【2009.10.23配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
1993年に、ドン・ペパーズ氏、マーサー・ロジャース氏の共著によるワン・トウ・ワンマーケティングがアメリカで出版され、日本では1995年にダイヤモンド社から出版されたことは周知の通りです。
当時、ダイヤモンド社の和田昌樹さんが主宰してワン・トウ・ワン・マーケティング協議会が生まれ、しばらく活動をして協議会の運営は閉じました。和田さんはダイヤモンド社を退職して、いまは某私立大学の准教授をしています。
和田さんが、日本にもワン・トウ・ワン・マーケティングを実行している人はいるのではないかと探して、その結果私を探り当てたという次第です。
協議会で、ワン・トウ・ワン・マーケティングの定義が議論され、「顧客との対話」という言葉が重要なキーワードになるといわれました。顧客との双方向による対話が、ワン・トウ・ワン・マーケティングを定義するうえでは必要条件というわけです。
しかし顧客との対話の具体性については論じられませんでした。顧客との対話で意味は通じますし、要は顧客との対話が必要なのだとする程度の認識でした。
当時は失われた10年、そして政府がデフレ宣言をした時代とはいえ、マス・マーケティング一辺倒でも通用する時代背景がありましたから、ワン・トウ・ワン・マーケティングなる用語は大流行し、定着をするほどのインパクトを社会に与えましたが、企業が採用するには至りませんでした。
そのわけは、ワン・トウ・ワン・マーケティングには実態としての具体性がなかったことと、仕組みや型に落ちていなかったことが挙げられます。ワン・トウ・ワン・マーケティングがこれからの経営に必要だと言っても、どう導入すればよいの?どのような仕組みなの?と問われれば、答えはなかったのです。
やがて、CRMやSFA、CTI、CS(顧客満足)がワン・トウ・ワン・マーケティングであると宣伝され、登場してきました。これらは、内容はともかくとして仕組みと型を持っていましたので企業は導入することができました。こうしてワン・トウ・ワン・マーケティングは、顧客と1対1で対応するマーケティングの総称となって具体的な仕組みと型を持ったマーケティング手法とする位置を失いました。いま出版社に「ワン・トウ・ワン・マーケティング」というタイトルで出版したいと原稿を持っていっても、「その言葉はもう死語です」と突き返されるのが落ちです。
ワン・トウ・ワン・マーケティングが日本で出版された1995年を基点とすれば、それから14年が経過しました。日本社会は世界に冠たる成熟社会を迎え、そのうえ猛スピードで超高齢社会に突き進んでいます。出生率は下がる一方で、人口は減少を続けます。ビジネスに置き換えると需要が急激に縮小し続ける社会になったわけです。
需要とは購入者の購入総量をいい、供給者である企業は需要総量を越えて存在しません。椅子取りゲームはもう始まっているのです。小売業が価格引き下げ作戦で展開していることも、大企業が更なる合併や統合を繰り返してコストを下げようとしていることもデフレスパイラル社会に生き抜く知恵なのです。
ところがどうでしょうか。日本の成熟度は半端ではありません。エジプトや中国のような紀元前数千年前から人類の歴史と文明を持っていないにしても、日本は島国で伝統文化を守り育てる独特の美意識を持っています。そして戦後は勤勉に働いて、高度経済成長を遂げ、類まれなる物質文明を築き上げてきました。こうした文明そのものが成熟してしまっているのです。
例えば家電ではビックカメラなどが型落ち家電を専門に販売するアウトレットを立ち上げています。一つ前の型ということですから最長1年前の新製品のことです。これらが新型より20%引きから40%引きで売られています。私も現場を視察しましたが、いまの新製品とまったく変わりません。新製品と比べてこんな機能はついていませんと説明を受けましたが、そんな機能はいらないものです。例えばテレビを7年前に買った人はいまでも故障がない限り問題なく7年前の製品を使用して楽しんでいます。新製品と比べて40%も安い1年前の新品ならどこに買わない理由があるのでしょうか。これが製品の成熟です。ブルーレイがなくともDVDがあれば十分と思う人は多いはずです。
これも製品の成熟であります。いや、本当は、人の意識が成熟したのです。
成熟した人の意識が行動を変えているのです。いまの子供たちはもっと成熟しています。
生まれたときからテレビはあり、携帯電話はあり、何でも揃っていて欲しいものはない状態なのですから。
こんな時代に人・物・金の三要素経営のパラダイムで、経営をし続けていること事態が私は奇跡であると思います。安売り量販店が新製品とほぼ同等の製品を型落ちしたからといってさらに40%も安いアウトレットを開業したことを知ってすぐに視察し、家電業界はどうなってしまうのかと戦慄さえ感じました。
