現状のSFAでビジネスプロセスを可視化させることと、契約率が増えることに相関関係は皆無である。
一部のITベンダーが、ビジネスプロセスを可視化したら契約率が高まったというセミナーを行なっているが、実際にはIT ビジネスベンダーが言うプロセスの可視化と契約率の向上に相関関係はない。もしもこの講演内容が事実としたら、プロセスを可視化した上で別のアクションを顧客に対して行なったから契約率が増えたのであって、実際にはビジネスプロセスが可視化できただけでは契約率は高まることはない。
次の事例はそのことを如実に表している。
大手複写機メーカーの再契約プロセスで語ろう。
私の事務所の複写機が5年を経過した。
納入した販売会社から電話連絡があって会いたいという。
承諾をすると新入社員女性と上司の幹部がやってきて、5年経過したので入れ替えの時機到来であること、新製品のカタログと見積書、それにいまの機械を使うよりこれだけランニングコストを下げますという提案があった。40歳半ばの男性幹部社員は、私に権限がございますのでさらにベスト価格を出しますと言った。
その後、新入社員は、その会社の常務を連れてアポ無しに来た。近くに参りましたのでご挨拶に立ち寄りましたということであった。
さらにその後、新入社員から新しい複写機の検討をしていただきましたかと電話連絡があった。
この一連の行動は既存ユーザーに対する、再契約プロセスの一連の動きであると思ってみていた。推測だが、一連の再契約プロセスが終わって最後にいかがですかとプッシュの電話が入ったのだろうと思って電話を受けた。
私は次のように答えた。「見積書を見るとランニングコストが現状より下がっていますがそのランニングコストを今の機械に当てはめていただけませんか」
新入社員はしばらく絶句をした。予想外の質問であったのだろう。やがて「上司に相談します」と言って電話を切った。2~3日して「上司に相談しましたがそれはできません」と返事があった。
私は「この前一緒にいらっしゃったあなたの上司は、私に権限があるのでさらにベスト価格を出しますと言っていましたね」と、意地悪い質問をした。
するとまた新入社員は絶句して「上司に相談をします」といって電話を切った。
翌日新入社員から電話があって「やはりできません。あのランニング価格は新しい機械を買っていただいたお客様への価格であって、今の機械に適合させるということで出しました見積もりではありません」といった。
私はこれほどの大会社が、何とお粗末な再契約者開拓プロセスを構築しているのだろうとあっけにとられた。
お粗末と言ったのはほかでもない。顧客の心を動かすプロセスがどこにも入っていないことである。
ビジネスプロセスを進捗しても顧客の状態は変わらない。
そもそもビジネスプロセスとは企業側の勝手な理由で作られたものであり、顧客から見れば一切関係のないことである。購入しようと決めたら購入するし、他社製品がよいと思ったら他を購入する。
営業マンがビジネスプロセスを進めても、顧客には何ら関係がない。はっきり言えば、購入をしようと考える顧客には、売り手の都合で作ったビジネスプロセスなんて、存在していないものと同様なのだ。
それを、「これを書け。そうすればビジネスプロセスがどこまで進捗しているかを把握できるから、それは製造計画にも反映できるから、営業マンの指導にも役立つものだから、つべこべ言わずに書け」と言っているのが多くの見える化SFA導入企業の実態なのである。信じられないことだがそれが実態なのである。
そこで営業部はビジネスプロセスを進めていく。
「この工程まで進みました」この報告を受けて企業が満足していることがおかしい。
大事なことは、企業が一番知りたいことは、ビジネスプロセスがどこまで進んでいるかではなく、契約締結に向けて顧客の状態がどこまで動いたかである。
だから、どこの企業でも見える化SFA導入を一番反対するのは営業部なのである。営業が一番知りたいのは顧客が契約締結に向けて心をどこまで動かしているか進捗状態なのである。
営業部は見える化SFAを導入してもうまく行かないことを分っている。なぜならビジネスプロセスは顧客にとって関係のないことであることを、いやというほど体験しているからである。
