【2010.08.27配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
IT業界はクラウド一色です。このことについて今週は話をしていきます。
私の経験の範囲で過去を振り返りますと、一時期IT業界はクラサバ一色に染まりました。
クラサバとはクライアントサーバーのことです。
そのうちにどこでもクラサバが当たり前になりますとクラサバそのものに価値はなくなりました。
その後にウエブ対応になりました。
おかげでウエブを介してどこからでもシステムに入れるようになりましたがウエブ対応が当たり前になると、IT業界は、ウエブ対応を提供することに優位性も価値も見出すことはなくなりました。
次にIT業界は見える化一色になりました。
IT化すればどのような形でも見える化になります。見えることに価値があるのではなく、見える中身にこそ価値があるのですが、そこは問われずに、見えたことだけが前面に出てきました。しかしIT化すれば、正誤はともかく見えるのは当たり前と気付きまして、いまや見える化に価値は見出されなくなりました。
そしていまはクラウド全盛です。
クラウドに乗り遅れまいとIT業界はクラウド一色になっています。
クラウドは単にクラウドではない。クラウドはこれだけ企業に変化をもたらすと叫ばれています。歴史的に見てコンピューティングシステムはここまで進化したのだと思っています。
けれどもクラウドにすれば企業はどうなるのでしょうか。
クラウドは使用する側ではなく実は提供側を変えていきます。クラウド業界が誕生するのです。クラウド業界はサービス業と流通業をミックスした業態です。サービスというIT商品を貸して使用料をいただく業態です。
IT業界はハードウエアとソフトウエアとインテグレーションと保守を受注販売するビジネスモデルでしたが、クラウド業界は実現するクラウドの機能ごとに自前でシステム投資をして製造し、顧客を募り使用料を月々いただくビジネスモデルです。
いま、私がいろいろな企業に訪問して驚くのはCRM(SFA)クラウドに関して言えば、クラウドを試してすぐに止めている企業が実に多いことです。定着していないのです。
顧客は使用する価値を見出していないからです。
このビジネスモデルは初期投資があり、利用している期間だけ入金し、入るのも簡単、止めるのも簡単ですから、出費し続ける固定費をカバーするだけの収入が実現しなければクラウド事業の永続性に疑問が出ます。
IT業界がどこもかしこもクラウドを販売するとなれば、クラウドが当たり前の世界になりますから、クラウドそのものに優先的な価値は生じなくなります。するとクラウドは、有名企業が自社ブランドで展開する高ブランド競争への道と、低価格競争の道と、上流工程と言われる部門をしっかりさせて、成果が圧倒的に違う高付加価値競争の道の3つがクローズアップしてきます。
クラウド事業に参加した企業はこのいずれかに進路を決めなければならなくなると思います。クラウドだけでは顧客は関心を示さなくなる時代がすぐそこに来ています。
ブランディングに成功したクラウドコンピューティングシステム会社(クラウド提供企業)は、一時的に成功を収めますが、この世界は下克上が日常のように起こる世界ですし、予断は許せません。
表面的な要因は、これから始まるクラウドの低価格競争にあります。いまクラウドはその中身より、コンピューティングシステムの新規性に関心が集中しています。やがて2~3年すると新興勢力が集客方法として低価格競争に打って出てきます。流通業でみられる低価格競争がクラウド業界にも出てきっと混乱をすると思います。
また、クラウドサーバーを保管するエリアに万一トラブルが起きた場合に、例えばサーバー設置エリアでの戦争、大地震、大火災などでサーバーを維持することができなくなると、クラウドそのものに水を差すような状況が生まれる可能性があります。
しかし一番の本質は、顧客がクラウドを使って真から満足をするのか、持続して使用してもらえるのかとする一点です。
私は最近立て続けにクラウド-SFAをやめた企業に出会いました。クラウドを使っていたんだけれどやめたと言うのです。理由を聞くと「よくないし、いつでも止められるから」と、同じ答えが戻ってきます。そして○○はだめだとクラウド提供会社のシステム名前を出すのです。本来、このユーザーの意見は間違いです。
日本はなぜパッケージ名を出してこれは良くないというのでしょうか。上流工程のシステム設計に問題があるのであって、システムが悪いわけではありません。しっかりしたクラウド提供会社のクラウドはどのようにも対応できるように設計されています。私はこのことを、重量貨物を運ぶ目的に買ったクルマが(セダンを買ってしまったために)荷物が運べないからこの自動車メーカーはだめと言っているに過ぎないと例えて聴いています。
クラウドコンピューティングシステムの将来を決めるものはクラウド化ではなく、低価格競争でもありません。具体的に言えばクラウドコンピューティングシステムがいかに使用する顧客が抱えている課題や求める価値を実現し続けるかの一点で将来が決まるのです。
それは営業プロセス論に基づいた上流工程の設計如何に掛かっています。顧客が抱えている課題や求めている価値を実現できる価値実現プロセスをクラウド提供会社が提供できるかどうかに自らの将来がかかっているのです。
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