かつて企業は商品を並べれば顧客が買いにきた時代があった。高度経済成長の走りのころで、手洗い洗濯が洗濯機に変わり、氷冷蔵庫が電気冷蔵庫になり、扇風機がエアコンに変わった時代である。顧客は商品が持つ先進的な機能が欲しかった時代でもある。やがて商品はどこでも扱うようになって満ち溢れ、目新しい商品もなくなり、顧客が列を作って買うようなことはなくなった。
そこで売る側は顧客を自店に引き寄せる技術が必要になった。チラシを配り低価格を強調し、のぼりを立て企業は集客に専念した。今もその競争の時代である。
一方企業は、少子高齢化時代を迎え需要が激減するので、需要が減少しても生き残るためには今の戦いを勝ち残ろうと考えた。そのための方策は二つ。一つは革新的な商品を開発すること。
電気自動車や燃料自動車の開発はこうした競争の一つである。二つは企業が大きくなること。
これは小売業、サービス業、金融業などである。販売業は大きくなることが生き残ることであると考えていて企業合併、統合、提携を繰り返している。百貨店などがよい例である。
自動車メーカーが革新的な燃料自動車を開発すればガソリン車ととって代わることは明らかであり、そうなれば圧倒的に市場を占有できる。世界での販売台数は膨大なものになる。
小売業、サービス業、金融業などはメーカー機能がないから別の生き残り策を考えなければならず、その方策として合併、統合、提携の形をとっているわけである。
合併、統合、提携は企業拡大戦略である。
百貨店に例えると、三越と伊勢丹が統合すれば一番安心できるのは経営者である。経営者は常に孤独感と不安感、時には恐怖感が付きまとっているわけで統合すればこうした情念が薄れていく。
統合効果として巷にいう仕入れコストの逓減などはほとんど現実的ではない。そもそも取引先と称する仕入れ先は、自らも生き残るために、脱百貨店政策を打ち 出している。スーパーブランドも独自に直営店政策を展開している。スーパーブランドだけではなくアパレルなども、脱百貨店政策を真剣に考えている。百貨店に売り上げを頼っていては自社の経営計画が実現できにくいということである。
したがって統合最大のメリットは経営者の「未来に対しての不安感の共有と分散」であり、このことが経営者にとって最大のメリットであると、私は思っている。
さて、私が言いたいのはこれからである。
二つの百貨店を統合する親会社(HR)は、収益は各店舗に依存することをわかってはいない。
分かっていても戦略・戦術を知らない。この戦略・戦術を知らないことが実は百貨店の低迷を招いたことを彼等は理解していない。
各店舗は拡大戦略ではなく充実戦略をとらないと収益を確保し店舗を運営できないのである。
充実戦略とは、エリア内における顧客シェアを充実する戦略である。
どんな百貨店でも、エリアはほぼ決まっている。私の基本的な考えの一つだが、エリアは
1.決めて、2.決まって、3.また決める。
3の結果決めたエリアこそがエリアの最大値である。この話は後日ゆっくりとしよう。
つまり店舗が出店した瞬間にエリアのサイズは決まってしまう。だから売り上げの最大値もほぼ決まっていることだ。
東武百貨店根津社長が百貨店はエリアビジネスと語っているのは正解である。
ところがこれまで百貨店の取っているエリア内顧客シェア率とは、地域を郵便番号で区分けし、郵便番号エリア内カード発行枚数と、同一エリアの世帯数、ある いは20歳以上80歳までの人口との比で、シェア率を換算していたに過ぎない。こうして算出した数値はまやかしなものであって、意味など何もない。まして やマーケティング施策に転換できる数値でもない。カード発行枚数と有効枚数とは大きくかけ離れているからである。
商売の鉄則は、店舗を出店(拡大)したら最大値まで充実し、また拡大(次の出店)することである。
そうしてネジを切るようにして、拡充していくことである。
充実とは地域でのカード発行枚数を誇ることではなく、今月もカードが使われた枚数をもって誇るべきである。つまりは顧客をどれだけケアすることができたかで評価されるものである。
企業拡大戦略とは、結局はインフラを拡大するわけだから、拡大戦略は投資そのものとなり、投資金額は減価償却費として毎年コスト化していく。顧客ケア戦略は大きな投資を必要とせず、他社に真似されず、成果として確実に売り上げを伸ばしていく充実戦略である。
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