「ビジネスプロセスとは見積書を作成するために、誤った見積書を書かないようにするために通過しなければいけないマイルストーンのことである」
私はビジネスプロセスについて上記のように定義をしている。見積書を書けば契約ができるのであれば営業マンに苦労はない。しかし契約をするためには顧客の心を動かしていかなければならない。だから営業はむずかしいといわれている。
現状の見える化SFAは顧客の心を動かす部分がごそっと欠落しているのである。
ASKということ
私は先の複写機メーカーのプロセスになぜASKがないのか不思議でたまらない。
「今までの機械で不自由な点や困ったことはありませんか」とでも訊いてくれたら、私も電源を入れてから稼動できるまでの時間が長すぎるとか、答えようがあった。しかしASKは一切なく、ランニングコストが安いこと、値引きの権限は私があると幹部社員が大見得を切ったこと、製品カタログと見積書を置いていくことが彼等のアクションであった。
私はこの手の幹部社員が言う値引きの権限は私がありますという言葉は好きではない。
そんな話を聞いたら、私は以降一切、この若手営業マンを無視することになる。権限のない人と話すより、権限のある人と話したいのは顧客の常だからだ。
すると今後は君と話しても話が進まないから権限のある課長を出せという顧客が絶えないことになる。これでは若手は育たない。
同じ言うなら、幹部社員は「私には値引きの権限はありませんが、同行しております社員に、まだ新入社員ですが値引き幅を持たせておりますので、このものに価格の交渉をしてください」といわれた方が、私ははるかにうれしい。営業マンも自信が付くし顧客からの信頼度も増すというものだ。
ビジネスプロセスを契約に向かって進捗させるにはASKが必須になる。
ASKとは、顧客を理解するために必要な質問事項、ビジネスプロセスを契約に向かって進捗させるために(見積書作成に向かってではない)必須な質問事項である。
しかし、アンケートに答えるような質問内容ではない。
私は、これまで「そこまで訊ければ絶対契約できますよ」「でもそこまでは訊けないですよ」と、幾百人の営業マンからこう言われてきたことだろう。
ここがポイントなのである。ASK事項を示した後の営業マンと私のやり取りをお聞かせしよう。
『そこまで訊ければ絶対に契約できますよ』
「なぜ、そこまで訊ければ絶対に契約できるの」
『顧客と相当に信頼関係が出来上がっていなければ訊けないことですよ。だからそこまで訊けると言うことは信頼関係が出来上がっているということで、絶対契約できるということです』
「信頼関係って何」
『信頼関係を何って聞かれても答えようがないですよ。信頼関係です』
以上の会話内容にこそ、契約率向上のSFAを作る鍵が隠されている。
そしてBREA理論はこの鍵の解明から構築されている。
1.それが訊ければ契約できますよと営業マンに言わせるASKとは何か。
2.でもそこまで訊けないですよと営業マンに言わせるASKとは何か。
3.顧客と相当に信頼関係の構築が必要と言わせる信頼関係とは何か。
4.これをシステムでいかに構築するのか。
以上に基づいてASKを解明すると、例えば設備機械の納入営業プロセスでのASKはこうなる。
1.設備を購入することは決定しているのですか。
2.導入時期は幾らで予算は幾らですか。
3.管轄する部署はどこですか。
4.関係者全員とその職位とキーマンを教えてください。
5.どのように決定をするのですか。
6.決裁者は誰で上申責任者は誰ですか。
7.設備導入の目的は何で、何を改善することを目標としていますか。
8.製品を選択する基準を明確に教えてください。
9.この設備導入後の計画を知りたいのですが。
「ここまで訊けたら絶対契約できますよ」「でも訊けないですよ」という質問を拾うと、例えば上記のような項目が思い浮かべることができる。
私から言わせれば、こうしたことを訊かないから顧客の心を動かす提案も何もかもできないで、プロセスだけが進んでも顧客の状態はスタートの位置から動いていないことになるのである。だからビジネスプロセスを進めても契約はできないと断言できるのである。
