【2010.06.11配信】
服部隆幸です。
今日は物販通販業界のCRMについてお話を致します。
通販業は長い間RFM分析を使って顧客データベースを分析し、通販カタログを送ることを長い間続けていました。最近ではRFM分析だけではなく独自の分析手法を考案し、多方面から顧客データベースを分析して、たぶん買うはずの顧客を抽出し通販カタログを送る通販企業もありますが分析型マーケティング手法であることには変わりません。
このやり方を永くやっていると、通販のCRMとはヒット率を追究するのが目的で、CRMを導入すれば、瞬間風速でどれほど売上が伸びるのだという考えに至っていきます。
これまでその考えで進めてきましたから当然な帰結です。
私どもにもこれまで大手流通業から当たるDMを考えてくれというご相談が相当数ありました。私は、一回や二回なら考えますが当たり続けるDMを考えることはできませんと応えてきました。
顧客データベース分析して顧客を抽出し、当たるDMを考えて発送する思想は分析型CRMに見られる固有の思想です。この手法がいま、なかなか通用しなくなっているのです。通販業の課題はここにあるといっても過言ではありません。
課題の一つは、顧客は常に商品を求めているとする仮説が通用しなくなったことです。
この仮説を分解すると成熟社会、高齢者社会にあって、かつてのようにモノを求める総量が減ってきたことが上げられます。私は学生時代のゼミナール仲間と年に一回会っていますが、服部はまだモノを買っているのか。そんなお金があるなら俺は旅行に使うと必ず言われます。
この話の結論は成熟社会における年齢構造の変化から市場が小さくなっていることにあります。
課題の二つは、消費場所が拡大分散していることです。
エキナカ、アウトレット、ネット、エブリデイオフプライスなど、アメリカ流通業を模倣した業態が次々に日本に上陸しています。
消費場所を提供しているのは企業ですから、市場が縮小しかつ、消費場所が拡大分散すれば、まわりまわって単位あたりの売上が減少することは言うまでもありません。
ところが、これだけ時代背景が変わったにもかかわらず「顧客データを分析して通販カタログを送る」というパターンを続けているのが通販業なのです。
百貨店はイベントをやって店を開ければお客は来るのだという仮説の元に経営を行ってきました。そして顧客戦略とはRFM分析型CRMです。次に店舗改装をやって高級ブランドを入れれば売上は戻るのだと考えましたが、やがて消費場所が分散し、優良顧客と呼ばれている高額購入層は食品を中心とした購入顧客に変化しました。店舗改装をしても高級ブランドを入れても効果はすぐに失せました。多くの百貨店で経験を積んでいる事実です。
百貨店は最初に市場が成熟しかつ縮小し、消費場所が拡散している時代変化の影響を受けた業種です。
通販業が何番目に来るか分かりませんが、おそらく百貨店業がいま経験している困難を通販業も受けることは間違いないと思います。
ところが多くの経営者は当たる商品を探せと社内に号令をかけています。メガヒットが生まれれば業績はV字回復するからです。
しかし通販業界での商品調達の仕組みを熟知している私から見れば、こうした号令には疑問を感じます。業者はたくさん売る力を持っている通販会社から順に持ち込んでいきますから、うちで売れる商品は他社でも売れているわけです。そこではたしてメガヒットが持続するのかという疑問です。
通販業が生き残るためには良質な商品を揃えるだけでなく顧客戦略に関する本格的な仕組みを作ることだと思います。
一つは、売ってお終いの現状を打破して顧客との関係性を重視した顧客育成の仕組みを創ることです。
例えばテレビショッピングを行っている会社では毎日たくさんの顧客が買ってくれるのですが、いまは商品を売ってお終いです。この一回限りの顧客にどう関係をつけるのかが顧客戦略の第一の仕組みです。
二つは、顧客ケアです。
通販カタログを送付する。→顧客が見て注文する。→商品を送る。→代金を支払う。→お終い。
のプロセスを根本から変えることです。
この話を書き始めると止まらなくなりますので別の機会にいたしますが、通販業の生き残り策は新客のうちポテンシャル度の高い顧客を発見し、一回の顧客を生涯の顧客に高めていく仕組みをつくること。顧客ケアを行って生涯の顧客に高めていく仕組みをつくること。その実現について重要なことは顧客接点の設計から始まって育っていただくべき優良顧客の姿の定義、育成の定義、シナリオ、そしてマジカルウエポン・・これらが実行プロセスです。マーケティングコントロールセンターによる分析と修正を司る部門を設置し全体の司令塔にすることなどがその対応策といえます。
顧客が売上と利益を作ってくださる唯一の存在ですから、商品戦略と顧客戦略を両輪にして経営にPDCAを加えることが生き残りに必要です。
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