客第一主義」を理念として掲げる会社は多数ありますが、あるものはお題目としての理念であって、理念を顧客戦略や戦術に落としていませんから、絵に描いた餅で食べることができません。つまり顧客戦略を実施した恩恵を受けることができません。
OA機器販売会社は次の成長戦略を構築する上で、その解決策として営業プロセスを、顧客戦略ソリューションを基軸として、戦略的に再構築する時期に差し掛かっていると思いますが、いかがでしょうか。
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