【2010.03.26配信】
ブレアコンサルティングの服部隆幸です。
最近の百貨店業について私感を申し述べたいと思います。
そのきっかけはH2O(エイチ・ツー・オーリテイリング)と高島屋の経営統合が破談になったというニュースを聞いてのことです。
一時期、企業は経営統合をすることで企業を拡大することが生き残る道と考えました。
背景には成熟社会と少子長高齢社会による需要の減少があり、それを乗り越えるためには大きくすることが生き残りの道と考えたわけです。
百貨店業界ではそごうと西武、大丸と松坂屋、三越と伊勢丹が統合し、そして阪神と阪急が統合しました。そごう・西武はミレニアムリティリングとなって、その後にセブン&アイホールディングスの傘下になり株式会社そごう・西武と社名を変えました。
さらにH20〈阪神阪急〉と高島屋が経営統合すると発表がありました。そのH20と高島屋の経営統合の話が破談になったというわけです。
日本経済は世界に冠たる成熟社会を歩んでいるのですが、その最先端を歩んであるのが百貨店業界です。ですから百貨店業界の出来事は、やがて自分の業界にも到来する出来事であると考えなければならないのです。百貨店業界の今の姿は皆様の業課の未来に必ず起こる姿といえるのです。
さて、三越と伊勢丹は日本文化とアメリカ文明の統合という極めて不自然な統合であると思います。三越は伝統的な日本的な文化を持ち備えた百貨店でした。一方、伊勢丹も伝統的な百貨店ではありますが、新宿の成功にだけ力を注いでアメリカの百貨店ブルーミンディールのVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)手法を真似て自分たちの物とし、世界の一流ブランドを一手に集め、新宿という特別な立地を活かし、世界有数の専門店型百貨店を作り上げたことは周知の通りです。その実現に向けて採用したのがアメリカ文明でありました。
日本人はアメリカ文明をアメリカ文化と履き違えることがありますが、履き違えるとしたら誤りです。
亡くなった伊勢丹の武藤社長は、三越の顧客データベースに非常に興味があると統合発表時に記者会見をしましたが、この言葉こそ三越の文化を理解せずに、データベースに溜まっている優良顧客データを活用するというアメリカ文化的な発想で三越を見ていたうぬぼれと過ちを見て取ることができます。
三越は優良顧客との親子代々に渡る関係性を重視した経営を永年採用してきました。
顧客データベースに価値があるのではなく、連綿とした関係性こそに価値があることを知っていたのです。
すべては伊勢丹の主導で進められていますが、統合による欠陥が露呈しています。中でもカードシステムです。三越のカードシステムは顧客を大切に扱うという思想が根底になります。ハレの日もケの時もお買い物は三越で、晴れの時も雨の時もお買い物は三越でとするコピーには逆説的には顧客を大事にする思想が溢れています。つまりたくさんお買いになる時でも少ししか買わない時期であってもぜひとも三越で買ってくださいという願いが込められているからです。それを証拠にゴールドカード会員は終身ゴールドカード会員でした。
一方、伊勢丹のカードシステムは前年度の購入実績で翌年度のインセンティブ〈割引率〉を変えるという性格です。ここにある顧客戦略はアメリカ航空会社が起案したマイレージと一緒で極めて合理的で冷淡です。一年間、購入する金額が少なければ翌年は割引率を下げるのですから。
三越日本橋店は伊勢丹の指導で伊勢丹らしくなりましたが、伊勢丹らしくする必要はなくて伊勢丹らしい店が望むなら伊勢丹へ行ったほうがよいのに決まっています。
三越伊勢丹の悲劇は、アメリカ文明の象徴ともいえる伊勢丹新宿店の成功体験の尺度しか物事を測れないことです。
おそらく三越伊勢丹の将来は新宿、日本橋、銀座のような伊勢丹文明の尺度で計測できる立地を持った店舗を残し、地方はやがて切り捨てるだろうと思います。打つ手立てが分からないからです。
我が社で百貨店をどうするという議論をした時、相談役の田野氏は「三越日本橋新館を日本文化を結集した和の専門館にする」と提案しました。
三越の欠点は近代的な経営能力がなかったことです。これが致命傷でした。
私は、百貨店で経営能力があるのは唯一大丸だと思っています。
大丸と統合できた松坂屋は幸福です。奥田社長は成熟社会を乗り切る経営体制を発表し一気に切り替えています。百貨店業界がなぜこんなに苦戦を強いられているかの反省のポイントも見事です。
多くの百貨店が売り場を磨き上げブランド商品を並べて集客を待つという受身の経営姿勢に対して奥田社長は経営構造を変える攻撃的とも言える積極的な経営改革を成し遂げています。心斎橋のJフロントリティリングは経営能力の差で収益を上げ、安定した経営を実現する百貨店です。
そごう・西武はとてもまじめな人たちで構成されていますが、これまで幾人か出たワンマン経営者が人を育てなかった。ミレニアムリティリングになってからも同様です。それが経営力が弱体した最大の理由です。これからの進路は親会社が握っていますがセブンイレブン&イトウヨーカドーが親会社ですから凶と出るか吉と出るかは彼らの判断しだいです。
こうした姿を見てH2Oと高島屋が統合を中止したのは正解であると思います。企業を拡大しても経営は安定しないことがはっきりと分かりました。何をやるべきかが見えてきたこともその理由です。それは大丸、奥田社長が次々と実行しているの経営手腕のことです。
H2Oの経営者は本質的に物事を見る目を持っていますし、経営に対する自信もあり、しなやかで頑固です。頑固な点では高島屋も一緒です。この二社は統合するメリットなどないはずです。
百貨店が持つ文化に同調する顧客が寄り添うようにして店を離れず、店を育ててきました。
ですから時代が変わろうと、文化を守り時代に即した提案をすれば顧客は店を離れることはないのです。
ところが時代がこれほどに変わろうと、百貨店は優良顧客を対象とするという単純なこどものようなシンボルを掲げ続けて高度経済成長時代と同じことをやっています。
イベントといえば、大北海道展、大九州展、京都美味いもの展など一緒です。相変わらず一階に化粧品コーナーを置いて、2階3階に高額品を並べています。
百貨店はいままで育て上げた文化の根を見つめ直すことです。そして低収益の要因となる高コスト体制に、ナタを振るうことです。そして何よりも大事なことは顧客戦略を取り入れる音です。百貨店に顧客戦略はありません。
文化を顧客戦略と練り合わせて固有の文化〈顧客戦略〉とすることが最重要項目であり、ここに商品やライフスタイルをチェーン化し顧客に提案することで、新しい価値を実現するものと信じています。
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