【2009.06.12配信】
営業活動とは、結局は面積なのです。面積とは間口×奥行きのことです。いままでのSFAは、効率を上げるためにBPRを中心として行ってきました。その結果として営業生産性が上がったことが論じられています。ムダや無理を排除して有効営業時間を活用することで、販売効率が上がったことで訪問件数を増やすことができるという考えです。
しかし、だからと言って訪問件数を2倍にも増やすことはできません。一日は24時間で、労働時間はせいぜい8時間から最大でも12時間です。つまり労働時間の面積は極端に変えることができませんから、訪問件数を増やせば、面積としての間口は広がりますが逆に奥行きは狭くなってきます。
さて、不況でモノが売れないために企業は営業担当者の訪問件数を増やせと指示命令を下しています。訪問件数が増えれば売上げが増える考えは高度成長時代の遺蹟です。
高度成長時代はどの企業も年率2桁で伸びていましたし、あらゆる製品は次々と新製品を出せる時代でしたから企業は新しい情報を取り込んで他社に負けを取らないように新製品を次々と購入していました。
いまの若い方には想像もつかないことですが、1990年頃、いまから19年前です。自動車の平均使用年数は3年だったのです。3年に一度買い換えていたことになります。この頃は訪問件数を増やすことはそのまま販売の拡大につながっていた時代です。プロセス管理などをしなくてもとにかく訪問して来いといえばクルマは売れていた時代です。
3年の購入頻度とは1年に換算すると0.333回です。
いまはどうでしょうか。私の試算では9年以上、10年間は使用する時代になってしまいました。
1年間平均購入頻度は0.1回です。
いまは現代文明に成熟しきっている社会ですから、営業担当者が売りに歩く商品は企業でも個人でも持っていてかつ使用している商品ばかりです。しかも使用期間は長くなって容易に買い換えない時代です。営業担当者がいまの製品はよくなっていますと力説しても、顧客は比較をしなければそんなことは分からないのです。
そんな顧客企業に対して、営業活動の質を変えずに量だけ増やしてもどれほどの意味が生まれるのでしょうか。
先号で話をしましたBMW日本一セールスの実績を持つ飯尾昭夫さんは、一日に20人のお客様とコンタクトをとるようにと言っています。顧客と会わなければ何も始まらないと言い切ります。
20人×20日で、月400人のお客様とコンタクトをとることを部下に言います。コンタクトとは電話でも、はがきでも、何でもいいのです。
ところがいまの営業に訪問件数を増やすように命令して、そのあとに営業の質をどう高めようとしているのでしょうか。
営業時間は面積だといいました。繰り返しますが労働時間の面積は訪問件数を増やしたからといってそれほど増えるものではありません。労働時間には限界があるからです。訪問件数が増えれば当然ながら奥行きは小さくなります。営業担当者は次を訪問しなければならないとする強迫観念に駆り立てられますから質の高い営業はできないのです。
企業が営業担当者に求めるもの。それは訪問件数ではなく営業の質向上です。
一つは、顧客と情の関係を構築することです。営業担当者に教育することは情の関係深化の手法です。
二つは、顧客と理の関係を構築することです。理の関係とは製品をよく知っているなと顧客に感じてもらう関係であり、自社製品を売込みではなく、「へえ!なるほどな」と、感じていただける関係のことです。そうすれば顧客企業と営業担当者に信頼関係が生まれます。
三つは、営業担当者は顧客の価値を発見することです。顧客の利害を知り、顧客が顕在・潜在で求めている価値を発見することです。顧客との関係性は他社から盗み取ることができない価値です。
その価値を使って顧客の価値を発見することが必要です。
すると、営業担当者は価値を実現するために知恵を使えるようになります。知恵を使って営業プロセスを進めることが価値の実現です。顧客企業にとっての価値の実現とは営業担当者から製品を購入することで実現ができるものです。一方、販売する企業も営業担当者も、顧客が買っていただくことで自らの価値が実現します。
いま、企業が営業担当者に指導教育することはカスタマープリンシプル活動なのです。こうして顧客に価値を実現することが企業と自分の価値を実現することであることを覚えますと人間として生き生きとしてきます。この活動こそが共生・共歓活動なのです。
BMW日本一の飯尾昭夫さんは、訪問件数を増やしてあとは確率論で買う人を追い求めその他の顧客との関係を切断する方法を否定します。飯尾さんは試乗プロセスを大切にしてクルマを磨き上げてお客様の御越しをお待ちしますといっていますが、飯尾さんの部下の人に聞くと一番うるさかったのがステップの磨き方だったそうです。お客様はクルマを運転することで言葉では言い表せないいろいろな体感を感じます。クルマがぴかぴかに磨き上げることによって自分はBMWから大事にされているのだと感じることができます。
部下の人の話しでは、お客様が試乗するためにご自宅へ持参することもあるそうですが、クルマをどの位置にどう置くのか、お客様が会社からあるいはご自宅から出てきたときにはじめてクルマに目が触れるわけですが、一番美しい位置に置いたそうです。どうしてもそんな良い場所がないときには、お客様を一番美しく見える位置にお連れして、それからいかがですかと見ていただいたそうです。
試乗をしていただいた全部の方に買っていただくのだと思ったからこそ、日本一になれたのであり、お客様が繰り返し買ってくださったのです。
うちの訪問件数対比契約率は3%だから月平均150軒訪問を200軒に増やせと命令したところで、実際に奥行きを減らさず訪問件数の間口を拡大することは継続してやれるものではなく、私に入っている情報ではこうした会社のほとんどが、逆に売上げが落ち、営業担当者は疲労感でモチベーションが下がり、その上、訪問件数を強く管理されることで営業担当者はうその報告をするようになり、SFAの品質が低下し、SFAから出てくるデータは信頼できるものではなくなると、いい事は何一つ起きていないことが明らかになっています。
例えば新しい支店を出店し、支店としてはゼロ売上げの状態で新規商圏を設定し、ここに徹底的なローラー営業を掛けて自社製品を販売していくような時期には、その商品が特徴的なものであれば、一時的に訪問件数は売上げとリンクすることはありますが、成熟社会で、成熟商圏(つまりは成熟顧客)に対して訪問件数だけを追い求めても、顧客はその商品を不満もなく使っている所へ意味なく、目的もなく訪問している事を企業は忘れてはいけないのです。
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