【2009.10.30配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
RFM分析を行って実現できるものは、顧客政策でも何でもありません。顧客と関係を深めることもできませんし、顧客を育成することもできません。顧客を特定することもできませんし、ましてや共生社会を実現することもできません。
百貨店は膨大なトランザクションデータがありますから大きなデータベースが必要です。
けれどもそのデータを使って何をやっているのでしょうか。多くは分析に使っています。
もちろんそれは価値のあることです。当社にはこんなすごい顧客が来て買ってくださるのだと分かることもデータ分析のおかげです。
百貨店でお買い物をする人はさまざまですが、日本市場を所得軸でピラミットを構成すると上位層はみな百貨店の顧客となっていると思います。
ですから百貨店はピラミットの頂上から裾野に向けて優良顧客になりうる人たちをたくさん顧客に抱えています。
データベースにある全部の顧客を育成することは事実上不可能ですから、育成するべき顧客をターゲティングすることになります。
それではたくさんの優良顧客をどのような切り口でターゲティングすればよいのでしょうか。
カスタマープリンシプルで考える百貨店業でのターゲティングとは、育成するべき顧客をさまざまな切り口で分析し顧客を特定し定めることという意味になります。
しかし多くの百貨店では、むかしからRFM分析を使用して顧客を抽出しDMを送っています。そしてヒット率を計測して今回は当たるDMであった。これは当たらないDMであったなどと評価をしています。
しかしそもそも、RFMで抽出される優良顧客とは、範囲指定した期間で最近購入している顧客(R)、高頻度の顧客(F)、購入金額の高い顧客(M)というセルに入っている「顧客の群」であって、タイムスライス分析です。しかも一人ひとりの顧客に紐づいていないのです。
大部分の顧客は買い続けませんから、範囲指定の期間を変えるとR・F・Mは下がって優良顧客という名のセルから抜け出てしまう「優良顧客」は続出します。すると抜け出た顧客は誰で、どこに行ってしまったのかを探すことはRFM分析としてはできません。
探そうと思えば前回の優良顧客セルに含んでいた顧客名を記録しておき、次の分析で優良顧客セルに含まれている顧客とを比較対照して、落ちた顧客名を書き出し、どこに行ったかを一人一人探し出すしか方法はないのです。こんな手法は、顧客ターゲティングとはいえません。
その上、送るDMは売り込みのDMです。
ある百貨店の顧客担当部門の人が、一番DMやメールを送った顧客へ届いた数は年間で365枚を超えていたといいますから毎日1枚以上のDMとEメールが届いていたといえます。これでは顧客育成どころかストーカーです。
すべてはRFM分析の負の遺産です。
RFM分析は1930年代にアメリカの通販業界で開発した手法で通販カタログを送らない顧客を抽出する方法として生まれたものですから、RFM分析をどのように使っても生い立ちである顧客との関係切断が生じるわけです。
百貨店はこれまで商品を中心に据えて経営を行っていました。顧客政策とは、接客を丁寧にすればよい、クレームがあったら迅速に対応すればよいなどと、どちらかといえば接客技術に軸足を置いていました。
しかしいまはどうでしょう。富裕層をたくさん顧客で抱えているうち、特定できる人はお得意様営業と呼ばれる外商営業部がお付き合いをしている顧客だけで、カード顧客に至っては個々に対応してはいないのです。
顧客に対する根本的な方針と、方針に基づいた顧客と関係性を通じて顧客に対する価値の発見と実現を持続して行い競争関係を構築する手法を持ち備えていないからです。
それはCRMとはRFM分析であるかのような錯覚が百貨店業界で広がっていることに起因しています。
いまでも多くの百貨店ではRFM分析で範囲指定した期間のRFM値が高い顧客に売り込みのDMを送り続けています。顧客からしてみると買った直後にはDMが頻繁に届いているけれども、しばらくするとぷつんと案内が来なくなる現象が多発します。
百貨店の経営者は商品を販売することで成功した人たちで多く占められています。顧客には豪華な店舗を整え、丁寧な接客技術を備えることで十分に補えると考えています。
商品をいかに美しく見せるかがVMDの発想ですが、こうした技術は進みましたが顧客に対しての根本的な方針と方針に基づいた顧客政策はありません。経営要素に顧客要素は含まれていないのです。
「RFM分析で優良顧客を抽出して案内を続けています。日本中の百貨店が同じ手法でやっています」といえば経営者は「そうか。しっかりやってくれ」としかいえないのです。
私は長い間RFM分析が持っている危険性を指摘し続けてまいりましたが、いまはその思いが一段と強くなっています。
日本がこれだけ元気がなくなったのは、いつまでも高度経済成長時代のやり方を政・官・財が踏襲していた結果と思っています。自民党が凋落したのも同じことです。
企業も同じです。成熟し尽くした日本、政治が混迷し先行き不安から財布を懐奥深くしっかり抱え込んで穴倉に潜ったような生活をしている国民の心情が時代背景にあって、高度経済成長時代に確立した人・物・金の経営3要素体制で、商品を際立たせるマス・マーケティング手法で経営が乗り切れる時代ではありません。
カスタマープリンシプルでは顧客を明確にターゲティングし、顧客はどの位置にいるかを確認したうえで、育成シナリオを作成して関係を深め、顧客との対話を通じて価値の発見と実現を展開し、持続した共生関係を構築します。
これから時代がどのように変化しても人間が大きく変化するわけではありません。情理を尽くして顧客の価値を発見して価値を確認することによって、企業も同時に価値を実現できるこのようなプロセスに変えた企業が顧客からの支持を受けて生き残ることになります。
今後どう企業進路を持っていくのでも、経営4要素体制を作り上げることが経営にとって急務なのです。経営四要素体制をつくれば見えるものが違ってきます。そこから新たな経営戦略が生まれます。経営3要素体制では絶対に見えないものが見えてきます。
そこから新しい世界が生まれます。
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