信頼関係を構築するものは何か。
信頼関係ができればASKは訊けると営業マンは誰でも言う。
それでは信頼関係を「科学」するとどうなるか。
言葉としては、信頼関係とは関係構築、人間関係を深めるなどという。
それでは、人間関係を深めればASKが訊けるのか。人間関係を深めるには一杯飲むことか。ゴルフをやることか。それも関係進化の一つだが、それだけではないはずである。
私は信頼関係の構築をエモーション「理」と「情」で実現することとした。エモーション「理」と「情」をシステムに登載することを可能にしたわけである。
エモーション「理」と「情」が進捗すれば、ASKは訊ける。ASKが訊ければビジネスプロセスは契約に向かって進捗していく。
エモーション「理」とは
エモーション「理」とは、製品カタログ以外のデータを使って、企業の理念、開発者の理念、業界の歴史、製品の歴史、市場の要求、ライバルとの関係、製品の特長などを顧客に伝える活動のことである。この活動を我が社では「顧客学習」と名付けている。
顧客はそもそも製品について未認知、未理解部分が多い。営業マンは製品カタログでしか製品の説明をしないし、後は使用ユーザー見学会などで顧客に語ってもらうことくらいで製品の認知・理解活動を具体的にしていない。
だから提案時の製品に対する顧客の知識といったらどのコンペジターも似たり寄ったりなのである。
エモーションの「理」とは、「理」で顧客と親しくなることを意味している。「理」とは製品、商品のこと以外にない。製品、商品で顧客と親しくなるにはエモーション「理」というプロセスを展開し、エモーション「情」のプロセスで顧客と親しくなることだ。
我が社はこのIT化(シナリオ化)と、リレーションシップツール化に成功している。
だから契約率アップについて、驚くほどの成果が実現しているのである。
顧客が心を動かすツールとは「理」をエモーションで語ることに他ならない。
シナリオとはプロセスを細分化したその一つともいえるから、プロセスごとに、プロセスを進捗させるために事柄で生まれる「理」を、エモーションで語ることなのである。
契約に至るプロセスは立方体である。3点の交点に契約がある。
エモーション「理」と「情」をプロセス化し、ASK進捗を契約に向かって進捗させるというSFAを構築することが必要だ。
ビジネスプロセスを可視化できるのだから、エモーションプロセスとASKプロセスの進捗を可視化できないはずがない。
こうして3点の交点にある契約地点を目指してSFAを展開すると、驚くほどに契約率はアップするのである。
服部メソッドを支えているものは、以上の営業マン支援とプロセスごとのリレーションシップツールである。
繰り返す。現状の見える化SFAはビジネス阻害システムである。見える化を営業支援に使わないで営業マン管理に使おうとするからである。営業マンの士気は低下し結果としてビジネスを阻害する要因となる。見える化を使って契約率を向上するシステムにすることを実現しなければいけないのである。
そもそも営業活動はアナログ行為である。徹底的なアナログである。
しかしアナログでは形式知ではないから企業としての継続性がない。アナログ行為を広大精緻複雑なシナリオにすることは本来人智の仕事である。
これを乗せることができるITとは何か。その解明が一番必要なところだ。
しかし販売の現場はアナログである。ITに乗せたものを(人智を結集して構築した広大精緻複雑なシナリオ)を、いかに販売の現場でアナログに再び落とすか。
そしてその成果がすべて克明に記録されて、リアクションできるようになっていなければならない。こうしてPDCAはスパイラルしてくる。
わが事務所に訪問してきた複写機メーカーのプロセスは、玄関先で行なわれた小さなやり取りであったけれど、私にとっては実は広大な宇宙よりもまだ深遠な意味を持つ一期一会のやり取りであったのである。
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