【2008.05.30配信】
顧客戦略を「顧客感動」、あるいは「感動」というキーワードでコンセプトを打ち立てる企業が増えている。戦略コンサルティング会社の指導のもとで「感動企業」とアイデンティテイを掲げ、あるいは三越のように「感動百貨店」と定義をすることが一例である。
顧客に感動を与えるようなサービスを志すことは間違いではないが、感動を顧客政策に掲げてもその手法は顧客ケアをすること以外に実現はできないことを知るべきである。
私は当たり続けるDMがないように、一般企業が顧客に感動を与え続ける手法はないと思っている。あるとするなら唯一、顧客ケアを続けることである。
「期待値を超えたサービスが感動である」と定義をする人もいるが、これらはすべて机上で組み立てられたものである。
私はかつて2500CCのエンジンのクルマを乗っていたが、あるとき4500CCのエンジンを載せたクルマと変えたときに、あまりのトルクの太さに感動をしたが、一週間ほどするとそのトルクの太さに慣れてしまって、それが当たり前になり、感動はしなくなってしまった。
私は旨い和食店を知っていて、当初は旨さに感動をしたが、今はまったく旨いと思わない。
技術が落ちたのかと思っていたら、一緒に行った友人が旨いと感動をしていたので、私が慣れてしまったのだと、気が付いた。
私はカルフォルニアのナパにあるオーボンクリマのピノノアールが旨いと感動をしたが、今は慣れてしまって、飲んでも当たり前になって旨いと思わない。
私はNYのブルーミンディールという百貨店に初めて訪問した時には、ちょうど東シナ海という全館を挙げてのイベントをやっていて、その凄さにびっくり仰天をしてしまってひたすら感動をしていたが、その後に何度訪問しても感動は生まれない。
私はカルフォルニアのディズニーランドへ初めて行った時は、スケールの大きさとエンターティメント力に感動をしたが、いま,東京ディズニーへ行ってもまったく感動はしない。
慣れてしまっているのである。
私の友人はビンテージのクルマを8台ほど持っているが慣れてしまって感動などまったくしないと言っている。
企業が顧客に感動を与えることは連続してはできない。「期待値より勝っているならそれが感動という定義が」そのことを証明している。
一回目は期待値より勝っていれば感動になるが、二回目は現状が期待値とイコールになるし、三回目は現状に慣れて期待値より現状が下位になっていく。
エンターテインメント業と一般企業の企業活動を混同してはならない。エンターテインメント業は顧客を感動させることがその目的である。そのためのシナリオを持ち、音楽や色彩や芸を駆使して顧客に感動を与えることだけに専念している。
劇団四季のキャッツを観劇するたびに、グリザベラが唄うメモリーに酔いしれ、アスパラガスが唄う劇中劇のグロールタイガーの哀れに涙をそそる。そしてオールド・デュトロノミーの歌声に精神的な高揚を感じる。観客はキャッツに感動をするのだ。
一般企業はそうはいかない。百貨店が感動と言っても顧客を感動し続ける手法は持たない。
産業機械を製造する会社が、経営理念を顧客感動としても、これを継続していくのは至難の業である。サービス二四時間体制で望む政策を打ち出しても顧客はすぐに慣れる。慣れてしまえば顧客は当たり
前になり、感動は持続しない。
だから「顧客感動」は、一般企業が実現し続けるには手法がないと長年の現場経験と、人生を長く生きたことによる智恵と照らし合わせて私は断言できる。
なぜに感動というキーワードが話題になっているかというと、一つは従来の売る技術が、構造的に崩れてきていることと、もはや革新的な商品開発やサービスの開発は、ほぼ困難という時代背景があるからである。二つは感動を実現する手法まで考えて提案をしていないことである。すべては脳内処理で終わらせて、経験値を生かした知性的な働きをしていないためである。
感動は一時的な働きである。感動はすぐに忘れる。感動を与える手法は麻薬と似ている。
つまりだんだん効かなくなって、効かするためには使用量が増えていくということである。
ついにはこれでもかと、企業収益を無視して感動追及に走り、あるいは臭さを感じる感動施策を打つようになっていく。そういう意味では顧客満足と一緒である。
どんな感動でも顧客は慣れてしまう。慣れてしまえば期待値はもっと高みに移動することになり、初回に受けた感動は、期待値より下位になる。そこで感動は消えるどころか不満足になっていく。
唯一、感動を生かす場所がある。顧客創造プロセスに感動を盛り込むことで、顧客と一気に親しくなることがある。営業マンの真摯な態度が顧客感動を呼び、一気に成約に結びつくこともある。店舗施策にも感動を添えて新客を作ることもある。こうして一気に親しくなって成約し、以降を顧客ケアでカバーする道は残されている。ここでも感動は新客になるべき人を対象にした一瞬のアクションで、一人の顧客に継続して感動を与え続けることは不可能である。
一方「顧客ケア」は、継続して実現できる手法がある。
顧客ケアは、永続した働きである。顧客ケアをしても一時的な感動は少ないかもしれない。
しかし小さなケアが継続することにより、真の信頼に裏づけされた大きな感動を生むことになる。企業が顧客感動を実現したければ顧客ケアを行なうことである。その結果LTV実現が成果として得ることができる。LTV実現は顧客感動の結果である。
感動を実現しようとするなら顧客ケアを適切に実現することである。
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