【2009.02.20配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
今の不況で、百貨店の業績が著しく悪化していることは周知のとおりで、ここでそのことをあえて書くことは必要ないと思います。
先日、三越に勤務する知友と蕎麦を食べながら話しをしたのですが、三越カードが伊勢丹カードの仕組みになるらしいと語っていました。
私は、「それで三越は長期的にはお終いになる」と矯め口を知友にいいました。
伊勢丹新宿店舗の成功は日本唯一の高級専門店型百貨店にしたことであって、その特異性が日本一の乗降客数を誇る新宿の立地にあってこそ成功したわけです。
その実現には伊勢丹の先輩達がNYのブルーミンデールを視察していち早くVMDを百貨店に取り入れたことが効をなしたのですが、極めて感性の世界で成功をしたといえます。
感性を数値化できればそれは理性につながりますから、伊勢丹の人たちは感性と理性、言い換えれば知性で成功したと言い換えるかもしれません。
伊勢丹にある単品管理の情報システムが素晴らしいと誰かさんが褒め称えておりましたがそれは経営技術の一つであって顧客はVMDで磨かれた商品陳列方法や優れた品揃えが魅力で、目的をもって新宿店を訪ねる購買行動をとっているのだと思います。
一方、伊勢丹人は知的な風土の中、よく議論をしました。当然ながら頭の良い人たちが企業について議論をすれば経済合理性に進展する可能性が高くなります。伊勢丹も他社と同様に経済合理性に向かって議論は進んでいったと思います。
伊勢丹のカード戦略、言い換えれば顧客戦略は前年度のお買い上げ金額によって本年度の割引率に差をつけるというものです。こちらも経済合理性を追求した結果です。
顧客との絆を作ろうとするよりも、合理性を追求しての施策を選ぶことは伊勢丹の顧客政策に如実に現われています。一方、三越のゴールドカードは一度取得すれば以降、ゴールドカードであり続ける特性を持っています。
伊勢丹のカード政策が当たって伊勢丹新宿店が成功しているのかと言えばそうではなく、成功の条件は新宿の立地と日本唯一の高級専門店型百貨店としてブランド力を身につけたからです。
だから伊勢丹から指導を受けたM百貨店の「男の新館」も成功していませんし、伊勢丹のカードシステムを導入したら会員数が激減したと聞いています。札幌の丸井今井も伊勢丹の指導を受けて男の新館を作り、売場をリニューアルし有名ブランドを入れ上場計画を樹立したけれど結果は民事再生法申請となってしまいました。
伊勢丹新宿店の成功は伊勢丹新宿店だけのもので他店に応用が利く仕組みではないわけです。
以上のことは以前のメールマガジンにも書きましたし、拙著「売る技術を超える顧客ケアの手法」に書いてありますので、ここで止めます。
伊勢丹新宿店に顧客が足しげく運んで商品を購入するのは、伊勢丹が経済合理性を追求した成果ではないのに、なぜ彼らは経済合理性こそが成功の要因であるかのように声高に経済合理性と叫ぶのかというところに私は興味を感じています。
その代表的な例が顧客戦略です。
伊勢丹新宿店の圧倒的なVMDの技術は、伊勢丹のカードシステムがどうであろうと、顧客戦略がどうであろうと他の施策を凌駕していたのに違いありません。入店客数と購入客数が極めて近いという、並みの百貨店ではありえない新宿店の成功こそが入店客数×購入率×客単価とする売上の公式を作ったのに違いないのです。
一方、他の百貨店は顧客数×平均購入頻度×一客当たり平均お買い上げ点数×平均商品単価をトレースするようにして、売上を作っているわけです。
企業には社風があるように、顧客と企業と「関係の間」も存在します。ベンツの顧客とBMWの客層がまるで違うように、伊勢丹の顧客と三越の顧客の客層はまるで違います。
具体的に申し上げますと、伊勢丹は商品を磨き上げた百貨店であり、三越は顧客との関係を磨き上げた百貨店で、伊勢丹と伊勢丹の顧客は商品で結ばれ、三越と三越の顧客とは関係で結ばれているということです。
こうなると双方はまったく異なる文化をもつ企業体ですから、それぞれに持っている文化を尊重して磨き上げていけば顧客にとってもそれぞれが味わいの違う百貨店として存続できるだろうにと思いますが、伊勢丹は経済合理性を盾にして、三越の伊勢丹化を狙っているようにしか思えないのです。東京は広しといえども、交通網が発達している現在、都心に同じような百貨店は二つも要らないのですから伊勢丹化した三越は私に言わせれば長期的には存在の意義はなく、お終いとなってしまいます。
三越はこの3月期には赤字決算になることが見えていますから、伊勢丹はますます経済合理性を追求してお帳場制度や三越カードシステムなど、経済合理性の物差しで計り知れない三越文化を壊していってしまうのに違いないと私は想像するのです。
いまがどのような時代かと言えば人、物、金経営の古いパラダイムが崩壊し、次はこれまで手をつけていなかった顧客政策を真剣になって導入しなければならなくなった時代といえます。多くの企業家が語る新しいパラダイムとはこれまで無視続けてきた顧客との絆を深める戦略の導入と展開なのです。
顧客戦略を私はCUSTOMER POLICYと英訳しています。
三越は考えようによっては一周遅れで先頭を走っているランナーのような気がします。一周遅れの所だけをつぶそうとしないで、新しい時代は顧客と絆を作り、顧客を育てる施策が企業にとって生き残りをかける最重要施策となるわけですから、三越が持っている顧客との関係づくりのPOLICYを徹底的にブラッシュアップしてホールディングス全体の政策とすべきと思います。
三越の弱さは古き伝統をそのままにして近代的な経営技術に高めることができなかった点にあるといえます。伊勢丹も新しい百貨店ではないのですが、小菅家の失敗で新たな資本が入り、ここに経営の合理性が生まれました。
しかし、新宿店だけの成功であったことは周知の知るところになり、また多くの伊勢丹出身者を招いて経営者に据えた百貨店がこれらの経営者を外すという事態、そして他店に導入した伊勢丹イズムの不成功が、百貨店業界に置ける伊勢丹の求心力低下を如実に物語っています。
百貨店の上級カードを持つ顧客の多くは高齢化し、利益が上がる衣料を買わずに利益の薄い食品に絞られてきている事実もあります。
現在は三越と伊勢丹カードは相互利用ができずにいるので、そこで統一化することが背景にあると思いますが、それぞれの文化を大切にしながらカードの相互利用を図ることはシステム的には十分可能なので、挑戦をするべきです。
そうでないと三越との間で永年親しんだ顧客戦略(CUSTOMER POLICY)を顧客自身も失うことになり、伊勢丹による新しいカードシステムで手のひらを返すような施策を望まないプライドの高い三越顧客の離脱は一気に進むと思います。
出血は覚悟でそのような顧客との関係を切断するとの展開なら、何をか、いわんやですが、あたらしいパラダイムとは何か。顧客戦略とは何か、理念や言葉で飾るものではなく、実践し、顧客を創造し、維持育成をする手法と何かを十分に議論してから決めても良いのではないかと、三越に勤める知友と蕎麦をすすりながら以上のような短いけれど重い話しをしたのでありました。
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