店舗の販売員であっても、営業マンであっても、顧客の心を動かさないで顧客との関係が深まることはない。人は感動するから心が動く。心が動くから購入を決めようとする。あるいは契約をしようと決める。
1995年にダイヤモンド社から、ドンペパーズ、マーサーロジャース著のワントウワンフイチャーが出版されて、日本ではワントウワンマーケティングの概念が広く浸透をしたわけだが、それ以前にもリレーションシップマーケティグ、データベースマーケティグなど類似の考え方があったわけで決してワントウワンマーケティングが顧客マーケティングの始まりということではないのである。
しかしワントウワンマーケティングは来るべきインターネット時代に向けてということだけではなく、LTVを目標とするところが他のマーケティング手法と異なるところであったと記憶している。
私達夫婦で一つの百貨店で集中して衣服を購入した結果、年間の購入金額がこの百貨店のゴールドカードへの移行基準に達したことにより、来年度はゴールドカードになると言う通知のはがきがこの百貨店から届いた。
届いたのは11月中旬である。
ゴールド色で着色されたような、はがき内容を読むと、
1.月から翌年2月までの購入金額が基準に達したので、会員規則に照らし合わせて規則を守っているかを審査の上、ゴールドカード申込書を送付する。
2.その時期は来年の4月頃になるだろう。
ということであった。
私は以前、結婚式に参列した折に頂戴したこの百貨店のギフトカタログから商品を選んで、はがきを送るシステムを放置していたら、早く申し込まないから当社の整理がつかないで困っていると、お叱りのDMが届いて申し込み期限日が大きな字で指定していることに驚いた記憶があるが、このゴールドカードへの移行通知はがきを読んで、再び驚愕してしまったわけである。
普通なら店長名で、できれば封書で、「たくさん購入いただいてありがとうございます。
来年度からゴールドカードにさせていただきます」と、丁寧な感動的な信書を送付すれば、顧客はもう他の百貨店では買わない。お宅一本で購入すると心に決めるのに違いないのである。
おそらく担当部署からすれば、規則を守らないまま購入金額の基準を超す顧客もいるのでこういう手紙を出しておかなければいけないという言い訳はあるだろう。しかしわずかな顧客の不始末に対する対応を全部の新規ゴールドカード会員に書かなければならないのかと言えば決してそうではなく、やり方はたくさんあるはずである。
私が言いたいことは、このように顧客ステージを次のステージに上げる極めて大事なセレモニーを、顧客視点でもっと活用できないのかと言うことと、顧客の心をどう動かすのかという心配りがあまりにも足りないのではないかということである。
経営では、お客様に感動を与えなければならないとキーワードを出しても、担当するバックオフイスが、顧客への心配りに留意することが出来なければ、感動どころか不信感、不満感を与えることとなる。マーケティング手法に新しい定義が生まれ、その定義を巡って活発な議論を展開しても、絵空事になってしまっている現実がある。
LTV実現を目標に掲げるからには顧客育成のシナリオを定義しないといけない。
一般会員からゴールド会員にステージが変わるというセレモニーに対していわば昇格昇級を知らせるリレーションシップのツールがまったく考えられていないからこうなるのだ。
企業は仕組みを作る部署と、出来た仕組みを運用する部署があればよいと私は思う。
立派な部課名がついたバックオフイスがあっても、彼等は顧客を定義し、顧客育成モデルを構築して、顧客育成シナリオを展開し、シナリオに合わせて顧客を次のプロセスに向かって心を動かすためのツールを準備するなど売れる仕組みをつくろうとしないし、かつ作れないから、いつまで経っても顧客政策が成長しないのである。
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