【2005.11.09配信】
何十年も病気一つせず、店舗を切り盛りしているようなパパママストアーの奥さんなら目の前にいる見知らぬ顧客がまったくの新客なのか、十年ぶりに来店した顧客かを識別することは出来るだろう。
ITを必要としないで、目の前の顧客は半年前に来店した新客で、夫の人事異動で近所に引っ越してきた顧客で最近はよく来店していると識別することが出来るであろう。
けれども販売と経営が分離し、多くのパートタイマーさんが時間刻みで店舗を運営しているケースでは、目の前の顧客が新客なのか、なじみ客なのかを識別する手段があるわけがない。そこで顧客識別にはITの力を借りる必要がある。
自動車販売会社で一般にやっている例では、来店した顧客のナンバープレートナンバーを打ち込むことによって顧客情報を画面に出す手法である。
自動車業界ではクルマと顧客を紐付けているし、しかもクルマにはナンバープレートという個別データが紐づいているので、こうしたことはいとも簡単にやることができる。
私が行ったケースでは大手温浴施設でおこなったものが非常にユニークであった。
この施設は超大型ともいえるもので、総合受付けをして顧客にはバーコードが記載されているゴム製の腕輪を貸与する。顧客は以降、館内施設のあらゆる場所、宴会場からレストラン、寿司、焼き鳥など飲食コーナーからゲームコーナー、マッサージコーナーなどをバーコード付きの腕輪一つで利用でき、最後にバーコード付きゴム輪を返却する時に精算を一括するシステムを構築した。
そこで本題の顧客識別であるが、会員カードを発行し、来店時にカードをスキャンすることでこれまでの利用回数、利用金額、利用施設数などからランク分けをして、顧客を3段階に区分けした。そしてバーコード付きのゴム製腕輪のカラーを変えることで、館内にいる従業員の誰もが、顧客を識別できるようにした。
厨房へのオーダーシステムを改良し、店員はバーコードをスキャンし、オーダー品をインプットすれば、厨房へはオーダー品と顧客の氏名とランクが印刷された伝票が届く。
料理人はどのランクのだれだれがこの料理をオーダーしたとわかるのである。
ウエートレスは、伝票を見て優良顧客なら必ず名前を3回は呼ぶことを義務付けた。
名前は伝票に書かれてあるので、憶える必要はない。
精算時でも総合受付では優良顧客には、名前を呼ぶことにした。
顧客から評判が良いのは当然なことだが、ITを使えばこのように顧客を識別することはたやすいことなのである。
もう一例を示そう。
カードをスキャンするだけで、目の前の顧客情報がアイコンでPC上に出る装置を開発したことがある。
アイコンを見ると現在の顧客ランク位置、売上金額ランク、頻度ランク、顧客名などがわかるようになっている。
顧客情報をアイコンにした理由は、アイコンを見ることにより左脳で考えなくても、右脳で一瞬にイメージを掴むことが出来ることと、顧客が画面を見ても意味がわからないなどが特長として挙げられる。
この装置はいくつかの企業で採用いただいた。
私は目の前の顧客がどのランクにいる、どのような顧客であるかを知ることは接客をする上で重要と思うが、多くの企業は入店時にわからなければ、支払いをする段階でわかってもしかたがないというスタンスであった。したがってこの装置を導入した企業は十分に意を汲んで理解いただいている企業といえる。
しかし運用の段階では二つの意見に割れた。
一つは、積極的に活用するグループで、大変ありがたい情報だと高い評価があった。
ランクの高い顧客なら、販売後も会話をして親しくなろうと努力をする。新客も同様に販売後の会話で顧客と関係を深めようとする。いずれにしても有益な情報というわけだ。
二つは、顧客情報をみても対応力を見出せない。見たからどうすればよいのかがわからないというものである。
結局、顧客識別をITで果たしたとしても販売の現場では販売員の能力に左右されるという意見に集約されたのである。顧客識別情報を与えても活用できるセンスを持ち合わせない販売員に対しては猫に小判であるという意見である。
一方、建設的な意見としては販売員の採用基準にこうしたリレーションシップ能力があるかどうかを考慮すべきであるとする発言もあった。
販売の現場でどう顧客を識別するかはいろいろと手法はある。ICチップが会員カードに搭載されてくると顧客が入店しただけでどのような顧客かをバックヤードへ知らせることが容易に出来るようになる。
しかしそれが出来るということはITで出来ることであって、運用をどうするのかということとは別の話なのである。運用の結果、売上が伸びなければ企業にとっては顧客識別をしても意味のない話になる。大事なことはマーケティング上でどのようにできるか、その結果、顧客満足度も増し、売上がどのような仕組みに添ってどのように伸びるかが重要なのである。
先のケースでは、私は社員研修を計画し、顧客情報をITで見た後の販売員のアクションを議論し定義し、販売員をトレーニングした。
研修会を重ねることによって販売員はITでの顧客情報を活用した接客が出来るようになり、顧客維持・育成によって売上が増えたことはいうまでもない。
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