【2010.08.06配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
企業は自社製品に価値をつけようと躍起になっています。それはそれで大事なことですから大いに研鑽をして商品開発に精を出すことで企業間競争に勝つことになりますし、社会貢献に寄与することで社会的価値が生じると思います。
ところが顧客は常にその商品のことを朝から晩まで考えているわけではありません。
企業は、朝から晩までその商品のことを考え抜いているわけですから企業と顧客との温度差は相当にあるわけです。
したがって顧客は商品を必要とする課題、疑問、不満、解決方法など、自分が求めている価値が何であるかを整理できていませんし、整理をしていません。その商品が実現する解決方法を顧客自身がわからないのです。
整理とは、ここでは顧客(自分)が求めている価値、もしくは課題、悩みがどこにあるのかを客観的に分類し可視化できる状態を言います。
一方、営業部門も顧客が抱える課題が何であるかを整理していません。すべては営業社員の暗黙知に留めています。
本来はこうしたことを考えるのが営業プロセスを構築するうえで重要なのですが、日本はプロセスを軽視した売り込み型の営業がいまだに中心ですから、顧客の価値を発見するためにどのようなプロセスを考え、アクションを考えるかはほとんど議論されていないのが現実です。SFAに搭載しているプロセスは真実の営業プロセスにはなり得ないと私が常日頃から言っているのはこのことです。
価値の発見とは製品価値をつけるために努力をすることはもちろんですが、忘れてならないのは、顧客の課題を解決することが顧客にとっての真の製品価値であるということです。
失敗と成功の例を挙げましょう。
まずは複写機メーカーの例です。
複写機メーカーの古いビジネスモデルがいま、複写機メーカーの経営阻害要因になっていることはご承知の通りです。故障しても部品代、工賃は無料でトナーまで無料支給、その代わりにそうした経費を織り込んだ使用料設定をしてカウント料金を月々請求しています。
各社ががんばった結果、製品の技術的な差はほとんどなくなりました。もはや複写機は成熟製品です。故障しても部品は無償交換してくれるしトナーも無料、品質も最近の製品と大差ないとすれば顧客は新製品を欲しいとは思いません。あとは部品供給保障期間が過ぎて故障しても代わりの部品がありませんといわれるまで使い続けようと思うユーザーは少なからずいます。時代の変化にビジネスモデルが付いていけないのです。
そこで複写機メーカーはいろいろな付加価値をつけました。複合機能、情報保管機能、ネットワーク機能、データー転換機能などです。それらは顧客から支持をされていません。
なぜなら価値実現や課題解決、不満解決になりえないからです。いま、事務機の国内販売は価格競争が過酷です。自らの手でコモディティ化に顧客を誘導してしまったのです。販売した営業員は次の販売の可能性がない限り二度と顔を出しません。今月の受注に追いかけられているからです。いまはカウンター計測業務をネットやFAXでユーザーが自分でカウントして報告するようになっていますからそうした人たちとも
関係性は生まれません。情と理の関係性が生まれ、持続しなければ顧客と企業とは極めて事務的、合理的な関係になります。すべては顧客との関係性を無視した結果、負のスパイラルに入っているのです。これは失敗例です。
次は製薬会社の例です。
MR活動の本質はドクターの課題を発見して課題解決をし、正しい処方の仕方を提供してドクターの治療技術を向上支援するところにあります。
ドクター力とは、正確な病名の把握をすること、そしてベストな治療方法のまとめ方を持って成果を出せることを言います。風邪の症状に薬の処方箋を書くという簡単な処方もありますが、生活習慣病や内臓器官の病気、神経の病気など課題を解決する手法が分からずに課題を抱えているドクターは少なくありません。
MRはこうしたドクターの本音を聴きだして、適切な学術資料を探し、ドクターに提示し、ドクターの理解を得る活動です。ところがこれまで製薬会社は製品開発にしのぎを削り、ドクターとの関係深化を経営の要素に加えていませんでした。
けれどもMR活動の本質は顧客と関係を深めることです。関係が深まればドクターの抱える課題(求める価値)を本音で語ってもらえる環境が出来ます。しかしドクターは課題を整理できていません。ドクターの抱える課題はピンポイントであって、治療方法がかもし出す課題全体が何でどこの位置にあるものかを知らないのです。それを知っているのがいつもドクターと接触をして聴いているMRなのです。ただ、MRは全体像を分かりません。A先生はこんな血圧を下げる治療でこんな課題をお持ちであったという情報が整理されないままに持っているだけです。それを整理するには整理箱が必要です。整理箱はマトリックスで済むかも知れませんし、立体構造が必要かもしれません。
そして課題を整理箱に収めていけば、課題一覧表が完成します。これをドクターにお見せするのです。
この課題一覧表は客観情報です。
するとドクターは特定病気を治療する上での課題全体像を理解し、併せて自分の課題はこの位置にあったのかと一瞬にして理解を深めることができます。課題を解決することがMRの仕事ですがここで当社の薬剤を使ってくださいなどとの提案をMRはしていません。
ドクターが一番欲しいの情報は病気治癒を目的としたトータルでの治療のまとめ方です。
この客観情報がほしいのです。
ところが製薬会社が作成する学術情報は商品情報であって課題解決情報の形になっていません。極めて専門的な化学用語で満ち溢れています。
これらを分かりやすく理解しやすいように整理し直すことが必要ですが、こうして整理された課題解決型ソリューションとしての資料をドクターに見ていただいてドクターははじめて真の納得をするのです。
すると次は御社の薬剤を使って提案をしてくれないかとMRに声を掛けてくれます。この提案は真の提案になります。なぜならドクターが抱える課題とソリューション方法について真の理解ができているから、直球ストレートど真ん中の提案書が完成するからです。
これら一連のMR活動を私は顧客誘導と言っています。誘導しなければドクターの解決も患者の解決も製薬会社(MR活動)の解決のすべてが進まないからです。製薬会社はいち早くこのように進み始めています。これは成功に向けて進んでいる例です。
日本の営業は時代の背景が変わったことによって大きな転換期に来ています。売り込み型や、全部を自分のものにしようとする支配型から、顧客と関係性を通じて顧客が求める価値を発見し実現することによって売り手の価値も実現できる共生型に生まれ変わろうとしています。そしてそのことに気付いている企業はたくさんあります。顧客の価値を探し実現するためにiPadなどのタブレット端末は実に有効です。しかも瞬時に情報を取り出し提供することができるからです。
(次週は夏休みのため本メールマガジンは休みです)
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