【2008.11.21配信】
高度経済成長時代とは後からつけた名称であって、生活の劇的改革時代と呼ぶのが正しいと思います。私のこども時代には共同水道で、自宅にいて水道が使える家はありませんでしたし、洗濯はたらいに洗濯板、冷蔵庫は氷冷蔵庫、クーラーはなく扇風機、暖房は火鉢、お風呂は銭湯という時代でした。それが一気に洗濯機、冷蔵庫、エアコン、炊飯器と家電製品が次々と登場し、次にはテレビジョン、ステレオ、そしてマイカーとなっていったのですから、生活が劇的に改革された時代でありました。この時代を後世の人たちは高度経済成長時代と名付けたわけです。
この時代は生活を劇的に改革する商品は品質と価格が伴えば確実に売れた時代ですから、時代の波に乗って成長した経営者に、成功する経営の要素とはなにかを聴けば、「人と物と金でしょう」と答えたのに違いないのです。確かにどれ一つ欠落しても経営は成り立ちません。たしかにこの時代に働く人はみな、活き活きとして幸せそうな顔をしておりました。
やがて時代は移ります。モノは一巡し生活を劇的に改革する商品は生まれなくなりました。
そこで企業はヒト・カネを使って売れる商品を作る、上手な商品の売り方を研究するようになりました。他との差別化を図ろうと躍起になった時代でした。
当然のことながら、ヒト・モノ・カネの効率化が求められました。
この時代を低成長時代といいます。低成長時代の経営とは何かと聴かれると経営者は「人・物・金の効率化」と答えたのです。
人に関して言えば、人事評価制度、組織改革などが次々と新しい制度が研究され企業に取り入れられていきました。経営レベルで年間売り上げ目標が立てられて、営業部では部門別に目標が割り振られ、課に割り振られ、営業担当者一人ひとりに目標数値として割り振られます。そして何が何でも目標を達成して来いと上司は部下を叱咤激励し、あめとむち政策が展開されていったわけです。
物に関して言えば売れ筋、死に筋管理、カテゴリーマネージメントなど商品政策を初めてしてVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)、パッケージデザイン、ネーミングなどさまざまな売る技術が企業に導入され成果を評価するようになりました。
金に関して言えば、資金を集める手段としての上場政策や投資戦略、M&Aなどいろいろな技術が開発され導入されて成果を評価するようになりました。
ここでピータードラッカーの名句を一つ挙げましょう。
「社内はコストで、利益は社外にある」
ピータードラッカー(1909~2005)は、オーストリア生まれの経営学者、社会学者で、日本にもなじみが深い人です。多くの人がドラッカーの書を読み賛辞して多大なる影響を日本の経営者に与えましたが、日本の経営者がどれほど咀嚼したのかは分かりません。この名句に拠らなくともヒト・モノ・カネは、すべてコストですあることは確かです。人は人件費ですし、モノは商品原価、製造原価です、カネはいろいろなものに化けますが調達にはコストが掛かります。
今の日本は、低成長時代ではなく、背景に成熟社会、人口減少社会を抱えています。その上、政治の失敗で地方格差時代を迎えています。また、一度落ちこぼれた人は二度と復活できない社会が生まれています。言い換えればイス取りゲームが始まっているわけです。すでにパイは小さくなってきている証拠です。国内市場はこれからますます、確実に縮小するわけです。
ところが何故に企業は合併をして拡大をしているのでしょうか。
三越と伊勢丹の合併で喩えますと、合併後にHRSは、三越池袋を始めとした六店舗の閉鎖を打ち出しました。次には地方店舗を切り離すことを発表しました。合併してヒト・モノ・カネのコスト削減を図ったのです。当然ながら次は間接部門の削減を図るでしょう。私には、これらは目先の手当てとしか映りません。
高度経済成長時代には、ヒトとモノとカネが経営の三要素と言われていましたが、わずか50年後には、ヒトとモノとカネはコストであり、効率化し、削減の対象となってしまいました。極めて最近の調査では、働く人の四人に一人は失業におびえていると言いますから、働く人も生きていくことが困難な時代を迎えたわけです。
さて、前置きが長くなりましたが、これからが本題になります。
企業はヒト・モノ・カネだけを対象にしています。一時期、ヒト・モノ・カネに情報を加えて経営四要素と言う人がいましたが、情報はヒト・モノ・カネに対して横串に刺さるもので電話機とか計算機と同じ道具であって、経営の要素に加えるのはおかしな話です。
私がここでいいたいことは、国内市場が縮小を続けている背景を知りながら、企業はいつまでヒト・モノ・カネを管理し、効率化を追い求め、削減し続けるのでしょうかということです。
ヒトとモノとカネを管理することが企業活動としたら日本経済のお先は真っ暗と言わなければなりません。
ここでピータードラッカーの名句「利益は社外にある」を再掲します。
社外とは取引先をも差しますから、利は元にありともとられがちですので、「売り上げと利益は社外にある」と規定したら、社外とは顧客のことだけを指すわけです。日本の企業には経営理念やお題目としての「顧客第一主義」は、企業の数ほど転がっていますが、顧客戦略として経営の要素に加えて、アクションに移している企業を私はほとんど知りません。
私達の会社は、企業に顧客戦略を構築することが主業務ですから、このことにいち早く気付いて取り組んでいる企業を、そして私達がお手伝いをしている企業を知っていますが、日本の水準としたら、まだヒト・モノ・カネをこれまで以上に徹底して管理し削減しようとするレベルでしょう。
それを証拠にSFAでさえも、営業担当者の行動や時間管理を行い、結局は人事評価の道具としてしか使われていないわけです。
顧客だけが売り上げと利益を作り上げてくれる唯一の存在であるのに、ヒトとモノとカネを管理削減するだけで、本当に生き残っていける企業になれるのでしょうか。
私はこれまで歩んできた軌跡を誤りとは申し上げません。しかし想像力を働かせると、ヒト・モノ・カネだけを削除し生き残ろうとする企業の末路が見えてきます。顧客も社員も取引先もすべて人間です。人間に将来の企業の夢も希望も託さなければいけないのに、社内をコストと捉え、ここにだけフォーカスして肝心の顧客戦略を構築しないところに今の経営が抱える問題も、そしてこれから対応すべき答えもあるのです。お分かりになるでしょうか。
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