【2008.03.28配信】
私の親しい友人から相談があると連絡があった。友人は年商80億円のメーカーに勤務して、管理担当の取締役である。
友人が勤める会社は、時代の変化で業界全体が4割ほど縮小し、その波をもろにかぶったのであった。年商80億円は全盛期の50%程度に当たる。それだけですべてを察することができる。
生き残るために会社を半分以下の規模にまで縮小した。売るものはすべて売り尽くし、社員を約半分に減らし、残った人の給料も一般社員でさえ20%カットが幾年も続いた。
その陣頭指揮をとったのが友人であった。
だから辛酸を嘗め尽くしている友人が相談したいことがあると言うのは、私も何ごとかと思った。
友人は、一昨年は業績がよく、単年度では1億円ほどの営業利益が出たと言った。しかし昨年度は悪かったと言った。ウチにとってお金は血液一滴の価値があると言った。
相談というのは、銀行から、SFAの導入提案を受けたことからはじまる。
営業マンの行動を管理し、商談プロセスを見えるようにして工場の生産計画と連動させるという提案であった。
商談進捗を工場で見ることで、無駄のない生産計画ができて利益が生まれるという提案であった。
話はこれからである。
銀行は自社の総合研究所からコンサルティング団を派遣し、現状のヒアリングをして要件定義をするという提案と見積書を持ってきた。
○○総研の要件定義作成コンサルティング総額は消費税込み6300万円であった。
会社はこの契約書に印を押した。
コンサルがはじまると○○総研から2名、それからシステム要件を定義するSEが2名の体制でプロジェクトは動いた。SEの会社は検索エンジンに出てこない有限会社○○○○○であった。
友人は「どう考えても失敗するとしか思えない。○○総研の提案のように行くはずがないと思うので意見を聞きたい。要件定義とは設計図面みたいなものだから、これからいくらお金が出て行くのか、皆目わからない」と言った。
そしてウチにとって「お金は血液一滴と同じ価値がある」と繰り返した。
訊けば、営業マン数は40名である。
「普通の行動管理と商談管理SFAなら、ASPで一人月額5000円も支払えばよいものがあるよ。30人なら月20万、年間240万円。要件定義代6000万円だけで25年は使える」と私は笑った。
友人はSFAもASPも何のことやらわからなかった。
私は、「年商80億円のリストラメーカーが行動管理、商談管理のSFAに投じる予算ではない。
そのあとどのようにシステムを作ろうとしているか、それさえもわからずに要件定義で6000万円も投じることは今の会社の実情からしてありえない判断」と言った。それから工場の生産計画と結びつける案の「結果は100%失敗」と烙印を押した。買うか買わないかは顧客が決める。企業が勝手に作った業務プロセスの商談進捗管理で、工場の生産計画と紐付けたら大問題が発生すると言った。
友人は、「ウチはそれでなくてもノルマを達成しないと支店長が率先して部下に仮受注伝票を切らせる。あとで契約前キャンセル伝票を切れば済むからと言った」
「○○総研に連絡をしてシステム総額の概算を聞き出すことだ。要件定義が終わらなければ正確な価格は出ないだろうが、概算を出してもらうことと、システムは1から開発して作るのか、既存パッケージを使うのかも訊いておいた方がよい。いずれにしても銀行の紹介だし、6000万円かけて途中で止めることにはならないから、最後まで行くのではないか。ただシステムが一億円以上もかかれば話は変わるだろうけれど。それは蓋を開けないとわからない。悲劇と喜劇が交じったような話だ」と私は話を括った。
友人は「無知ほど怖いものはない」と言って頭を抱えた。
「そうだ。誰か一人、SFAやASPを知るものがいたら、導入するのでも正しい判断ができたはずだ」
と私は言った。「導入することは悪いことではないが、売上げ規模に対して求める成果とコストが桁外れだ」私の言葉に友人は「そうだよな」と言葉を返した。
コメント