優良顧客とは何か。多くの場合は次の二つの分析方法で優良顧客を定義しているのが普通にとられている方法である。
■分析による定義
■ABC分析による定義
一定期間の顧客別売上げ一覧表を降順に配置し、上位顧客を優良顧客とする定義方法のことで、一般にいう2:8の法則に従い上位2割を優良顧客とする定義方法である。
もちろん企業によっては上位の率を任意に設定し、例えば5%を上位顧客とする考え方などがある。
■RFM分析による定義
RFマトリックス、RMマトリックス、FMマトリックスを作成し、それぞれの上位顧客を優良顧客と定義方法である。
RF分析では直近に購入し(R)、購入頻度も高い(F)顧客群を優良顧客と定義する。
RM分析では直近に購入し(R)購入金額も高い(M)顧客群を優良顧客と定義する。
FM分析では購入頻度も高く(F)購入金額も高い(M)顧客群を優良顧客と定義する。
この2つの方法での最大欠点は、一定期間における分析のため、次回分析をすると同じ人が同じ場所に留まっていないということ。言い換えれば優良個客という定義は個客一人に紐づいた定義ではなく、「セル」についた定義であることだ。
これまでの経験ではどこの流通業もABC分析の上位個客は1年間に35%~45%も入れ替わる。2005年度の優良顧客のうち平均40%が脱落して、残りが下位ランクから上級移行してくる顧客である。
しかしながら下位ランクから上級移行してくるボリュームが減少する傾向にあって、売上げ減現象は優良顧客の離脱現象によるものと結論付けるケースが多い。
この経験談からいろいろな課題を炙り出すことが出来る。
一つは、優良顧客とは何かという根本的な課題である。ABC分析手法でもRFM分析手法でも、優良顧客領域と定義した分析のセルに入った顧客は一定期間に置ける通過点であって、顧客はセル内をいつも移動する。
それでは優良顧客と名付けたセルを通過しただけの顧客を優良顧客と定義してよいのか。
優良顧客が下位セルに移動した場合に、その顧客は優良顧客ではなくなってしまうのか。
これまで販促チームは限りある予算を有効的に使うためにABC分析やRFM分析で抽出した上位顧客にのみDMを送付することを考える。
ところが前述したように、優良顧客領域のセルに滞在している顧客の40%は下位ランクに落ちるからDMは止まることになる。
このやりかたでは、顧客を育てることにならない。全ては場当たりに発送するDMになってしまい、関係構築を主眼に置いた手法にはならないことがわかる。
優良顧客とは何か。これまでの分析方法では結論付けられないことがわかる。
二つに、困るのは分析結果を以って販売の現場に指示強要をすることである。
これは例を挙げないと理解しづらい。
例えばこの話も実例であるが「売場で新客を育成して優良顧客に育てろ」という指示が本部から全社に販売部目標として下されることがある。
本部では新客とはR5F1(RF分析5段階のセルとして最近購入いただいているが来店頻度がはじめての顧客)と定義、このセルに入る顧客はすべて新客と定義している。
けれども販売の現場では誰が新客なのかを捕捉することは出来ない。少なくとも顧客に「あなたは新客ですか」と聞かない限り新客であるかどうかわからないことである。
次に「育成しろ」と言うけれども育成しろとはどういうことを行うことなのか、売場ではわからない。しかし本部ではR5F2にし、R5F3にすることだということが概念ではわかっている。「どうやればよいかは現場で考えろ」これが本部の答えになる。
こういう指示を出している本部がある限り、永遠に顧客は育成できない。
次に、売場に優良顧客に育成しろと指示をしても、優良顧客の定義が分析から考え出されたものと、売場の感覚とはまったく違うので、わからない。
本部ではR5F5あるいはR5M5、あるいはF5M5が優良顧客だという。そして顧客リストをプリンターで打ち出して、これが優良顧客リストだから顔と名前を覚えろと指示を出す。こうしたことが現実にどの流通業でも行われている。
それはアドバイスの一つとしてはあり得ることだが、新客が誰かもわからない。育成手法もわからない。優良顧客の定義も定かではない。つまり優良顧客の 40%は一年間に移動してしまうなかでは「新客を見つけて育成し優良顧客にしろ」という指導は現場の感覚とあまりにも乖離していることになる。
以上のように、顧客を定義することは並大抵のことではないのである。
これまででわかることは、分析から生じる顧客定義と現場で考えている顧客の定義とは大きな乖離があり、本部は分析で抽出した顧客概念を以って売場に落としたからそれで仕事は終わりと思ったら大きな間違いであって、実際には何一つ進んでいないことを認識するべきなのである。(2005年)
©服部隆幸Copyrights 2005 All rights reserved
コメント