型落ち製品は、本来なら流通には流れない製品です。衣料ならアウトレットに流れてその後は焼却の運命にある商品と同じです。おそらく販売価格の10%台で家電量販店に流すのでしょう。
しかし、消費者は成熟していますから実に覚めた目で製品を眺めています。
意識が成熟している日本人は、もはやこれでもか、これでもかと製品機能に価値をつけているメーカーを冷たく突き放します。顧客が価値と認めていないところに、メーカーはこれが顧客の価値だと盲信し、自分たちの価値実現を求めているのです。
「顧客との対話」を私は次のように定義しています。「顧客との関係性を通じて顧客の価値を発見し、確認し、顧客の価値を実現する持続した共生共歓の活動」メーカーは仕組み的に顧客の価値を発見し、確認するプロセスを持っていないのです。
研究所の片隅で技術者が製品ばかりを見つめていますから機能だけがとんがっていくのです。
しかし本質部分は何も進化していませんから成熟した顧客の目で突き放されるのです。
こんなアウトレットが身近に存在したら消費者はアウトレットでしか家電製品を買わなくなります。当然ながら家電業界は経営が立ち行かなくなります。
私は中国のかに売り業者の話を思い出しました。上海蟹(かに)を露天で販売する業者がいました。欲しい人がぐるりと囲んでいますが、だれも注文しません。やがて夕方になりあたりは薄暗くなってきました。人垣は増えてきましたが誰も買いません。みな価格が下がるのを待っているのです。しかし価格を下げてしまったらもう定価で売れる事はなくなります。あたりは帳がおりるころになりました。するとかに販売の親父はおもむろに一匹ずつ蟹を取り出して足で踏みつぶしたのです。形がなくなるほど踏みつぶし続けました。
終わったら次のかにを取り出してまたつぶし始めました。絶対に値引きはしないということを見せ付けたのです。
生鮮食品なら鮮度が下がることで価格を下げる意味はありますし、捨てるより少しでもお金に変えたほうが得策ですが、家電ではどうでしょうか。すべては経営三要素で運営しているからなのです。
マイクロソフトのウインドウズ7は、機能追及ではなく操作性を追求し実現しました。
顧客の声をよく聴いてこうしたのだとプレス発表でMSジャパン社長が話をしていましたが、これこそ「顧客との対話」の成果なのです。
私は極めて最近事務所のPCを入れ替えましたが、OSはXPを選びました。7までまとうと思いましたが初期の7より使い込まれたXPを選びました。私の使用レベルでは機能よりも操作性のほうが重要だからです。
新しい経営パラダイムは「顧客との対話」を中心軸に組み立てられます。
11月4日ころから書店に並ぶ拙著「今後50年を生き抜く新・経営パラダイム」では、エピローグやプロローグそして目次を外した本文215ページ中62ページを「顧客との対話」の記述に割いています。章の扉を外すと全体で7章のうち第4章の「顧客との対話」に、30%近いスペースを割いて記述しました。
「顧客との対話」こそが、これからの時代を生き抜く経営パラダイムの最大のキーワードになると確信しています。
私は次の書の執筆を始めています。この本は訪問型営業を中心に書き、営業担当者や営業幹部に焦点を当てたもので、非常に分かりやすい言葉で、中学3年生を仮想読者にして書いています。
書名は出版社が決めるのであくまで筆者のイメージですが「隠れている営業プロセスを探せ」としています。もう全体の60%は書き終わりましたから、もう一がんばりです。
「顧客との対話」プロセスは、隠れていていまのSFAのプロセスには登場しません。
このことはどういう意味を持つでしょか。ワン・トウ・ワン・マーケティングなしには成熟し尽した少子・超高齢社会に生き抜くことはできないというシグナルなのです。
「顧客との対話」の視点から百貨店や小売業などの店舗系、通販、ネットビジネスをみると、現状は間違いだらけです。そこで次の次の書はもう目次ができています。流通業向けの新経営パラダイムを記述した本です。11月中旬から「次の次の書」の執筆を着手します。
売る技術を超える顧客ケアの方法 PHP新書 新書版¥840
今後50年を生き抜く新・経営パラダイム PHP単行本 ハードカバー ¥1540
(仮)隠れている営業プロセスを探せ 未定
(仮)新・ワン・トウ・ワン・マーケティング未定
現在考えている4部作で三番目の書が11月中順位は脱稿する予定です。
なにが私にこれだけの勢いで執筆を促しているのでしょうか。それは「顧客との対話」の真実の価値を発見したからなのです。これからマーケティングは「顧客との対話」を軸として組み立てられます。目標はLTVです。つまりはワン・トウ・ワン・マーケティングが、企業に導入できLTV実現を可能とする仕組みと型を持ったということです。
詳しくは今後50年を生き抜く新・経営パラダイムをお読みください。
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